耳馴染みのない声が私の名前を呼び続けていた。
遠くから聞こえた声がだんだん近くなってきた時、
私は激痛の中目を覚ました。

一瞬何が起こったか理解出来ず、
私をのぞき込む人は誰なのか、
今ここはどこなのか全くわからなかった。

しかし、ぼやけた頭が戻ってきた時、
やっと自分の状況を把握した。

「…私はまだ人生を続けないといけないのか。」


そう思った。
本気で人生に別れを告げたのに、
自分はまだ生きている。
寧ろ倒れるという事は、状況は悪くなっていると思った。

立ったまま気を失った為、
顎から地面に落ちた。
目を覚ました時は、激痛と血まみれだった。
どうして血まみれかは分からなかったが、
痺れで息が出来なくなるなんて、病気だと思った。
どんどん状況や体調、何もかもが悪くなっていっているのに、
病気にまでなってしまった。
でもまだ命は続いている。
正直複雑な気持ちだった。

子供達とは救急車の中で再会した。
子供達は私を見るなり泣き始めた。
子供に申し訳なさ過ぎて泣けてきた。

「ごめんね…」
 

とだけ、つぶやいた。
娘は溢れる涙の中頷き、息子は茫然と座っていた。

病名は「脳腫瘍」

大病だと思った。
目の前が真っ暗になり、自分がこれから先どう生きるのか、
寧ろ生きれないのか、全く分からなかった。
助かった命だと思ったが、
重い病名が自分の生きる先を見えなくしてしまった。

親には知られなくない

そう思った私は、主人に親へは連絡しないで欲しいと言った。
が、診断もされていないうちから私の親と義両親を呼んでいた。

せめて相談して欲しかった…

いつも思う事が、またここでも繰り返された。

私の両親がついた時、母親が泣くのを見て、
私はなんて酷い娘なんだと思った。

病気も辛い
泣く親を見るのはもっと辛い
不安な子供達を見るのは何よりも心が痛んだ

凄い病名が付いたので入院するのかと思ったら、
点滴が終わったら退院という事で、
たった5時間ほどで病院を出た。

病気が分かったショック
いつまで生きれるのか分からない不安
親を泣かせてしまった自責の念
子供達に辛い思いをさせてしまった事

また主人も泣いており、
自分のせいで主人も泣かせてしまった
と、思った。

色んなものが心に溢れた。

暫くはベッドから起き上がる気力もなかった。
病気の症状より、「病気」が分かった事が辛かった。
主人が会社を休んでくれ、家事をしてくれた。

…やっぱり優しい人。優秀な人。
私が辛いなんて思うのは、やはり自分がおかしい。
その上、病気になって迷惑をかけてしまった。

長年そう思い続けてきた為、
主人は優しい人と思い込みたかった。
ここでも素直に自分の心に寄り添う事は出来なかった。
主人だけでなく、会社にも迷惑を掛けてしまい、
私の存在って何だろう…とぼんやり天井を見ながら思った。

でも主人は家事以外は、PCを開いて仕事をしており、
私の所へ来る事は、殆どなかった。

そればかりか、数日経った時、

「サイドビジネスを教えてくれてる先生が、
事情を話したら物販ビジネスを教えてくれるって!
来週にでも日にちを合わせてSkypeで教えて貰って!」


と言ってきた。
私は耳を疑った。

え、私脳腫瘍って言われて…
辛くて泣いてて…
それでも子供達に元気を毎日貰って、
毎日少しずつ元気になっているのに、
この人は何を言っているのだろう…
やはり私は家政婦以上で、
病気でも働いてお金を稼げって事なんだ…
病気が分かって、

さすがに気持ちに寄り添ってくれると思ったけど、

違うかったんだ…
期待した自分がバカだったんだな…

病気以上のショックが渦巻いた。
自分の考えが、状況が合っているのかさえ分からなくなった。

チャンスだとは思ったが、先生には申し訳ないが、
体調が悪いからとお断りさせて頂いた。
しかし、自分がしていたビジネスはこんな状態でも続けた。
新しいビジネスこそ始める事が出来なかったが、
主人が求めている事は、私がビジネスを続ける事。
それを続ける事で自分の存在を認められているのだと思った。

毎日諦めていた命に明日が来る度に勇気づけられ、
まだ頂いている命に感謝した。

そして、絶対に治そうと思った。
 

 

ここまで読んでくれてありがとうございます。
読んで下さった方が、素敵な一日を過ごせる様願っております。