今回は、始めてセクハラの話を書きます。
セクハラに入るのかどうかはわからないけど……。

 

前の会社では、社長が私と二人だけで呑みに行きたがった。

 

最初は、社員がみんな駐在に出払っちゃって、数少ない本社勤務者も休みを取った日。
つまり、社長と二人きりだった。
その日はちょうど金曜日で。
社長に言われた。
「今日、何か予定ある? 呑みに行かない?」
って。

 

それから、私が社外へ駐在になっても、メールで、
「呑みに行きませんか?」
と来た。
最初は適当に理由付けて断っていたんだけど、社長もなかなか執拗に誘ってきて。
ついに私が折れたというわけ。
この時、私は思った。
待ち合わせの場所に現れた社長が、最初になんと言うかで、どうして私を誘うのかわかる。
「お疲れ様です」
だったら、まあ単なる上司と部下として呑みたいだけなんだと。
「ごめん、待った?」
だったら、社長は私に下心がある。
そう思って待っていたら、社長が現れて言った。
「ごめん、待った?」
ちと失望した。

 

家族に相談しても、
「そんなに気にすることないんじゃないの?」
って言うし。
友達は友達で、
「断ればいいのに」
って言うし。

 

テレホンサービスの相談にもかけたら、
「断ったらどうなの? このまま男と女の関係になってもいいの?」
と、威圧的に言われただけだった。
この窓口の態度ってどうよ、と、今でも思う。
彼女が言うことには。
「二人だけで呑むのは嫌ですってはっきり言いなさい。その人は妻子持ちなんでしょ?」
とのことだった。
確かに社長には妻子がいたのだが、断ったら気まずくなるんじゃないかと思って、断れなかった。
中には、
「美伊ももういい年なんだから、男の人と間違いの一つや二つあったっていいんじゃない?」
なんて、ひどい言葉を浴びせた人もいた。
結局、本当に心配してくれたのは、数人の友人と、心療内科のドクターだけだった。

 

一年、いや二年かな? そんな感じで、たまに二人で居酒屋で呑む生活をしていて。

 

ある日、社長にとってはやばいこと、私にとってはラッキーなことが待っていた。

二人で呑んでいたら、取引先の人と、同じ店でばったり会ってしまったのね。
ちょうど呑み終わって、会計のところで鉢合わせしてしまって。
社長はすっかり慌ててしまって。
「他にも来てたんだけど、先に帰っちゃって」
とかなんとか言っていたので、社長も私と二人だけで呑むことは、いいことだとは思っていなかったらしい。

 

それ以来、社長は私を誘わなくなった。

 

社長が私を呑みに誘わなくなった理由は、実はもう一つあると、今になって思う。
社長の前に社長だった人が亡くなって、彼が社長になったのだけど。
社長は、自分の次にエライ人、つまりナンバー2を本社に呼び戻したのね。
(ナンバー2は、それまで東京だかどこかにいて)

それから、私もしばらく東京勤務になって。
四年ぶりに本社に戻ってきたら、社長は社長室にこもりっきりになって、ナンバー2がぶいぶい言わせていた。
このナンバー2が、私のことをあまり気に入っていなかった。
なので、ナンバー2の毒で、社長にとっての私は、「いい部下」ではなくなってしまったらしい。

 

最後に。
社長が同年代の独身の男性だったら問題なかったかって?
それもないね。
私は言い寄ってくる男の人を、全て悪い虫と判断していたから。
どうしてそんな風に思うようになったのかは、私の小説やエッセイを全部読めば、おのずとわかることです。