窓からは夕日が見えた。
シーンと静まり返った診察室。
少し前まで、外来の妊婦さん達が来ていた。




21トリソミー…
ダウン症候群の疑いがあります…





…これは…
現実…?それとも…夢…………?



昼間なんとなく気になって調べていた。
だから、21トリソミーと言われた時点でわかった。


出産直後の先生の様子がおかしかったのは、このためか…



…あくまでも、疑いなので…
まだわかりません。
そう思ったのは……このますかけ線です。



側のベッドにいた娘の手のひらを見せられる。
両手のひらにくっきりとある、親指から小指に向かって伸びる真っ直ぐな線。


ダウン症候群というのは、21番めの染色体が通常2本あるところが3本あるので21トリソミーと言われています。


ダウン症候群の子は、合併症がある子が多いです。心疾患があったり、消化器に疾患があったり…
だけど、この子はエコーで見た時に心臓もちゃんと動いてました。
すぐに手術が必要だとか…そういう事情があれば、転院を考えましたが、今のところは大丈夫そうです。ですが、今後何かあれば転院になります。




旦那も私も絶句していた。
泣き叫びたい思いもあった。
だけど、出来なかった。その時は涙も出なかった……




ダウン症候群かどうか調べるには、総合病院に行って検査が必要です。
場合によっては入院になるかもしれません。

もし、ダウン症だった場合…

今後、身体や知能に発達の遅れが出るかもしれません。でも、出来ないわけではないです。
合併症もあるかもしれません…
そして…他の人より短命です………




……そうですか……
わかりました………





頭が真っ白になって、何を考えたらいいかわからず、現実を受け止めることが出来なかった。

告知が終わり、診察室から出た。
フラつく私の手を取り、旦那が、大丈夫?
と言った。



…………っっ………




涙がボロボロ出てきた。

あぁ、ダメだ…
病室では長男と次男が待っている。
こんな状態で病室に帰ったらダメだ……

長男と次男にはいつかこの現実を伝えないといけない。だけど、そのいつかは今ではない。





旦那に支えてもらいながら病室に帰った。
涙は拭いていたが、感の鋭い次男は、私の様子がおかしいのを見逃さなかった。



お母くん。どうしたの?
赤ちゃん、なんか障害があったの?



次男は何故か保育園の時から私のことを、お母さんでも、お母ちゃんでも、ママでもなく、お母くんと呼ぶ。小学3年生になっても変わらない。



…いや….なんもなかったよ。
ただ、先生とお話ししただけだよ。





…ふーん……
あっ…そっか!
赤ちゃん、何も障害がなくて嬉しくて泣いてるんだね?





その言葉に、我慢していた涙が溢れ出す。
子供にとっては何気ないその言葉がひどく残酷に思えた。
そもそも、障害という言葉自体私は教えていない。そういえば、学校でそんな勉強をしていたな…




ダウン症かもしれない…



そう言われてから、本当は旦那とゆっくり話したかった。泣いて抱き締めてもらいたかった。

だけど、今は長男と次男優先。
明日も学校。
遅く帰ると明日に差し障りがある。



大丈夫?
…またあとで、今度は俺1人で来るよ。




そう言って旦那は子供達と家に帰った。