2016年、この1年間は欅坂46に振り回されてきた。 それはそれは振り回された。
プロレスを見てきた・読んできた者として「AKBは新日本」「乃木坂は全日本・NOAH」だと置き換えてきた。
アントニオ猪木時代から新日本プロレスは「タイガージェットシン、高島屋前で猪木襲撃」や「小川VS橋本、負けたら引退」など過激な仕掛けで、プロレスファンのみならずプロレスに興味が無い人にまで嫌でもその情報が耳に入る状況を作ってきた。これにより世間からの注目を集めることに成功した。しかし、それにより「プロレスは胡散臭い」というイメージを定着させてきたのも事実である。
AKBも選抜総選挙やじゃんけん選抜と世間を巻きこみながらブームを生み出してきた歴史はここで書く必要はないだろう。
実際、そのブームを外から見ていて「また、しょうもないのやってらぁ」と思っている自分がいた。一方で「前田敦子1位じゃないの!?」とか「指原が1位!?」と心の中では気にしていた自分もいる。アンチさえも自分の土俵に引きずり込むアントニオ猪木の、いや秋元康の掌の上である。
「クラスで五番目に可愛い女の子」を集めたグループのAKBに対して、乃木坂46は「クラスで一番可愛い女の子」を集めた。唄う楽曲は音楽誌でも評価され、容姿・楽曲と全体的な完成度が高いグループそれが乃木坂46である。これは「アマレスで国体・オリンピックレベル」の選手をかき集め、そんな華々しいバックボーンを持つ選手達による試合内容を重視したプロレスを魅せる全日本プロレスと通ずるものがあるのではないか。ジャイアント馬場は過激な仕掛けでファンを作ることよりも、試合内容を上げることでファンは自ずとついてくると考えた。AKBと新日本が「動」のグループなら全日本と乃木坂は「静」のグループなのである。
では、欅坂46はどうなのか。1つしかない。欅坂46とは「UWF」なのである。
UWFとは前田日明・髙田延彦が設立したプロレスに新しい価値観を持ち熱狂を生み出した団体である。
新しい価値観とは一体何か。それはロープに振られても返ってこないことである。それまで「暗黙の了解としてきたもの」それを全て取り払った矛盾のないプロレス。一言で言うと「ガチ」である。関節技・打撃主体の先鋭的なスタイルで旧態のプロレスを論破していった。内容なんてどうでもいい。強さこそが正義。アントニオ猪木にもジャイアント馬場にも逆らった。自分達は新しいものを魅せる。まだ誰もやってきていない事をやる。
欅坂46はデビューシングルで旧態のアイドルがやってきたことを全て取り払った。その1つが笑わないことである。笑わないどころか睨みつけている。恋も夢も語らない。大人や社会へのレジスタンスを唄う。その世代の少女の考えるリアルな感情をこれでもかと前面にぶつけた。まさに「ガチ」である。
UWFには象徴となりえる男、前田日明がいた。欅坂46には平手友梨奈がいる。有明のライブのオープニングで平手は「有明かかってこい」と叫んだが、UWF旗揚げの際に前田が言った一言「選ばれし者の不安と恍惚二つ我にあり」の方が合っているように思えてしまう。両者の共通点はそこにいるだけで絶対的な存在感を発することが出来ること。中学生にしてそこにいるだけでグループ全体の絵を作る事が出来る彼女はもはや超人である。
欅坂46なら世間を黙らすことが出来る。ただのアイドルとは違う。これはまさに革命である。
しかし歴史を振り返るとUWFは崩壊していった。あまりにも理想が高すぎた。理想を追い求める者、妥協し生きていくことを選ぶ者。こうして団体は分裂していった。欅坂46は大丈夫か。その心配はいらない。
「サイレントマジョリティ」もあれば「手を繋いで帰ろうか」「青空が違う」もある。この幅の広さ・多様性も欅坂46の魅力である。このグループは平手だけではない。菅井もいれば渡辺梨加もいる、長濱ねるもいる。
こんなに書いてきたが、もしかすると新日本(話題性)と全日本(内容)の良いところを取ったものが欅坂46という解釈も出来るかもしれない。もう分かんない。
今年、流行語に「神ってる」が選ばれた。「神ってる」という言葉を会話に織り交ぜている人を見たことがない。そもそも「神ってる」とはどのような意味なのか。どう使うべきなのか。
言葉の発端は広島カープの鈴木誠也の3試合連続サヨナラ打である。誰もそんなシーンを見たことが無かった。鈴木誠也は自分のバットっ新たなシーンを作り出したのだ。
「神」の動詞ということは「新たな世界を構築する、まだ見たことのない景色を見せる」と置き換えることが出来るのではないだろうか。
そう考えると今年私たちは「神ってる」場面に何度も立ち会った。もちろん25年ぶりの広島カープ優勝も当てはまる。イギリスのEU離脱・トランプ大統領誕生、これも新しい景色である。
プロレスでは内藤哲也のIWGP戴冠。2年前の大阪でベビーフェイスにも関わらず大ブーイングを浴びた内藤哲也が、ロスインゴベルナブレスとなり両国に内藤大コールを起こした。ファンは内藤をただ拒否していたのではない。ずっと新たな動きを求めていたのだ。
2016年、人々は新しい景色・新たなスターを欲した。
欅坂46の登場も「神ってる」の一つにあてはまるはずだ。アイドルに新たな価値観を与えた、アイドルを超越するアイドル「ネオ・アイドル」の登場。デビュー8ヶ月での紅白出場の快挙を「神ってる」と言わずしてなんと言おう。
来年、欅坂46は私たちにどんな景色を見せてくれるのだろう。この先に何が待っているのか、どんな展開になっていくかを勝手に想像するのが一番贅沢な時間であることをプロレスを見てきた者は知っている。
#欅坂46 #プロレス