「美伊ちゃん、もう私の家へ遊びに来ないで!」
あれは小二の時だったと思う。クラスの友達Eちゃんの家に遊びに行った翌日、Eちゃんに言われた。
Eちゃんの話のよると、Eちゃんママが、私とEちゃんにおやつをくれたのに、私がありがとうの一言を言わなかった。
だから、Eちゃんママは気を悪くして、
「あんなお行儀の悪い子、もう連れてきちゃいけません!」
と言ったらしい。
確かに、おやつのお礼を言わなかったのは、私の失態。
Eちゃんママに嫌われてしまったんだと、ショックだった。
その年だったか、次の年だったかの運動会で、クラスメイトの親御さんたちがたくさん来た。
その中に、Eちゃんママもいた。
私とEちゃんはその時並んで座っていたので、当然、Eちゃんママとも顔を合わせることになる。
でも、Eちゃんママは私が嫌いなんだから、挨拶なんてしてくれないだろうと思っていた。
ところが。
Eちゃんママは、私にも笑顔で頭を下げてくれたのだった。
〈え、この人私が嫌いなんじゃなかったの??〉
まあ、Eちゃんが私に言ったことを知らなかったのかもしれないけど。
これが私にとって、生まれて初めての「大人の世界」。
たとえ嫌いな子でも、娘の友人なら、一応笑顔で挨拶する。
子供同士なら、そんなことはしない。
それから月日が流れ、私も社会人になった。大人になった。
同期入社の中に、Sさんという女の子がいた。
Sさんは私と同じで同人活動をしていたこともあり、最初こそ仲良くしていた私達だが、
何が原因かわからないが、Sさんに嫌われてしまった。
Sさんの徹底的な無視は、凄まじいものだった。それこそ大人のすることではないと思った。いや、大人だから無視したのかに?
そこまでSさんに嫌われるようなことをしておいて、理由もわからない私が悪いのだろうけど。
ほどなく、私は別の理由で転職した。
転職しても、同期で集まる時とか、誰かが結婚する時の二次会には、私を誘ってくれる会社だった。
あれは、他の同期の子が結婚した時の二次会だったか。私も呼んでもらえた。
私達が席に着いて談笑していると、少し遅れてSさんがやってきた。
「みんな、お待たせ~~!」
Sさんはハイテンションでみんなに声をかけると、自分の席に着いた。
「Sさん、久しぶり」
私がSさんに声をかけた時の、Sさんのリアクションは、一生忘れられない。
Sさんの表情からさっと笑顔が消えて、ちょっと頷くと、またハイテンションに戻り、私などここにいないようにみんなと話し始めた。
何それ? 私は思った。
私が嫌いなら嫌いでいいから、そこまで露骨に態度に現わさないでよ! 大人のすることじゃないよ!
でも、
子供の頃のEちゃんママは、私がまだ子供だったから、態度に現わさなかったのかもしれない。
大人同士なら、また態度に現わすのかもしれない。
難しいね、大人の本音と建前って。