【患者】50歳代男性。
【現病歴】糖尿病→心筋梗塞→腎不全→人工透析に至る。来院時の症状は全身のむくみ、透析後の倦怠感脱力感、食欲不振、心臓と腎臓の手術後から便失禁がある等々。
【腹診】脾が最も虚、心が次いで虚、肝が最も実、腎が次いで虚、肺は平。
【奇経腹診】陰キョウ脉と陽キョウ脉。
【脉状診】浮・数・虚・滑。
【比較脉診】脾が最も虚、心が次いで虚、肝が最も実、腎が次いで虚、肺は平。
【証決定】脾虚証。
【適応側】男で病症に偏りがないので本来は左だが、心筋梗塞や小便不利や便失禁など気が下がっているので右とした。
※右足は気を押し上げる作用があります。 
【本治法】右の水泉に補法→右の陰陵泉に補法→右の曲沢に補法→左の水泉に補法。
【補助療法】宮脇奇経治療。左照海-右列缺+右申脈-左後谿に金銀粒を貼付。【標治法】腎兪と膀胱兪に無熱灸6壮ずつ。両水泉に銀粒貼付。
【経過】このような治療を続けて愁訴は改善、現在継続治療中。
先ず治療の解説からします。
むくみは、腎が本で肺が標、腎水を脾土が制すという生理病理から脾虚か腎虚が多いです。
もちろん肝虚の場合もあります。

心臓からくる手足のむくみは脾虚が多く、腎臓からくる全身のむくみで蛋白が下りているものは腎虚が多いです。
病症を勘案して最終的には脉証腹証で証を決めます。

どの証であれ、合水穴を選穴し本治法の前後に水泉を補います。
順序は適応側の水泉→本治法→非適応側の水泉とし、ここまでを本治法とします。
そして水泉には銀粒を貼付します。

また、透析患者は脾虚が多いです。
腎不全とは腎の津液が全くすっからかんに干しあがった病理状態ですが、腎を補っても津液は補充されません。
津液を補充するには気血生化の源である脾を動かさなければならないからだと見ています。
むくみの補助療法は、宮脇奇経治療では陰キョウ脉+陽キョウ脉がよく効きます。

標治法は腎兪・膀胱兪に施灸。

下腿の膀胱経と胆経の間を足の三焦経が巡ります。
三焦は決瀆の官ですが、決とは切り開く、瀆とは溝こです。官は役人ですから、溝を切り開いて水を流す役人と考えそのような働きがあります。
それに則り三焦の下合穴である委陽から崑崙までの硬結を処置すると水がさばけます。

腎疾全般の奇経は、照海(患側)-列缺(健側)+陥谷(患側)-合谷(患側)。
心臓疾患の奇経は、陰維脉、任脉、足厥陰脉。

診察上の注意ですが、シャントをしているので脉が診れないあるいは診にくいですが、診ようと思えば診れないことはないです。
また腹診と病症だけでも十分証を立てることができます。
治療に関しては、糖尿病の合併症などがあると、火傷をさせると大変な事態になるので透熱灸は禁忌です。
知熱灸も知覚が麻痺していると温感を感じにくいので火傷をさせる危険性が高いです。
無熱灸が重宝します。
無熱灸に関しては以下のリンクを参照してください。
透析患者さんは、元々の持病や様々な不定愁訴を持っておられます。
痛くない鍼と熱くないお灸で、より良く生きられるお手伝いをすることができます。
痛くない鍼と熱くないお灸で癒し和らげ治し防ぐことができる技術を学んでよかったなとつくづく思います。

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