「美伊さんって、話しかけにくい雰囲気があるよ」
それは、若い頃ちょっとだけ勤めたイベントホールで、同僚に言われたこと。
その彼女の一言で、その前の会社と、そのまた前の会社で孤立していたわけがわかったような気がした。
特に、新卒で勤めた会社は、みんなが仕事そっちのけでワイワイ騒いでいると、
「喋ってないで仕事しろよ」
と思っていた。
でも、それって、私がお喋りの輪に入れない僻みだったのだと、次の会社でわかった。次の会社では、最初のうちはみんなと楽しくやっていたから。
最初のうちは、ということは、会社が傾いてきて、女子が私を入れて三人になった時から、雲行きが怪しくなってきた。
他の二人が、昼休みに私を抜かして二人で外へ食べに行ったり、私の知らないところで二人で呑みに行ったりしていた。
時には、二人で仕事中にメモの交換をしていた。これって、明らかに私を阻害しているじゃないの。
ちなみにこの二人のうち、一人は主婦、もう一人は婚約者がいた。
ああそう。二十代半ばにもなって、恋の相手もいない私は市民権を得られないってことね。と、ここでも僻んでいた。
そんなことが続いたのはなんでだろうと思っていたのだが、要は私が持っている、話しかけにくい雰囲気が原因だったのかと思った。
しかし!
前述の、新卒で入った会社では、頼み事はよくされた。
まだネットが普及していなかった時代、残業する人は、表に名前を手書きで書いて、次の班に回すというアナログなことをしていた。その、残業する人リストは、基本新人が班の人に訊いて回るのだが、私は三年目くらいまで、前の班の人に「お願いします」と渡された。
人との会話が大の苦手だった私には、班の人に「残業しますか」と言って回るのは、他の人には想像できないくらいの苦行だったのに。
あと、部全体の呑み会の時も、ほとんどの幹事が、班の会費を集めるのを私に頼んできた。
前に書いたかな。私は新人の時、前の席の一年上の社員さん(女性)が怖くて、それで会社に来るのが嫌だったくらい。
その彼女に、お金を出して下さいと言うのは、これも、対人恐怖を感じたことのない人には考えられない苦労だった。
ものすごく勇気を振り絞って彼女に言って、しばらく席を外して戻ってみると、現ナマのお金が私の机に載っていた。
彼女も私を嫌っていたので(そもそも彼女が私を嫌っていたから、私は彼女が怖かったのだ)、なるべく私と接しないように、私の離席を狙ってお金を置いたというのは明らかだった。

話がそれてしまったが。
知らない人にも、よく声をかけられる。
こういう性格なので、一人で歩いていることも原因だろう。
道を尋ねられたり、宗教の勧誘など、そのテの声掛けは私がダントツ多い。
どんなに人が多い時でも「すみませ~ん」と私に寄ってくる人は少なくない。
行列で何人も、何十人も並んでいる時に「〇〇はこの列ですか?」と訊いてくる人がいるとする。彼の目は私を見ている。

あと、このことは前にも書いたかに。
特急の自由席に乗っている時。
窓側の席が埋め尽くされた頃に乗ってくるお客さんは、ほぼ決まって、私に
「ここいいですか?」
と、私の隣に座る。
三十人ちょいのお客さんが二人掛けの席を独占しているのに、何故みんな、隣に座るのに私を選択するのだろう。
私は話しかけにくいんじゃないのか?話しかけ易いのか?
つまりは、「声をかけやすい」けど「話しかけにくい」ってところか。