誰かが俺に言った。
『奇跡を祈るのはおよしなさい。それは諦めを意味するのです。諦めずに最善を尽くすものにこそ、奇跡は訪れるものなのです』
う~ん、痛感。
奇跡と言えばこんな事を思い出す。
先日、小学校卒業20周年記念の同窓会があった。
俺も友人に誘われ出席することにした。
会場につくと、俺のクラスは半分くらいの出席率だった。
誘ってきた張本人の友人はと言うと、まだ来ていない・・・。
何してんだ、あいつ・・・。
実は今回の同窓会は、俺も楽しみにしていた。
なぜなら卒業のときに埋めたタイムカプセルを掘り起こすからだ。
『夢・二十年後の自分』
一体、小学生だった俺は何て書いていたのだろうか・・・。
間違っても『ハードボイルドな探偵』とは書いていないだろう・・・。
うん、書いていない気がする・・・。
同窓会は予定通りに進行され、談笑が終わると、いよいよクラスに分かれてタイムカプセルを掘り起こすことになった。
俺のクラスは体育館裏の、桜の木の下に集まった。
スコップを持った友人たちが指示された場所を威勢よく掘り出す。
みんなも楽しみにしていたらしい・・・。
しばらくして密閉された大きな筒状の物体が現れ、俺も手を貸し引き上げた。
蓋を開けると中にはぎっしりと作文用紙が詰められている。
いよいよ開封だ・・・。
俺は一枚一枚丁寧に取り出し、名前を読み上げた。
受け取った奴らは一様に笑顔で、照れながら見せ合ったりと始まった。
来ていない奴のものは学校が保管してくれるらしい。
あと残りもわずかになったところで、俺の手は止まった・・・。
それは名前の横にたった一行、こう書かれていたのが、目に留まったからだ。
『病気に勝って笑顔でみんなとこれを見る』
今でも忘れはしない・・・。
あれは俺が高校にあがってすぐの頃だ。
病院から一本の電話があった。
受話器の向こうには今にも泣き出しそうな声・・・。
「今、容態が急変して集中治療室に入りました。仲良くしてくれた君には伝えておきたくて・・・」
小学校、中学校と病におかされ、入退院を繰り返した彼の母親からの電話だった。
俺がすぐさま病院に駆けつけると、彼の両親は落胆の色を隠せずにうなだれていた。
「後はあの子の気力しだいで、奇跡が起こることを祈るぐらいしかできない状況なんだ・・・」
弱々しい父親のその言葉に、あの時の俺は、返す言葉が見当たらなかった・・・。
俺は学校に預ける分に、静かに黙ってその用紙を置いた。
いよいよ俺の作文用紙が出てきた。
俺は残りの分をさっさと読み終え、誰にも見られないようにこっそりと開いた。
『プロ野球選手か大学教授か中国雑技団になってる』
なんて欲張りな・・・。
自分の事ながら情けない・・・。
しかも野球なんてやってなかっただろ!!
勉強だってしてたか?
ましてや俺、身体固いじゃん!!
これは人には見せられない・・・。
だが、皆も大体同じらしく夢の叶った奴は一人もいないようだ・・・。
「すまん、すまん。だいぶ遅れた・・・」
俺を誘った友人が、今頃になってやってきた。
俺は謝る友人に黙って作文用紙を向けた。
「ほらよ、お前の分だ・・・」
友人は、にこやかに笑ってそれを受け取った。
俺は思った・・・。
夢を諦めなければ奇跡は起きる。
夢を叶えた奴が一人になった。