第14章 零 落
「あそこだな」小谷野が車を止めた。「えっ、あれなの?」「地図の通りだ。間違いないよ」妻の心情を推し量ってか、気の毒そうに言った。人目を避けて、遠路訪れた頼みのパワースポットは、あまりにもみずぼらしい平屋建てで、それらしい看板ひとつ、かかっていなかった。(こんなうらぶれた所の、見ず知らずの人にプライバシー中のプライバシーをさらけ出そうというのかしら。情けないにも程があるわ)。風船がしぼむように、気が萎えた。玄関を開けると、老いた男が出てきて、助手だと名乗った。くすんで、精気のない顔だった。助手とはいえ、人の人生を再生させようというのに、彼自身が陽のささない歳月に疲れ切っているように思えた。(義理にでも、もう少し覇気のある顔をしてくれないかしら。ここに来てもムダだっていう気になるじゃないの)。小谷野の溜息が、情けなさを増幅させた。一案件につき三十分、相談料五千円の鑑定が始まった。占い師は、氏名や生年月日、案件内容等を記載した紙を一読すると、細長い棒の束を操ることに陶酔し始めた。シャカ、シャカ、シャカ。箸を掌でこすり合わせて洗う音に似ていた。苦手な音だった。