仕事消滅
シンギュラリティの経済学
(鈴木貴博)
この2冊は、AIを内蔵したロボットが普及する10年後20年後の社会を見据え、人類が取るべき選択肢を示す。結論を言えば、富と仕事の公正な分配がなされなければ、多くの人々は失業したまま、AIと独占企業に支配されてしまうのは避けられない。しかしそうならないようにしようとすると、さまざまな摩擦が起ることを本書は明らかにする。新たなラッダイトの発生すら予言される。そこで、AIロボットを国有化してAIロボットに賃金を払い、それを財源にしてベーシックインカムを実現するという解決案が出される。しかしAIロボットへの賃金は、法による定義と規制が細かくなり過ぎるのと、国際的な共通ルールにならなければ意味をなさないのではないかと思われる。歴史的流れから見ると、AI技術の進展が福祉の合理化案に矮小されがちだったベーシックインカムを巡る議論を、社会全体の枠組みを変える経済政策として新たな段階に引き上げたともいえる。他にも、今後具体化するであろう重要な経済学的論点がちりばめられており、思考を刺激し整理する。ただ、富裕層が公正な分配を妨害する原因として、唐突に人間が生来欲深いものであるからと説明されるのは納得できない。経済学的な論旨で首尾一貫させてほしかった。
「人工知能が発展するということは、市場が急速に最適化されることを意味する」
こういう不穏なことを、経営コンサルタントが書く時代になったのである。AI企業に寄生する大株主の独占を協同に変え、資源分配を最適化すれば、よりましな定常社会になる道筋が描けるのでは、というところまでこの本は導いてくれる。リバタリアンを自称する著者は不本意であろうが。