「ひろし宅の諸規則」
いったん温かくて心地よい味を覚えたらもう後戻りはできない。
寒くて暗い夜を一人寂しく過ごすなんてまっぴらごめんだ。
部屋に行けばきれいで広くて、楽しく話ながらおいしいご飯を食べられて気持ちの良いことができる。
その点うちは正反対なのだから帰る気にならない。善は急げで早く引っ越すに限る。
そしてついに土曜日、ひろしが私の部屋にやって来た。
「うーん、これは居心地が悪そうだな。まゆがうちに来るわけがわかったよ」
日当たりが悪く、少しかびくさい。
しかも狭くてほこりっぽく、とても使いづらいのだから、そう言われるのは当然だった。
「これではひろしさんを呼べないでしょう。でも引っ越すからいいわ」
「だいぶきれいにしたみたいじゃないか。でも掃除し忘れた所もだいぶあるね。全部バレバレだよ」
「むむむ、鋭い。おっしゃる通りです」
「荷物をもっと整理すればバンを借りて自分たちで引っ越せるな」
そう言ってひろしは荷物整理に着手した。
私は整理したつもりだったが、まだ甘いようだった。
どんどんゴミを出し、必要な物は種類別に箱に収納をして、どんどん引越しの準備ができていった。
埃で手が荒れるのでビニールの手袋をしてから軍手をはめ、マジックやシールやガムテープを使って手際良く仕分けしている様子はとても頼もしかった。
日曜日には借りて来たバンに荷物を移し、部屋を掃除した。
午後にはひろしの部屋に着き、夕方にはすぐ必要な荷物まではほどき終わった。
広いリビングの一角を仕切った所が私のコーナーになった。
ひろしからカード式の鍵をもらうと、引っ越した実感がわいてきた。
いよいよ同棲するのかと思うとわくわくしてきた。
ひろしから部屋の使い方、生活のパターン、生活費の話をされた。
まずゴミを出す曜日と場所を聞いた。
そしてけっして汚したままにしない、物を出したらしまうこと、他人の物には勝手に手をつけないこと、洗濯は週に二度まとめて、掃除は適宜、余分な買い物をしないこと、連絡はメールでこまめに取り合うことなどを決めた。
家事と家賃と光熱費と食費はひろしが仕切るので、私は月々12万円を渡し、家事は指示されたことを手伝うということになった。
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