夕日に赤く照らされた屋上で、風の音だけが聞こえていた。

・・・・静かに、私は口を開いた。

「・・・・・・私ね、雄哉のこと好きだったよ」

ゆっくりと、話し始める。

・・・・・正直言うと、もう、雄哉は私の返事なんか分かってると思う。

・・・・・でも、それでも伝えたい気持ちがあるから・・・・・・
・・・・ちゃんと、きっぱりけじめをつけてから、大輝に気持ちを伝えたいから・・・・・

もう一度、自分の意志を固めて、雄哉の目を真っ直ぐと見た。

「・・・・・中学の時、雄哉がいつも傍にいてくれて、
ずっと気付けなかった気持ちが、やっと分かって・・・・・
雄哉ともう会えないって思ったときは、
本当に心が死んだみたいだった」

自分で話してく内に、雄哉との思い出が頭の中に流れていく。

溢れだしそうな色々な気持ちを、胸の中で押し留めながら、
話を続けた。

「そんな辛い時、私を明るくしてくれたのが大輝なの」

———その声は、一際屋上によく響いた明るい声だった。

「もう・・・・・言葉とかで言い切れないほど、

たくさん『ありがとう』って伝えたいことがあって・・・・
友達の好きが、一緒にいる内に段々

違う気持ちが生まれてきて・・・・・」


一度口を閉じ深呼吸をして、よく通る声で

一番伝えたかった事を伝えた。


「――私、大輝のことが好きなの――――」


ギュッと目をつぶり、雄哉の言葉を待った。


しばらく、沈黙が続き、どうしたのかと目をうっすら開けた。


「・・・・・・・・・ん」

「・・・・・・え?」

雄哉は、やわらかく笑い、私のことを見つめた。


「・・・・・うん、沙良の気持ちは分かったよ」


「・・・・・・・・うん・・・・・・・・

こたえられなくて、ごめん・・・・・・」

ズキズキと胸が痛む。

けれど、ずっと心の底にあった黒いわだかまりは、

すーっと消え去っていた。


はー、と溜め息をつき、雄哉はさっきと打って変わって、軽い口調で言った。

「やーっぱダメだったかぁ~。
ほんとアイツむかつくよなー」

ハハッと少し笑ってから、急に重い口調になった。

「・・・・・じゃあさ、やっぱ沙良は大輝と付き合うんだろ?」

ドクン———

「あ・・・・えと・・・・・・・
それは、分かんない・・・・・かも」

「は?」

雄哉が、あらか様に理解できないといったような顔をした。


「あ、えっとね・・・・・・実は・・・・・・」


さっき、華菜が話してくれたことを、全部雄哉に伝えた。

「・・・・・って訳なんだけど・・・・・」

「っは?・・・ちょ・・・マジかよ」

顔に疑念の色が浮かぶ。

「う・・・・・うん」

返事をして、無言の数秒後、雄哉がトンッと背中を押した。

「雄哉?」

「バカかお前っ!早く会いに行けよ!!」

「え・・・?」

雄哉がすごい見幕で怒鳴った。
戸惑っている私を無視して、グイグイと扉の方に押す。

「中途半端な別れ方すんなよ!
あの時みたいに後悔したら許さねぇかんな!!」

私と目を合わさず、ほんのり赤くなっている顔を下に向けた。


「—————うんっ」

力強くうなずいて、ドアノブに手をかける。

扉を開き一度振り返った。

「——————雄哉、ありがと。
大好きだよっ———」

バタンッ

扉が閉まり、また、屋上に静けさが戻った。

「・・・・・バカ沙良・・・・・
んなの知ってるっつーの・・・」

少し赤くなった頬を隠すように、顔の前に腕を持ち上げ、

またグラウンドを見下ろしたのだった。






あの決意から二週間後・・・・・・

「・・・・・たいして変わってないんですけど・・・・・・・」

うわ————ん!

いっぱいいっぱい話しかけたり、一緒にいたり、きっかけ作ったのに・・・・・

ぜぇーーーんぶ不発っ!!!

無視されるし、スルーされるし、目すらまだ合わせられない!!!!

もー心がくじけそうです・・・

せめて明日からの連休までには・・・・って思ってたんだけど・・・・・

いないんだよねぇー今日。

あーもー何休んでんだ、あんにゃろ~~~~

ドンッ!

目の前にかばんが突然現れた。
びっくりして上を見上げる。

「なぁにブツブツ言ってんの沙良。」

美柚が呆れ顔で私を見ていた。

「だってさ~大輝がさぁ~・・・・・・」

グチグチと美柚にここ二週間分の愚痴を思いっきり吐いた。

「あ~、そりゃ~ひどいねぇ。」

「でしょーーーーー!!!
そりゃ私が悪いけど、そこまで無視しなくたってねぇ!?」

同意されて一気に捲し立てる。

「あーはいはい。
・・・・・でも、ちょっとここまでいくと何か理由があるとしか思えなくない?」

ピタッ・・・・・

「理由・・・・?」

考えてもなかったことを言われ、少し動揺する。

「うん。だってさすがにおかしいよ。
三週間前はあんなに沙良にベッタリだったのに、
そんな1日2日で変わっちゃうなんて・・・・・」

—————私だってそれには引っ掛かってた。
大輝の気持ちがそんな急激に変わるわけない。

でも———理由が見つからない。

私をそこまで遠ざける理由が—————

「・・・・・ま。そうじゃなかったらホントに沙良のこと
大っ嫌いになっちゃったってことだよね。」

グサァッ!

「み・・・・美柚・・・・・ストレートすぎる・・・・・」

「そう?私素直だからさー。
・・・・・あ、あと雄哉には返事出したんでしょ?」

「—————え?」

冷や汗が一気に吹き出す。

「・・・・あんた、まさかまだ返事・・・・・・?」

美柚が苦笑いしながら聞く。

「あ・・・・あーっと、わざとって訳じゃなくって・・・・・
大輝のことで頭いっぱいいっぱいになっちゃって・・・・・
で、それで・・・・・」

「忘れてた、と。」

「う・・・・・・」

しゅーんと途端に縮こまる。

「バッッカじゃないの?決めたらさっさと行動しなよ。
ほら、今すぐにでもさぁ!!」

「えぇ!?・・・・ちょ、ちょっとそれは・・・・・」

ガラッ!!

「沙良ッ・・・・・!!」

二人揃ってドアの方を見ると、華菜と健が息を切らして立っていた。

「ど・・・・・どしたの、二人とも・・・・」

動揺していると、華菜が私の肩をガッと掴んだ。

「沙良。落ち着いて聞いてよ。」

華菜が一呼吸おく。
そして真剣な面持ちで口を開いた。

「大輝が・・・・・・北海道に引っ越すんだって・・・・っ!」

————ドクン————

一瞬、何も考えられなくなった。

美柚も意味が分からないらしく、華菜と私の間に入る。

「ちょ・・・・ちょっと待ってよ、華菜、健。
それ、本当なの?」

「本当だよ。間違いない。
さっき廊下で先生達が話してるの聞いたんだもん。」

それでも美柚は信じられないみたいで反論する。

「で、でも、聞き間違いってことも・・・・・」

「ありえないよ。だって先生にちゃんと問い詰めたし。

・・・・・大輝ね。今日北海道に
引っ越すことずっと内緒にしてたんだって。」

「何で内緒に?」

「先生いわく、みんなの悲しい顔が見たくなかったんだって。
それで先生に内緒にしてほしいって頼んで・・・・・
ホント、大輝らしいよね・・・・・・」

「そんな・・・・・・・・・」

美柚がショックを受ける。

私は、耳から入ってくる声が遠くなるような気がした。

夢かな、とか、冗談かな、とか。
何も、信じられなかった。

だってさ、大輝は嘘なんかつける人じゃない。
嘘をついてまで、そんなに悲しむみんなを見たくなかった・・・・・?

そんなこと・・・・・

「沙良・・・・・大丈夫?」

みんなが私を見つめる。

ハッと、現実に引き戻された。

・・・・・・ふっと、最初に思ったこと。

「————伝えなきゃ」

ガタンッ!

「「沙良!?」」

みんなが呼ぶのもお構い無しに、走った。

ただただ、ある人を捜して。

校内中を走り回り、最後に着いた場所・・・・・・

「・・・・・・雄哉」

汗で霞む目で、雄哉の姿が見えた。

「どうした?そんなに急いで」

少し驚いてるような目で私を見つめる。

「どうしても、すぐに伝えたいことがあって・・・・・・」

いきなり過ぎて、わからないし、信じきれない。
けど、今伝えたいことを伝えるとするなら—————

「————告白の返事、まだだったよね」

雄哉の顔が即座に真面目になる。

「・・・・・ああ、まだだったな」

————だから、大輝に伝える前に、
あなたに伝えなくちゃいけないことがある。




どっちが大切だとか、どっちと一緒にいたいとか、どっちを傷つけたくないだとか、決まらないのは当然だった。

だってどっちも大切だし、一緒に居たいし、傷つけたくない。

———でも、だからって同じなわけじゃない。

あの人といるとドキドキしながらも嬉しい。
あの人の笑顔を見ると、心が暖かくなって、こっちまで笑ってしまう。
あの人の悲しい顔を見ると、傍にいて、守りいたいって思う。
あの人の冷たい背中をみると、心が死んでしまったみたい。

・・・・・・・・この気持ちは、全部恋でしょう?

友達には感じない気持ち。

今、この気持ちを一番に伝えたい人が、私の好きな人。

大輝————!

必死に大輝を捜す。
息が切れても走っていると、大輝の声がかすかに聞こえた。

「————大輝!?」

廊下の角を曲がり、顔を上げた。

そこには、真面目な顔で、先生と大輝が話し合っていた。

・・・・・何?

そう思った瞬間、大輝が私に気付いた。

「・・・・・・先生。場所を変えましょう」

は?

「ちょ・・・・ちょっと待ってよ!!」

私の大声に、先生は振り向いたが、大輝は聞こえなかったように無視して歩く。

先生も不自然な大輝の行動に気付き、声をかけた。

「お・・・・おい。呼ばれてるが・・・・・・」

すると大輝がやっと止まって、先生の方を向いた。

「この話の方が大切だと思うんですけど・・・・・
それに誰にも聞かれたくないですし・・・・」

「だ・・・・だが・・・・・」

先生が何か言おうとしたが、大輝は無視してスタスタと歩いていく。

気まずそうな顔をして、軽く私に頭を下げてから、大輝を追いかけていった。

・・・・・私も大輝を追いかけたかった。
だけど、足が動かない。

どうしてそこまで避けようとするのか分からない。
少しくらい、話してくれたっていいのに・・・・・・
本当に、私のこと嫌いになってしまったの?

目から涙がこぼれそうになる。
腕で乱暴に涙をぬぐった。

弱気になっちゃダメ。
気持ちを伝えるって決めたんだ。

大輝が私のこと嫌いになったのなら、大輝が私の気持ちを

動かしてくれたように、私が大輝の気持ちを動かせばいい。

「・・・・・よしっ!
もっかい好きにならせてやるっ!!」

グッと手を握りしめて、グンと上を向いた。


もうタイムリミットは、刻一刻と無くなっているのにも気付かないで——————