　異郷散策の楽しみの一つにポケモンGOも僕の場合含まれている。当地のジムを訪れて記念バッヂを取得する。旅の記念にもなるので、あとで見返して、あぁ懐かしいなって、しみじみ出来るのだ。更なる楽しみはジムに自分のポケモンを置くこと。人の行き交う街中のジムだと一日も経たず撃破されて早々に帰還してしまう。普段の置きポケモンはポケモンGOの世界で買い物に利用できるコイン稼ぎと割り切っている。しかし旅先の場合、特にそこが寂れた場所だと一日二日の防衛は当たり前。上手くいけば四、五日は粘ってくれる。人の行き来が少なく、当然ポケモンGOの使用者率も減ってくるからだ。
　今までの僕のジム防衛最長記録は去年の春の宇治散策。三室戸寺の境内の十七日と十六時間。達成したのはアローラベトベトンだった。

　これは実にスリリングだった。旅を終えて帰宅後も二週間以上に渡って、まだ頑張れるか？いつまで粘れるか？……と折に触れてチェックするのも胸ときめいた。晩酌の際に、「おぉ！まだ帰らないのか。そんなにそこは居心地いいかい？……」と三室戸寺の境内で他の五匹と居座っているベトベトンに語りかけると、俄然もう一つの世に棲息する生き物への親しみも増す。旅情をいつまでも引きずれて得した気分も味わえた。惜しむべくはあと少しでジムバッヂを防衛だけで金に昇格させることが出来た、その手前で帰還してしまったこと。しかし十八日の長きに渡って楽しませてもらったのだから、文句は言うまい。宇治散策は天気にも恵まれて、散策自体も充実した楽しいものだったが、更にポケモンGOがスリリングな事態を提供してくれて、その後の楽しみも味合わせてくれたのが嬉しかった。
　今回の赤目四十八滝散策に関してもポケモンGOのジム防衛はかなり期待するものがあった。赤目四十八滝のルートも含めて、道すがらに割と調子良く、撃破、撃破、撃破！……と計六匹のポケモンをジムに置くことが出来たからだ。折に触れてポケモンGOを開きジムを覗くと、そこに置かれているポケモンのことごとくが、殆どHPが残っていない状態。今すぐ撃破してくださいと言わんばかりだったのだ。
　更にチェックして胸ときめいたのは、置かれていたポケモンのジム防衛時間だ。どのジムのポケモンも五日六日は当たり前。一つのジムに至っては、置かれているポケモンが皆、十日以上となっている。更に驚くべきは、それでいて一つのジムに置ける上限の六匹に至っていなかったのだ。
　味方も増えない。しかし裏を返せばそれは、挑んでくる敵も少ないということだ。
　行ける！これは行けるぞ！帰宅後もかなり楽しませてもらえるぞ！……一つのジムにポケモンを置くたび、そんな風に胸もときめいた。
　結果を言えば、その六匹のうち二匹はその日のうちに戻ってきてしまった。しかも帰宅途中、まだ家に着く前の、近鉄電車に揺られている最中。どれもかなり粘ってくれそうな予感を覚えていたので、家に帰り着く前にいきなり二匹も帰還したのは正直若干ショックではあった。
　立て続けに帰還したので、恐らく一人のトレーナーに間髪入れず撃破されたのだろう。
　しかしまだ四匹残っていた。
　大丈夫。大丈夫。まだまだ楽しませてくれる筈だ。
　実際その四匹は次の日、更には翌々日と二日間防衛を続けて、久しぶりの連休を自宅でのんびり過ごす僕の時間に寄り添ってくれた。これはかなり記録を期待できるのじゃないか？観光客が多少増える土日を上手く乗り切れば、あるいは十日以上、上手く行けば三室戸寺の十七日と十六時間の記録を、どれか一匹くらいは塗り替えるのじゃなかろうか。
　懸念はあれから二日も経って、どのジムもなかなか仲間のポケモンが増えてゆかないこと。最高で三匹。一つのジムに至っては、その二日間で一匹も仲間が加入しなかったのだ。
　更なる懸念は、これから紅葉の季節になってゆくにつれ、観光客も増えて、自然、敵の数も増えてゆくこと。
　それでも、まだ四匹残っているのだ。このうち一匹くらいは長々と粘ってくれるだろう。
　二日目の夜、就寝前に最後にポケモンGOを覗き、そんなことも思ったものだ。連休がこれで終わってしまう、明日から又仕事だという一抹の寂しさ、俄かに滲む鬱を、頑張って防衛を続けている四匹が慰めてくれたのは間違いない。
　と、こ、ろ、が、だ！
　そう、ところがだ。
　翌日の朝、目覚ましのベルに起こされて、まずはとポケモンGOをチェックすると……
　え、嘘？
　思わず我が目を疑った。
　僕が眠っている間に四匹全部が帰還していたのだ。
　えー！嘘だろ？まさか一匹残らず全部か！？
　今日は土曜日で観光客も多少増えるだろう。敵に襲われ難くするため金ズリでHP回復してあげなくちゃ。そう思って開いた矢先に飛び込んできた報告。まさか眠っている間に撃破されているとは露も思っていなかった。
　記録をチェックすれば午前五時四十分代から五十分代にかけて、わずか十分にも満たない間に立て続けに撃破されている。恐らく、というか、ほぼ間違いなく、これも一人のトレーナーの仕業だろう。しかし疑問なのは、この時間帯に、赤目四十八滝の敷地内に一体どうやって入ることが出来たかだ。敷地前の入り口付近のジムに置いた二匹は兎も角、入山時間にならなければ観光客は立ち入れない敷地内のジム、そこに関しては朝方に襲われることはないと勝手に高を括っていたのだ。
　それがこのザマだ。
　この早朝の時間帯に敷地内に入って撃破できる。それを思えば、滝を手入れしているとか、清掃員とか、そういう地元の関係者が有力な線だろう。
　もしもそうなら、せっかくこの地を訪れた観光客がその後の楽しみにと置いていったのだから、せめて一匹くらいは情けで残しておいてほしかったよ……理不尽な要望であるのは承知で、そういう怨めしい気持ちもふつふつ湧いた。
　まさか四匹全部、一気に帰還するとはなぁ……。
　それが赤目四十八滝のポケモンGO我が戦績。記録の期待値かなり高かったので、落胆もひとしおだ。
　まぁいい。
　気を取り直そう。
　そう、時間はまだ残されている。年齢的に、あと十年くらいはこういう散策を折に触れて続けてゆくことが出来るだろう。というか、それを願う。
　今後の散策に記録更新の期待は残しておけばいいのだ。

　追記、

　彼の地でゲットした↓の三匹をこの日の記念ポケモンとしてBOXに残しておく。

赤目四十八滝の我がポケモンGO！