妊娠・出産とどう向き合うか?-河合蘭さんの講演「卵子老化を超えて」。 | HappyWomanのすすめ。

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埼玉県久喜(くき)図書館で行われた、河合蘭さんの講演「卵子老化を超えて」を聞きに行ってきました。
河合蘭さんは、妊娠・出産の現場を25年以上にわたり追いかけ続けている、日本で唯一の出産ジャーナリストです。

講演では最新著書『卵子老化の真実』(文春新書)の中から、高年齢出産や卵子の老化についてのお話を聞くことができました。

この数年、「卵子の老化」と言う言葉をよく耳にするようになりました。
それは、時に出産適齢期を過ぎつつある女性たちを追い詰めます。

30代半ばに差し掛かった私の心の中にも、簡単には割り切れないあらゆる感情が入り混じっています。
やがて、そこから卒業するときがくるのだろうと思います。
この先、子どもを授かっても、授からなくても――。
妊娠に思いを巡らせることのできる時間は限られている。だから、いまこの時間がとても貴重なことに思えます。

「卵子の老化」とは、自分自身の体の声を聞き、自分の時間について考えることだと教わりました。
ほんの一部ですが、蘭さんのお話を紹介したいと思います。


■現代の出産事情

「晩産化」。
現代日本の出産事情を一言で表すと、こうなります。
日本女性の平均初産年齢は、全国で30.1歳、東京都では31.6歳だそうです。
東京都では実に出産する3人に1人が35歳以上で、複数子どもを産めば最後はいわゆる35歳以上の高年齢出産にあたるというのがごくごく平均的になっています。

晩産化が特別なことのように言われますが、『卵子老化の真実』の中では驚くべきデータが掲載されています。

記録が残っている中で最も古い1925(大正14)年の35歳以上の出産率は、現在の21倍だったと言います。
避妊も中絶もない時代です。
女性は20代から産み始め、40代以上になっても産み続けていました。
現在は50代の出産は主に卵子提供によるもので年間50件ほどですが、大正時代にはなんと3000件もあったと言うから驚きです。
医師いわく「スーパーおばあちゃん」が昔はたくさんいたということです。
だから、生物学的には、人間は40代~50代でも産める、ということ。
ただし、これが可能だったのは「経産婦」=妊娠を経験したことのある女性だからです。初産年齢が高まっている現在の晩婚化との明らかな違いはここにあります。
とはいえ、「昔の女性がなぜ高齢で出産できていたのかを解き明かすことが、今の高年齢出産を助けるのでは」と蘭さんは言います。

高度経済成長期になると、避妊や中絶により出産をコントロールすることが可能になりました。
女性は家庭に入り専業主婦になるのが当たり前。20代になると仲人さんが結婚の世話をしてくれ、数年の間に出産する。
20代女性だけが妊娠していたのが、そんな時代です。
同年代の女性ばかりが子どもを産む均一社会では、競争が激しくなるという特徴があるそうです。
この時期に生まれたのが、お受験であり偏差値教育でした。

現在は多くの世代の女性が出産している大正時代に近づいているとも言えます。
蘭さんは「多様な年代の女性が出産する世の中は多様化が認められる健全な社会だ」とおっしゃっていました。


■卵子老化のメカニズム

卵子が胎児のときに作られることは、周知の事実となりましたが、今回はさらに詳しい事実を知りました。

原始生殖細胞は、6~8週の時に生まれるそうです。
つまり、妊娠2ヵ月、まだ胎盤もできていないようなときに、すでにお母さんから見ると「孫」となる元が作られているとのこと。生命の神秘です。

その卵子は生まれた後、長い長い眠りに入ります。
その後生理が始まり、卵子の元となる細胞は毎日人知れず目覚めて育ち、そのほとんどが消えていくと言います。
生理のサイクルにうまくのれた、ただ1個の卵子だけが、毎月排卵して運が良ければ着床し、この世に生まれてきます。
「卵子が目覚める順番」はまだ解明されていないそうです。
兄弟姉妹としてこの世に年齢差をもって生まれてきても、最初に生殖細胞として作られたのは同じタイミングだと思うと、何とも不思議な気持ちになります。

「卵子の老化」とは、眠っている時間の長さを言います。
20代で生まれてきた卵子は20年しか眠っていませんが、30代で生まれてきた卵子は30年間眠っています。その分、染色体異常が起こっていたり、質が落ちて妊娠力が落ちる、というのが卵子老化のメカニズムになります。
日々目覚めては消えていく卵子は、二度と増えることはありません。
在庫がなくなれば、閉経します。

書籍の中では、卵巣を「ミカン箱」に例えた医師の話がありました。
ミカンをいっぱい入れた箱から、ミカンを少しずつ食べていきます。
最初はどのミカンもキレイでおいしい。
時間が経つにつれて、当然ミカンの数は減り、残ったミカンの中に一部腐ったものが出てきます。それでも、探せばキレイでおいしいミカンは残っています。
誕生から時間が経っていても、卵子の残りが少なくても、質の良い卵子が1個あれば、妊娠は可能なのです。

通常は一個しか排卵しない卵子をたくさん排卵させるために使うのが「排卵誘発剤」です。
排卵前の決勝戦に残った卵子たちすべてを残す薬です。
「本来なら生まれてくるはずのない子を作ってしまうのでは?」と抵抗を示す人もいると言いますが、決勝戦で生き残る1個の卵子が綺麗なミカンとは限らないわけです。
これはもはや運やタイミングとしか言いようがありません。たまたま生理周期にのらず、すごく元気な卵子が消えてしまうこともありえます。
排卵誘発剤では、これら複数の卵子たちを排卵させて受精の確率を上げることができるのです。


■精子も老化する?

女性が卵子の老化に苦しむ一方で、男性の精子はどうなのでしょうか? 
卵子と違って、精子は毎日生まれます。
しかし、最近では精子の老化も話題になっていると言います
不妊の原因も、男性と女性の比率は1:1だと言われています。

精子の質も妊娠には大事な要素なのです。

・精子は新しいほど良い
・精子は熱に弱い(サウナ、膝上パソコンなどは×)
・精巣を圧迫しない

さらに、「精子は卵子よりもストレスの影響を受けやすい」ということです。
精液検査でも、その時々で数値に変動があり、「上司が変わっただけで、検査結果が変わるのは、医療現場では常識」と蘭さん。

男性の大厄は42歳ですが、40代になると精子にも劣化が見られることが多いとのこと。

蘭さんはプレジデントオンラインでこんな記事を書かれています。

35歳で始まる!「精子老化」の真実
http://president.jp/articles/-/10936

最後のメッセ―ジは胸に迫るものがありました。

「この事実が知られることによって、卵子の時計が気になる女性の気持ちがわかり、彼女との距離が縮まる男性が増えてほしいと思っている。
精子も卵子も、共に限られた時間を生きている。男女が共感し合い、寄り添って未来を想う心から結婚も妊娠も始まる。」


男性と女性、両方の存在なくしては、生命の誕生はありません。
「どちらのせい」と責め合うのではなく、男女がいたわり合いながら、同じ思いで妊娠に向き合うことが当たり前の世の中になればいいなと思います。


■高年齢出産にはメリットもある

高年齢出産には正確な年齢の線引きはありません。
一般的には35歳以上と言われていますが、妊娠率が35歳の誕生日から急激に落ちることはありません。

高年齢出産をする前の女性183名に質問したデータが紹介されました。
不安に思っていることの2大要素は「染色体異常」と「子育ての体力」だったそうです。
では、実際、産んでみてどうだったのか?
同じ方たちに質問したところ、43.7%の人が「特に不安はない」と答えたそうです。

まさに、案ずるより産むが安し。
高年齢出産はリスクばかりが目立つ傾向にありますが、「デメリットばかりではない」と蘭さんは言います。

「BMJ 2012年 8万人の3歳児、5歳児の調査」によると、
「20代の母親から生まれた子に較べ、30代、40代の母親から生まれた子たちは不慮の事故によるけがや入院が少なく、予防接種の接種率が高く、言語発達、社会的情緒が発達が良好」
という結果も発表されているそうです。

人生経験を積んだ分、金銭的にも精神的にも20代よりも成熟していることはメリットだと考えられます。
体力の衰えは、周囲に頼ることで解決できます。
体力はなくても「心の筋力」は強くなっている、それが高年齢出産です。

雑多な情報に満ち溢れる現代社会では、リスクやデメリットなど、マイナスな声ばかりが耳に入ってきて、不安に陥ることが多々あります。
一言に「高年齢出産」と言っても、状況は多種多様。一般論にまどわされず、自分自身の体はどうなのか、何を優先したいのか、立ち止まることの許されない時間の中で、悔いのない選択をしたいものだと改めて感じました。


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