静止した流れに
わたしにふりかかる
容赦ない
たった一つの出来事を
身体中にまんべんなく
広げて
広げて
そうして身動きとれなくなった
その時は
長く
ゆっくり
あるいは心地よく
身動き出来ないこの心すら
静となり
無のようにも思え
しかし必ず中枢は
動き刺激し活動していて
でしゃばることなく
休みなく
わたしに動をあたえつづける
静止したはずの時の流れで
食し
排泄し
眠り
起き
まばたきをし
くしゃみをし
かゆくなり
痛くなり
働き続ける一部分が
いつしか身体に動きを与え
いつしかわたしは
朝の雨を悔しむ
湿潤
指先は やさしく なぞる 爪先で 刻む 印を確かめる
いつかは 滑らかに なるの
その傷跡が 指先に ふれる間だけ その印は あたしのものだと この閉ざされた 部屋の中だけでいい 湿った 声帯が 乾く前に ただ あたしのものだと 音に させて
ひふと
ひふと
触れないところがないように
ひふと
ひふを
すりあわせても
人肌は 温まらない 温度なの?
乾いたひふを なめらかに なぞる
なめらかに なぞられたひふは 適当な 湿度を 保ったまま
それでも あたしを ほんのりと 潤しては
渇かすの
クリムトの夢
指先は
髪をなぞって
頬にふれ
くちびるにふれ
くちびるがふれ
そこからショートした回線は
何も聞こえず
ただ目の前を欲し
ただ目の前の指先に集中し
足の指先に感じる不思議な高揚感
土踏まずの内側から伝わる
上に昇る何かが突き抜けた時
ただ世界は白くって
自分すらもいなくって
その白さは一瞬で
しだいにここに戻ってきたとき
1番最初に見える姿に
また愛おしくなる
すこし湿った肌は
まるで吸盤のように
吸い付くように摩擦が強くて
皮膚が痛くなるほどに
その痛みが幸せで
この湿度は心地よい
いま感じる匂いはただひとつだけで
あなたとわたしはおなじ匂いになった
そうしてうまれた
これぞ生々しい愛
にせものはいらない