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つれづれ映画ぐさ

忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

犬は1万年以上前から人間と生活を共にしていると言う。狩猟犬や番犬として始まり、段々とペットとしても飼われる様になっていき、現在では様々な場面で人間の役に立っている。その忠実さや利口さは、到底筆者なんぞでは足元にも及びません。

 

そんな利口で頼もしく忠実な「人類の旧友」が襲ってきたら、サメや熊が襲って来るよりも身近な動物だけに余計怖いんじゃなかろうか?と、考えたプロデューサー達が居た。そこで制作されたのがデヴィッド・マッカラム主演の『ドッグ』#1 や、ジョー・ドン・ベイカー主演の『怒りの群れ』#2 等の犬を題材にした「動物パニック物」である。

 

この二作に負けじと(?)制作されたのが今回紹介する『ドラキュラ・ゾルタン』( 『 Dracula's Dog 』 1977年 アメリカ )であります。まぁ、実際の所、三作とも同年に公開に至っているので、ほぼ同時期に流行に乗った企画が立てられたと言うだけなんだけどね。但し、本作だけは少し違った。犬だけじゃヌルイとでも思ったのか、はたまた、他の要素を掛け合わせれば、相乗効果で二倍どころか三倍くらいの怖さになって、売り上げもガッポガッポじゃね?などと考えたのか、流行りの「動物パニック物」に往年の怪奇映画のスター「ドラキュラ」を組み合わせてみました、と言うコラボ企画となっています。「ゾルタン」はドラキュラの飼い犬の名前です。ヨーロッパでは割とメジャーな飼い犬の名前だとか。

 

ゾルタン君は勿論吸血犬です。しかし、ドラキュラが飼い犬をけしかけて夜道を行く人を襲わせる、その様な映画ではありません。では、簡単に内容を紹介しましょう。

 

物語は現代のルーマニアから始まります。ルーマニア軍の一部隊が、大砲を使った演習中、埋もれていた地下納骨堂への入り口を発見、そこに在ったのはドラキュラ伯爵家の墓だった。一兵士を見張りに立て、専門家の到着を待つ事にしたが、夜中に起こった地震の為に墓の蓋が外れ、収められていた棺が外に飛び出してしまう。壁に正方形の墓碑が有り、開けると棺が収まっていると言う造りである。死体安置所みたいな感じ。

 

その棺の蓋を開けた見張りの兵士が、事も有ろうに杭を打ち込まれた何か(ボロ布で覆われていたゾルタン君)の杭を抜いてしまうのである。幾ら無記名の墓碑だろうとも、ドラキュラ家の棺の中で杭を打ち込まれてるんだから、吸血鬼だって分かりそうなものである。しかも本場ルーマニアである。しっかりして欲しいものである。勿論、見張り役は速攻でゾルタン君に噛み殺されます。次にゾルタン君は、ドラキュラ伯爵の従者ファイト・シュミットの杭を抜いて甦らせます。元々はシュミットの飼い犬だったのである。

 

シュミットは、主人であるイゴール・ドラキュラの墓碑を確認すると、直ぐにゾルタン君と次の主人を探しに納骨堂を後にします。ドライです。

 

翌日到着した専門家のブランコによれば、イゴールの直系の子孫がアメリカに居るとか。それを立ち聞きしたシュミットは、直系の子孫を、次なる主人=新たなドラキュラ伯爵とするべく、ゾルタン君と共にアメリカに渡るのである。

 

と、こんな感じで始まります。

 

ここで舞台はアメリカ、ロサンゼルスに移ります。そしてこの直系の子孫と言うのが、マイケル・ドレイクなる人物。家族を伴いキャンピングカーで休暇に出掛けます。その目的地のすぐ傍にシュミット、ゾルタンコンビが早々に現れます。展開が早いです。ブランコも遅れて到着します。

 

このマイケル・ドレイクなる人物、「普通の人間」の様である。吸血鬼が持つ特殊能力を持たないが、吸血鬼独自の弱点も持ち合わせていない様である。日光も十字架も全く平気だし、ニンニクなんて寧ろ好きそうである(偏見)。直系の子孫と言う事だけど、どの位昔に作った子供の子孫なのだろうか?このイゴール、墓碑には「1680~1927」とか書いてあった。舞台設定が制作年と同じくらいとすると、50年前には死んでいるので、まず息子ではない。マイケルの見た目からいっても40歳くらいだろう。子供もせいぜい10歳くらいだ。

 

せいぜい孫くらいだろうか?ゾルタンを連れているイゴールの写真をマイケルが持っている。その写真は、写真の発明時期から考えて、古くても1800年代の半ばくらい、見た感じもっと新しい物と思われる。

 

マイケルの祖先は、1864年ルーマニアの奴隷制の終焉後に始まった「カルデラリの大侵攻」1 と呼ばれるジプシーの大移動のドサクサに紛れ、1870年辺りにジプシー等と共にアメリカに渡ったのではないだろうか。ブラム・ストーカーの小説でもジプシーを手下として使っていたと言う事なので、まぁそう言う事にしておこう。

 

1883年に死んでいるミハイルと言う人物(吸血鬼)の墓碑もすぐそばに在った。このミハイルがマイケルの祖父ではあるまいか。ミハイルの子供が渡米して、出来た子供がマイケル。有るかも。しかし、血が薄くなるの早くね?吸血鬼以外との間に出来た子供は普通の人間になっちゃうの?う~ん。大天使ミカエルに由来した名前なんて付けるからか?ミカエルの浄化作用恐るべしなのか?などと、全くドウデモイイ様な事を長々と考察してしまいました。申し訳ございません。

 

おっとそう言えば、シュミット、ゾルタン組はどの様にアメリカに渡って来たのか?と言う疑問を抱くかもしれませんが、答えは船です。まぁ当たり前と言えば当たり前なんだけどね。シュミットは、ドラキュラから強力な催眠術を掛けられた半吸血鬼みたいな存在。だから陽の光の中も行動出来るのである。しかも杭を抜かれれば、骸骨から復活も出来るのである。本家ドラキュラより優秀じゃね?本家は棺に入れられたまま燃やされて、そこでリタイアしちゃったのに。そうそう、ゾルタン君は完全に吸血犬なので、日中は棺で移動です。大昔、夜這いに失敗したイゴール・ドラキュラ伯爵が、邪魔をしたゾルタン君を腹立ち紛れか、蝙蝠姿で咬んで吸血犬にしたものである。

 

残りの物語はサクサクと説明しましょう。キャンプをしているマイケル一家をゾルタン君と、ゾルタン君が仲間にした吸血犬が襲って来る。そう言う展開です。但し、途中でカミさんと子供二人は帰してしまうので、クライマックスでの本格的な攻防は、マイケルとブランコのオッサン二人組のみで行われます。まぁ、襲って来るのが分かっているんだったら帰すわな。小屋に立て籠もったオッサン二人対犬数匹と言う地味目に感じるクライマックスですが、案外迫力は有ります。なかなかにツボを押さえた演出ではないでしょうか。

 

では、この様な本作を監督したのは誰かと言うと、アルバート・バンドと言う人物。以前紹介した『性本能と原爆戦』#3 で少しだけ触れたチャールズ・バンドの父親である。1950年代から活躍するプロデューサー兼監督。息子チャールズが業界入りしてからは、主に息子の仕事を手伝ってあげていた様な感じ。代表作は…本作なんだろうなぁ。『デビルズ・ゾーン』#4 にチャック・コナーズ演じる怪人物の父親役で出演。とは言っても父親のマネキン人形のモデル。マネキンのふりって訳じゃないよな。監督のデヴィッド・シュモーラーが「マネキンだ」って言っているのだからそうなのだろう。この『デビルズ・ゾーン』は、息子チャールズが制作総指揮を務めた作品。今や総制作本数四百本を超える現代のB級映画の帝王であるチャールズ・バンドの、キャリアの初期を飾るカルトホラー作品である。

 

主役のマイケルを演じたのは、これまた以前紹介した『地獄のデスプリズン』#5 で、主人公が収監された刑務所の囚人のボス、フランコを演じていた人。この人も様々なB級作品に出演していた素敵な人ですが、メジャーどころでは『ロッキー4 炎の友情』#6 で ドルフ・ラングレン扮するビリー・ドラゴの付き人みたいな人物を演じていた。

 

マイケルと共に闘う吸血鬼の専門家ブランコ役にホセ・ファーラー。この人も『アラビアのロレンス』#7 に出ていたりするが、1970年代以降、何にでも出演している印象。甥っ子はジョージ・クルーニー。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』#8 では、ホセおじさんの後を継いで吸血鬼軍団と闘ってましたね。

 

と、A級作品や(主に)B級作品で有名な二人がメインで話が進む本作ですが、今回はこの二人ではなくもう一人の重要なキャラクターであるファイト・シュミットを演じたレジー・ナルダーと言う、日本では少々馴染みの薄い役者さんについて語らせて頂きたい。

 

1907年9月4日、オーストリア=ハンガリー帝国(現オーストリア)のウィーンで、俳優でオペラ歌手の父と、女優の母の間に生まれる。芸能人の両親の影響も在っての事か、若い頃から舞台に立ったりしていた様だが、あまり詳しい事は分からない。1938年『 Roxy und das Wunderteam 』#9 で映画デヴュー。その後、50年以上にわたり様々な国の映画、テレビドラマに出演した。その内の何本かの作品を紹介して行きましょう。

 

まず、レジー・ナルダーの出演作品中、一番有名で評価も高い作品なのでは無いかと思われるのが、アルフレッド・ヒッチコック監督の『知りすぎていた男』#10 。某国首相暗殺の任を受けた殺し屋の役。出番は多くは無いものの、冒頭の15分位で初登場。主人公夫婦を演じるジェームズ・スチュワートとドリス・デイの部屋を間違えたふりして訪れる場面。つぎの出番はクライマックス迄来ないんだけどね。因みにこの作品の主題歌は、ドリス・デイが歌った「ケ・セラ・セラ」。アカデミー主題歌賞受賞の名曲。

 

次は『残酷!女刑罰史』#11 。この作品は、日本では大昔に『地獄の魔女狩り』と言う題でビデオ発売されてました。その題で記憶していらっしゃる人も居るのではと思います。内容としてはビデオ題の方がしっくりきます。ズバリ「魔女狩り」です。ココでのナルダーさんは、結構目立つ役どころです。田舎で魔女狩りに従事している「アルビーノ」役です。中央から、偉い魔女狩りカンバーランド卿とその弟子のクリスチャン伯爵がやって来た事で、今迄好き勝手やって来たアルビーノの立場が悪くなって行って…、と言う様な設定となっています。別に主役じゃないので、アルビーノの立場がどうなろうと本筋にはあんまり関係無いんだけどね。しかし、主役のクリスチャン伯爵を演じたウド・キアーや、カンバーランド卿を演じたハーバート・ロムの陰に隠れた様な存在のナルダーさんだが、非常に嫌な田舎の魔女狩り人役で結構目立っているのだったが、カンバーランド卿は良い人の様でいて実は悪人。アルビーノから「俺は学は無ぇが馬鹿じゃねぇ。来た理由を知ってるぜ」とか言われちゃう。無視してたんだけど、インポテンツな事を指摘されちゃったモンだからブチ切れて、首絞めて殺しちゃうの。レジー・ナルダー、インポテンツ発言に拠り絞殺さる。

 

お次は同年の『歓びの毒牙(きば)』#12 。『サスペリア』#13 で一躍有名となったダリオ・アルジェントの監督デヴュー作である。ココでもナルダーさんは殺し屋役。物語中盤に黄色いジャンパーを着て登場。同じ殺し屋役でも『知りすぎていた男』よりは、銃もバンバン撃って出番が多いです。何故、殺し屋なのにそんな目立つ色のジャンパー着てるのか?一応、それなりの理由は有るんだけどね。あんまり意味は無い様な気が…。まぁ、ナルダーさんが目立つから良しとしよう。

 

そして、も一つヨーロッパから、イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の『カサノバ』#14 。18世紀の実在の人物ジャコモ・カサノヴァの青年期から晩年までの半生を描いたこの作品では、映画も終盤、カサノヴァの最晩年を描いた部分で出演。晩年のカサノヴァが、ボヘミア(現チェコ)の宰相ヴァルトシュタイン伯爵の城で司書として雇われている時に、同じく伯爵に執事として雇われているファウルキルヒャーと言う人物を演じている。同じく使用人のビデロールと言う男とデキていて、二人でカサノヴァに嫌がらせをすると言う役。カサノヴァの自作小説の挿絵だとか言う若い時の肖像画を、壁にウ〇コを使って張り付けると言う実にしょうもない事を。カサノヴァ曰く「二人のを混ぜた物かも知れない」。ド変態である。

 

『クラッシュ!』#15 は、本作の監督の息子、チャールズ・バンドの監督デヴュー作。流行りの「カークラッシュ」モノにやはり流行りの「オカルト」をブレンドした作品。親子で似た様な事を…。この作品でのナルダーさんは、物語のキモとなる謎の像を、主人公キムにフリーマーケットで売ると言う重要な役柄である。なんか思わせぶりに訳アリの様でいて、この後物語には一切絡んで来ないんだけどね。本作では、マイケル・パタキと一緒に闘ったホセ・ファーラーが、ここでは嫉妬深い老考古学者マークを演じている。キムの親子程歳の離れた旦那役。因みに、謎の像の名前は「アカザ」と言う。キメツの十二鬼月上弦の参…。

 

そして、トビー・フーパーが監督したテレビ用作品『死霊伝説』#16 。スティーブン・キング原作の「呪われた町」を映像化。アメリカでは、三時間強の長さの作品を二回に分けて放映されたのだが、日本では約半分の長さに編集してヒッソリと劇場公開。現在は完全版が発売されています。ここでは、ドラキュラの従者ではなく、吸血鬼バーローを演じている。F・W・ムルナウ監督の名作『吸血鬼ノスフェラトゥ』#17 風のメイクがインパクト大。ブラウン管に突然あの顔がアップで出て来たシーンで、当時のアメリカの子供らおしっこ漏らしたんじゃなかろうか?三時間の内、出番は少ないんだけど、当時既に70歳を超えていたし、あのメイクを施すだけでも大変だったろうから、仕方ないかな。しかし、物語に於いて最重要な役を演じたのにクレジットされていなかったりするのだった。

 

と、こんな感じです。

 

このレジー・ナルダーさんの、そのちょっと印象的な面貌は、顔の下半分に火傷の痕(皺みたいな感じなんだけど)が有るのがその理由である。火傷の原因は、あまり本人が語りたがらなかったみたいで、ハッキリした事は分からない。が、オーストリア=ハンガリー帝国に生まれ、その後もヨーロッパで生活していたのなら、そこは二度の世界大戦が有った土地である。例え本人が従軍していなくても、何かしらの事に巻きこまれていても不思議ではないだろう。死後に発見された若い頃の写真によれば、なかなかの美男子だったそうで、二枚目役者としての道も有ったのかも知れない。火傷を負った事で、結果として個性的な俳優としてそのキャリアを全うしたのだから、それはそれで良いのかも知れない。日本での知名度は少ないかも知れないが、欧米ではそれなりだと思います。

 

監督以外のスタッフも紹介しておきましょう。

 

脚本を手掛けたのは、監督のアルバート・バンドと共同制作者として名を連ねているフランク・レイ・ペリリ。本作以前には『ドーベルマン・ギャング』#18 の原案、脚本を手掛けている。犬好きなのだろうか?

 

特殊効果にはスタン・ウィンストン。後の大物です。手掛けた作品を書き出したらキリが無いのでここでは三本だけ。『ターミネーター』#19 、『エイリアン2』#20、『ジュラシック・パーク』#21 。そんな特撮界の大御所の初期の仕事が拝めます。

 

編集を務めたのはハリー・ケラミダス。一連の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』#22 シリーズの編集をした人。

 

スタッフも俳優もそれなりに知名度の有る人達が関わっているのに、映画自体の知名度も評価もイマイチ低い本作。ラストのオチも小馬鹿にされていたりしますが、筆者は好きです。思い切ってリバイバル公開なんて事をしてみたら…大赤字か?

 

#1( 『 Dogs 』 1977年 アメリカ )

#2( 『 The Pack 』 1977年 アメリカ )

#3( 『 Panic in Year Zero! 』 1692年 アメリカ )

#4( 『 Tourist Trap 』 1979年 アメリカ )

#5( 『 Death House 』 1988年 アメリカ )

#6( 『 Rocky IV 』 1985年 アメリカ )

#7( 『 Lawrence of Arabia 』 1962年 イギリス )

#8( 『 From Dusk Till Dawn 』 1996年 アメリカ・メキシコ )

#9( 1938年 ハンガリー・オーストリア )

#10(『 The Man Who Knew Too Much 』 1956年 アメリカ )

#11(『 Hexen bis aufs Blut gequält 』 1970年 西ドイツ )

#12(『 L'uccello dalle piume di cristallo 』 1970年 イタリア・西ドイツ )

#13(『 Suspiria 』 1977年 イタリア )

#14(『 Il Casanova di Federico Fellini 』 1976年 イタリア )

#15(『 Crash! 』 1976年 アメリカ )

#16(『 Salem's Lot 』 1979年 アメリカ )

#17(『 Nosferatu, eine Symphonie des Grauens 』 1922年 ドイツ )

#18(『 The Doberman Gang 』 1972年 アメリカ )

#19(『 The Terminator 』 1984年 アメリカ・イギリス )

#20(『 Aliens 』 1986年 アメリカ・イギリス )

#21(『 Jurassic Park 』1993年 アメリカ )

#22(『 Back to the Future 』 1985年 アメリカ )

 

1  「カルデラリの大侵攻」とは、アメリカの奴隷解放宣言の翌年の1864年、ワラキアとモルドバ(現ルーマニア)でも、奴隷制度が廃止された事で、奴隷となっていたジプシー達が大移動を始めた事を言う。船賃が安くなったので新大陸に渡ったジプシーも多かったとか。この辺りの事は以前紹介した『キング・オブ・ジプシー』に、もう少々詳しく書いてありますので、宜しければお読み下さいませ。