主人の義母の話は、
何度か紹介した事があります。

とてもパワフルな人で、
明るく、一緒にいて楽しい人。
友達の様にいつも寄り添ってくれる、

有難い存在である。

お義母さんは、長年みて頂いている先生がいる。
その先生は、
スピリチャルといえばこの人!と、言われている人や
人間国宝の方、
様々な方をみている様。

その先生がいかに素晴らしいのか、さんざん説明された挙句、

「一度みて貰いなさい!子供達は、私が見てるから!」

と、言われた。

結婚して数年だった私は、
自分の人生は、主人の人生の陰にある、
と、思っていた時期だったので、
みて貰う事などないと思っていた。
しかし、日にちが合ってしまい、行く事になってしまった。

主人と二人で先生のお宅を伺った。
初めて会う先生は、優しそうなおじいちゃん。
しかし、瞳の奥が、私の何かを見ている様な目をしていた。

会うと同時に、彼は口を開いた。

「春ちゃん。
春ちゃんはね、お姉さん、お兄さんに感謝が足りんのや。」

と。
私はまだ挨拶もしておらず、勿論兄弟の話もしていない。
彼には、みえているのか…と思わざる得ない気持ちになった。

「ま、立ち話もなんやから座って。」

部屋に通されて、先生は堰を切った様に話し始めた。
私を鑑定すると、誰に対しても感謝が足りていないと。

私は三人兄弟の末っ子。
上の二人は年子で、少し離れて私が生まれた。
実質一人っ子の様に育てられた私。
先生曰く、私が兄弟の徳を全て持っていってしまったという。
だから何をしても上手くいくと。

私は私なりに苦労や、悲しい事を乗り越えきたつもりだった。
しかし、そんな事は比にならない良いものを貰っている、
と言われた。

生きているだけでも、
ご先祖様や家族から頂いた命に感謝が必要なのに、
私は感謝もなく、暮らしていると。
その通りだと気づいていたけど、
特に何をする事もなく、日々の生活に追われた。

八年経って、再度訪れる機会が来た。
今回は脳腫瘍が発覚してからだった。

先生のお宅へ行くと、

「春ちゃん、大変やったみたいやね。
お義母さんから聞いたよ。
でもね、まだね、感謝が足りないんだよ。
お兄さんお姉さんだけでない。
親や祖父母、ご先祖様、子供、友達。

知り合い程度だとしても、
今まで嫌な思いをさせた人もいるだろうね。
でもねその人達は、
春ちゃんが人生の中で勉強しないといけないものを、
わざわざ教えに来てくれている。
悪役を買って出てくれているんだよ。
全ての物事は必然。
その中でいかに学べるかだよ。

脳腫瘍は、学びを教えに来てくれているんだよ。
でもね、春ちゃんが脳腫瘍になって良かったと思う。
もし、春ちゃんが脳腫瘍にならなかったら、
子供達に出ただろうね。

感謝しなさい。
そして、奢り高ぶらず、謙虚に生きなさい。
それが、脳腫瘍からのメッセージだよ。」

頭を鈍器で殴られた様な衝撃だった。
私が感謝しない事によって、
もし子供達に脳腫瘍が出来ていたら…
そんな辛い事はなかったと思う。

確かに、私には感謝がなかった。
小さい頃から、守ってくれるのは母だけだった。
母以外は、敵だった。
なんで私の家族は、普通じゃないんだろう、
常にそう思っていた。
祖母は、幼稚園に通っている程幼い私に、
「お前はたまたま出来た子だ。」
という様な事を平気で言う人だった。

姉も兄も私を邪魔ものにする事が多かった。
年齢差があるので、仕方がないと思う。
しかし、小さい時は、悲しかった。
身体も年齢も小さく、口でも反論する事が出来なかった。

父のお姉さん達はいつも母を虐めていた。
しかし父は全く知らんふり。
母が歯を食いしばって泣いていた。
どんな事があっても、この頃は母の涙を見た事がなかったのに、
家族ではないのか、人間の心はないのか、
と思った。

様々な悲しみはいつも母がいてくれたから、
消えていたが、家族への不信感はしっかり残った。

口論、祖父母の殴り合い、悪態、痴呆症、病気、不倫…
家族に感謝するなんてありえなかった。
寧ろ人間ってこんなに醜いのか、
と思わされた事が多かった。
私は他の家族が、心から羨ましかった。

先生は言った。

「どの人がいなくても、あなたは生まれなかった。
あなたが生まれたのは、皆のお陰だよ。
兄弟も先に生まれて、もっと大変な思いをしてきた。
兄弟達に守られてきた事もあるんだよ。

あなたがあなたでいるのは、全て皆のお陰だよ。
だから感謝しなさい。」

確かにその通りだと思った。
姉や兄から、ぞんざいな扱いを受けてきた。
しかし、兄は小さい時に一緒に遊んでくれたなぁ、
姉は、私のアメリカでの卒業式にわざわざ来てくれたなぁ、
と、淡い思い出が蘇ってきた。

既にほぼ疎遠になっている兄弟。
今から感謝の気持ちを伝えるにも、
明らかに不自然である。
先生に質問した。

「私は今まで自分一人で何でも出来ている!
と自信がありました。
だから感謝の気持ちも、誰に対しても全く湧いてこなかった。
寧ろ私の足を引っ張って、と怒りさえ湧いていました。
そんな態度をずっとしていたと思います。

しかし、それは間違いで、
自分が今日まで生きて来れたのは、
私に関わって下さった人達がいたからですね。
母や父、兄弟、友達、知人、
それからご先祖様のお陰だと思いました。

感謝の気持ちを伝えたいと思うのですが、
姉と兄とは疎遠になっているのに、いきなり、
『今までありがとう!』と言うのも、
頭がおかしくなったと思われそうですね…」

すると先生は言った。

「直接言わなくてもいいんだよ。
念じていれば、伝わるから。
寝る前に
『至らない妹でごめんね。
嫌な思いもさせたね。
お姉ちゃん、お兄ちゃんがいてくれたから、
私はここまで生きて来れました。
本当にありがとう。』
と、言ってごらん。

また、子供、ご主人、親、ご先祖様、友人、知人にも…
出会った皆さんに感謝の気持ちを同じ要領で述べてごらん。
必ず念は届くからね。」

その晩、寝る前に、
思いつく人、全てに謝り、感謝した。
すると、心に溜まっていたものが、
次々と自分の気持ちが沸き上がってきた。

人に嫌な気持ちをさせた事、
嫌だった事、悲しかった事、
泣き叫びたくても、怖くても耐えてきた事…

次から次へ、その存在を認めて欲しいかの様に、
沸き上がってくるのだった。

一つ一つ、汲み取り、

「そうだね、辛かったね。
ずっと心の底に解決しないまま隠してきてごめんね。
もう大丈夫だよ、大丈夫。」

と、自分の気持ちをなだめてあげた。
一つ一つ気持ちを綺麗にしていく。
その度に、熱い涙がとめどなく流れるのだった。

私はこんな気持ちをずっとずっと押し込めてきたんだ。
自分の気持ちに気付く機会を、頂けたんだな。」

周りに対しては勿論、
自分に対しても申し訳ない気持ちがいっぱいになった。

毎日、毎日、寝る前に、
色んな気持ちを処理していく。
遠い昔の忘れてしまっていた気持ちも、
待ってましたとばかりに、浮かんでくる。

生きている事って素晴らしいな。
人々に出会えるって本当に感謝だな。

そう思える様になった時、
誰に対しても感謝の気持ちしか湧かなくなった。
自分を大切に出来る様になった。

全てに対して感謝出来る様になった時、
心が愛で満たされた。
死への恐怖など感じる隙間もなくなってしまった。
ただただ生きている事が素晴らし過ぎるから。

すると脳腫瘍はどこかへ行ってしまった。

全ての事は必然であり、
自分の今の人生は自分が作り上げてきたものである。
自分の道が間違っていたら、
どこからかちゃんとサインを頂ける様になっているのだな、
と思った。