津田塾大学で行っている高校生エッセイコンテストの昨年のテーマは「逆境を、創造を灯す光に」で、死の間際にある患者さんたちのセラピーに関わった精神科医エリザベス・キューブラー・ロス氏が残した英文を手がかりとした課題になっていた。それとリンクする形での特別講演として緩和ケア医・山崎章郎先生と自らも癌サバイバーである朝日新聞の記者・上野創氏の対談講演が実現したのは昨年の夏の初め頃だった。その時の対談録が本になった。

とても印象深かった山崎先生のお話の文字起こしに加えて、その場では聞き手に回っていた上野氏や津田塾大学副学長である早川先生の想い、そしてエッセイコンテストでグランプリとなった高校生のエッセイも収録され、立場や世代もまちまちな人々が、それぞれの視点から「生きること」を見つめたとても良い本になっている。

出版に携わったのは、土と森を見つめつつカフェから始まったクルミド出版。クルミドも10周年という節目の時だという。表紙の絵は、絵本作家のはらだたけひで氏（以前、キューブラー・ロスが癌の子どもの質問へお返事を書いた「ダギーへの手紙」の表紙絵も手掛けている）がウクライナを思って昨年書き下ろして下さった。この表紙絵に関する説明書きは何もなく、そのことを知る人も少ないけれど、紛れもなく祈りがこもっている。

私自身が出版に関わっていた訳ではないが、たまたま連絡係みたいな位置にいたことで、紙にこだわり、印刷にこだわり、言葉にこだわり、今のこの時であることにこだわりながら、一冊の本を造り上げていくたくさんの人達の想いを垣間見ることができ「ものづくり」と言うことを改めて考える機会となった。魂が込められるってこういうことなんだ。物への価値観が揺らいでいるこの時代にあって、私自身の意識が大きく変わる経験となった。

出来立ての本と一緒に珍しい「花びら餅」を一ついただいたので、久しぶりにお茶を立てて豊かな読者時間にしてみる。

お茶を教えていた叔母が亡くなって茶室からもずいぶん離れてしまった。お正月には「花びら餅」が必ず登場していたのを思い出す。もともとは宮中のお雑煮を模したお菓子だとのこと。だから、ゴボウ、ニンジン、お味噌餡なのかな？