症例
☑患者 小学1年生の女子児童。
☑主訴 音声チック。
☑現病歴 数か月前から、「んぐっんぐっ、ガッガッガッ。」という音を喉で鳴らすようになる。
最初は痰が絡んでいるのを出そうとして咳払いをしていると思い、「風邪かな?」「喘息かな?」ということで、小児科や呼吸器の専門病院を受診するもよくならず、原因もわからない。
日に日に喉を鳴らす仕草が頻回になり、2~3秒に1度喉を鳴らす。
そうしてこの程ようやく、これが音声チックだとわかる。 

☑愁訴 特になし。
☑経絡腹診 肺脾虚、心肝実、腎平。
☑脉状診 浮、数、虚でやや硬い。
☑比較脉診 肺脾虚、心肝実、腎平。
☑証決定 肺虚肝実証。
☑適応側の判定 女の子なので右。
☑本治法 中野てい鍼小里モデル55㍉の尻尾の方を右太淵に当て、五行程補い、垂直に徐に鍼を抜き上げ、左右圧もかけず鍼口も塞がないてい鍼の補法の手技を行う。
右太白にも同様の手技。
左関上沈めて肝の脉位に触れる邪気実に対して、左肝経を切経して最も邪の客している左中封を、てい鍼の頭の方で経に対して垂直に横切るようにサッサッサッ(神・氣・精)と3回瀉法。

☑補助療法
✅子午治療 左右の人迎を押さえて圧痛を確認すると、右の方が痛いと教えてくれたので、反対側の肝経の蠡溝をてい鍼で補う。
施鍼後、人迎の圧痛を確認すると、「痛くない」とのことなので、止め灸として無熱灸14壮して、効果を持続させるために金粒を貼付。

☑標治法 全身に気を巡らすように

  1. 頭、後頚部、肩上部は瀉的に
  2. 背中鎖骨、胸は補的に
  3. お腹は時計回りで補的に
小児はり。
時間にして全部で30秒くらい。

☑止め鍼(疳虫は合谷、発熱児は後谿、先天性疾患は陽池に行う。) 左合谷にてい鍼の頭の方でちょこんと一鍼して治療を終える。

☑セルフケア ドライヤー灸を指導して、左蠡溝に自宅で7壮施灸するように指示。

また、次のようにお願いした。
「○○ちゃんの音声チックは一切気にしないでください。もしくは慣れてください。四六時中はたで見てると気になるでしょう、イライラもするでしょう、すごくわかります。家もそうでしたから。でも気にしないでください、慣れてください。
絶対に注意したり無理やり止めたりはしないでください。
これは無意識に出るんです。
わざとじゃありません。
本人がしんどいと言うてくる以外は何もしないでください。
もし、苦しいとか辛いと言ってきたら胸を上から下にさすってあげてください。
ご主人、ご家族全員に徹底してもらうように、お母さんの方からお願いします。」
☑経過 週一で治療し、段々と改善していき、数回後にはチックが治まる。
現在継続治療中。 
経絡治療からみたチックの病因病理
  • 陰<陽
チックは不随意運動です。
無意識に出る機能亢進症です。
亢進しているわけですから、陰陽でいえば陽が勝っている状態です。
陰陽をおさらいしておきましょう。

  1. 陰とは冷やす、潤す、引き締める気(働き)で、クールダウンを担当します。
  2. 陽とは温める、乾かす、発散する気(働き)で、ヒートアップを担当します。

陽が強いのは陰が弱いからです。
陰が弱っているから、冷やせずに熱をもち、潤わせられなくて乾燥し、引き締められずに上昇拡散した陽亢が、顔面を衝くから運動性チックが出現し、咽喉を衝くから音声チックが出現します。
もう少し簡単にいうと、クールダウンできないのでヒートアップして不随意運動が止まらなくなるのです。
そう、止めないのではなくて止められないのです。
  • 落差と風邪
ヒートアップすると不随意運動が亢進するのはなぜでしょう?

子供たちは好奇心の塊です。
同じくらい不安も募ります。
好奇心と不安の落差です。

自然界でいうところの低気圧と高気圧です。
乱高下すると台風が発生します。

人体でも好奇心と不安感の落差によって台風が生じます。
これを「風邪」とします。

風邪は陽邪ですから、上昇拡散します。
また風は揺れ動きます。
頭顔面部や咽喉が不随意運動をするわけです。
さらに遊走性によって次々と場所を変えて不随意運動を繰り返します。目をパチパチさせる→鼻を動かす→口を動かす等。
  • 肝は魂を宿し無意識を主る
五臓の立場から見ると、心と肝は陽です。
心火か肝火によって陽亢します。
心は神を宿します。
肝は魂を宿します。
神は自意識を主ります。
魂は無意識を主ります。
不随意運動ですから、無意識を主る魂を宿す肝に火がついて火事になっているけど、肝腎の消火する水がないわけです。
火は陽です。
水は陰です。
陰虚陽実で肝陽が亢進しているのがチックです。
  • 病因病理
肝陽を如何に慎めるかです。
肝火を鎮火できるかです。
肝気の突き上げを抑えるかです。

  1. 肝虚証 肝陽が亢進するのは肝陰が不足しているからです。あるいは肝火が肝血を焼き払うからです。肝陰肝血を補います。
  2. 腎虚証 肝陰は腎陰に依存しています。肝血は腎水に依存しています。精血同源、肝腎同源です。腎陰腎精が不足すれば肝陰肝血も不足、肝陽肝気が亢進して肝火が燃え盛ります。あるいは肝火が腎水を焼き払います。難経によろしく75難というやつです。腎陰腎精を補います。
  3. 脾虚証 肝火は同じ中焦に在る脾に横逆し脾の津液を焼き払います。脾を補います。
  4. 肺虚証 肝気は昇り肺気は降ります。そうして気機の昇降運動を担いバランスを保っています。肝気が上焦の肺を襲うと肺気が降りれなくなります。あるいは肺気が不足すると肝気の突き上げを抑えることができなくなります。肺を補います。
  5. 心虚証 発生学より地二火を生じます。火は陽なので上に昇って膻中に玉座します。火だけだと燃え盛りすぎて火事になるので元々水が存在します。これを心陰とか心血とします。肝火が上昇して上焦の心に襲いかかると心火に着火して、心陰心血を焼き払います。心肝火旺です。心陰心血を補います。
    治療
    • 本治法
    五臓を原とする主たる変動経絡の虚実を弁え補瀉調整します。
    • 補助療法
    子午治療 チックが起こっている患部の流注より子午陰陽関係に当たる経絡を使います。
    本症例でしたら音声チックで咽喉部なので、小腸経か大腸経ですので、子午陰陽関係に当たる肝経か腎経を使いました。
    運動チックなら、ピクピクしている患部の流注から子午陰陽関係に当たる経絡を割り出してください。

    健康側の絡穴を使います。
    絡穴で取れないときは、原穴、郄穴を使います。

    大人なら比較的太目の鍼で補います。
    1. ​金鍼30番
    2. 中国鍼
    3. 古代鍼
    小児はてい鍼で十分です。

    止め灸をします。
    1. 普通に施灸するなら10壮
    2. 知熱灸なら5~7壮
    3. 無熱灸なら10~14壮
    4. セルフケアにドライヤー灸なら5~7壮
    効果を持続させるために金粒または銀粒を貼ります。
    • 標治法
    全身に気を巡らすように小児はりをします。
    各自のやり方でいいと思います。
    • 止め鍼
    脉診流経絡治療では、最後にドーゼの多少を調節するために、本治法の適応側と反対側にてい鍼の頭の方でちょこんと一鍼止め鍼をします。
    1. ​疳虫は合谷
    2. 発熱は後谿
    3. 先天性疾患は陽池
    誤治反応を最小限にし、正治ならば治療効果が上がります。

    終わりに
    案外チックのお子さんが見えられます。
    今回は音声チックでしたが、運動チックから、複雑怪奇なものまで、結構やらせていただきました。
    大人は難しいですが、子供はよく治ります。
    「小児七歳神童也.神之守.」と道書にある通りです。

    ご家族や周りの方々の協力が必要です。
    1. ​気にしない
    2. 慣れる
    これを周知徹底していただきます。

    親御さんはまだ手なずけやすいです。
    問題は、ばーばとじーじです。
    この人たちが難敵です。

    間に挟まれるお嫁さんのケアも時には必要です。
    それでなくても四六時中子供さんと一緒にいるわけですから、チックをずっと見て聞いていると、精神がおかしくなってくるようです。

    これもわかってあげる必要があります。
    だって人間ですから。

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