昔、大丸の寝具売り場で素敵なパジャマを見つけたことがあった…
昔といっても、おまえさんが想像するような昔じゃない…
おまえさんたちの暮らしと何も変わらん昔の話だ…
そのパジャマは黄色に緑やピンクのちいさなデルタ模様が散りばめられていてな…
かわいいもんだった…
俺は相棒に聞いた…「これかわいくない?」とな…やつはこう答えたよ…「私はこっちもいいと思うな」と…
そいつはちょっぴりレトロなさくらんぼ柄のパジャマでな…イカしてたよ…本当にイケていた…
俺たちはすっかり舞い上がり…その気になっていた…やっちまおう、ってな…買う気でいたわけだ…
若かった…
だがな、俺たちは気づいた…値札の桁数がどうもおかしいってことにな…五桁…そうだ、五桁だったんだ…そのパジャマはな…
二枚一組の値段じゃねえ…一枚で五桁だった…
俺たちは貧しかった…パジャマを普段着にすることも考えたが…そいつらはあまりにパジャマらしいパジャマだった…とても…外には着て行けなかった…
俺たちは折れたよ…買わなかったんだ…だからまあ…この話は…何でもない話だ…何も起きなかった…俺たちは何も失わず…何も得なかった…
だが後悔していないといえば嘘になる…今でも思い出すんだ…時折な…あそこであいつを買っていたら、俺の人生はどうなっていた?
無益な想像だがな…だが、そんな想像でも…この老いぼれは救われるんだ…おまえさんに分かってもらうつもりもないが…そういうもんだ…