それは、私が中一の時の話。
私は、中学に入ったばかりの頃、AさんとBさんという二人のクラスメイトに、何かと目の敵にされていた。
それを全部書くと長くなるので、今回は一つだけ書きたい。
私達の中学は、下駄箱はクラスごとではなく、部活ごとにまとまっていた。
AさんとBさん、そしてもう一人の女子、Cさんが陸上部に所属していたので、彼女らは、まとまった下駄箱を使用していた。
あれは、理科の授業だった。何かの観察で外へ出た後、私も自分の吹奏楽部の下駄箱で靴を履き替えた。
ふと見ると、CさんとAさんが一つの下駄箱を一緒に使用していた。
「Cさん、Aさんと一緒の下駄箱なんだね」
私は背後にAさんがいるのにも気づかず、何気なくCさんにそう言った。
「何よ、文句あるって言うの?」
早速Aさんは、私に食ってかかった。
「しょうがないじゃないの、下駄箱足りないんだから。一緒に使っちゃいけないって言うんなら、美伊さん作ってよ」
みたいに説教を始めたAさんに、男子含め、他のクラスメイト達も何事かと私達を囲む形になった。
そこに、Bさんがやってきた。
「どうしたの?」
「私とCさんが一緒の下駄箱使ってるって、美伊さんが文句言うから」
とAさんが言うと、Bさんも一緒になって、
「いけないの、一緒に使っちゃ?」
と、これまた喧嘩腰で私に言ったので、黙っていた私もついに、
「誰もそんなこと言ってないでしょ?」
と言うと、Aさんが、
「行こ」
とBさんを促して、二人は理科室に戻った。二人だけではなく、そこにできていた人だかり全員。私だけが残った。
私はこの時、「AさんとBさんにいじめられた」という理由では、一番大泣きした。
理科室に戻っても、課題に手をつけることなく泣いていたら。
「どうした?」
と、みんなの課題を見て回っていた先生が、私に声をかけた。
私が黙ってかぶりを振っていると、同じグループの男の子が、
「なんか、下駄箱がどうのこうのって言ってたけど……」
と言ったので、私は仕方なく、今あったことを話した。
「美伊に悪気がなかったのなら気にするな」
と、先生は言って、私の席を離れた。
ほどなくBさんが、次にAさんが、謝りに来た。
先生が何かしてくれたのかは知らない。
でも、この二人の私への嫌がらせは、この日を境になくなった。
まあこの日は、「二人が私をいじめていた」という光景を、沢山のクラスメイトが見ていたから、彼女らも、そろそろまずいかと思ったのかもね。
今思うと、あの時私が泣いたのは、AさんとBさんに嫌がらせをされたからではない。
Aさんの「行こ」の一言で、クラス全員理科室に戻ってしまったことだ。
誰か一人残ってほしかった。
「気にすることないよ」
の一言が欲しかったのかもしれない。