それは二ヶ月ほど前のできごとだった。
社長が経営するバーのひとつが六本木にある。
七子と同じ年で正社員のユリと二人で帰ろうとした時、
偶然退社しようとしていた社長が誘ってくれたのでついて行った。
車から七子たちをおろした社長は、
「もう一店舗にも顔を出してから行く」と言って走り去ってしまった。
そのバーは地下にあり、狭い階段を下ると重いガラスの扉に金の取っ手が付いていた。
入口からして豪華なものが好きな社長らしい作りだ。
重たいドアを勇気をふりしぼって押し開いたのは七子だった。
「いらっしゃいませ」
短髪をツンツンに立てた男の子が言った。
歳は同じくらいか少し下に見える。マスターだろうか。
カウンター席は誰もいない。
奥の背の高いテーブルの席におじさんが一人座っているのが見えた。
ツンツン頭はグラスを拭く手を止め、
「こちらへどうぞ」とカウンターへ促した。
ユリはあわてて言葉を発した。
「あ、すいません私たち山本社長の……」
「はい、聞いてますよ。どうぞおかけ下さい」
ユリの顔が一瞬ポッと赤くなったのを、私は見逃さなかった。
暗い店内でもよく分かる。
確かに幼い顔立ちに似合わず、落ち着いた対応のできる子のようだ。
テーブル席のスーツの男性が、突然言った。
「おねーちゃんたち、こっちにおいでよ」
狭い店内に響くで偉そうに言った男性は、おなかがでっぷりと出た中年だった。
そのオッサンは、七子が店に入るなり全身をじろじろと舐め回すように見ていた。
そして七子に言い寄る。
「ねぇ、君すごいかわいいね。
その顔にその大きいオッパイは萌えちゃうなぁ。お名前は?」
七子はその場で凍りつき……
その瞬間――
パンッ
大きな音がした。
ユリがそのオッサンに
平手打ちを食らわせていたのだ。