【 3 】




屋根裏に通じる木製のくたびれたハシゴが、小田島の視界に入った。
「陳さん・・・・・画廊の方はどうなのですか?」

BAR『北野Rail』の屋根裏は画廊として使われていた。

上るにはハシゴを要する。
「そっち方面の常連はチョコチョコ来て、覗いてクナ」
「あの絵も・・・・飾っているんですか?」
「ああ、もちろんや。非売品ダガな」
「・・・・・そうですか」

耳にエラの張りのある高声と、ルイの重低音が交互に流れてくる。
レコード特有の間断。
小田島のグラスが氷だけになった。
2本目のキャメルを取り出し、さきっちょを真っ赤にする。
パイプの煙とキャメルの煙がほのかな照明の中で交じり合う。
「ローゼスの黒・・・」
「久しぶりの再会に、プラチナでも飲んでみるか?」
「ローゼスにプラチナなんてあるのですか?」
「アルよ」
「・・・そうですか。まあ・・・いつか全てが解決したら・・・一生ないかもしれないけど・・・その時に頂きますよ」
小田島はカウンターの木目に視線を落とした。
「手紙でくれている情報以外に何か進展はあったノカ?」
「いや、陳さんには全てを報告していますから・・・」
「ソウカ・・・」

小田島が3杯目を飲み終えた時、古時計の今にも止まりそうな短針は、10と11の間を指していた。
二人きりの店内を静寂が包む。
しばらくすると、バニラとラクダの匂いが漂う空間にデュークのアンジェリカが流れ始めた。

「陳さん、明日も早いのでそろそろホテルに戻ります」
「そうか・・・小田島・・・体には気をつけヤ。これからが正念場ヤ。何か新たに分かっタラ・・・連絡をクレ」
陳はゆっくりと椅子から身を起こし、引き込まれるような深い瞳で小田島を見つめた。
「陳さん・・・・・屋根裏見ていっていいですか?あの絵、見とこうと思って。今日ここに来たのはその目的もあったので・・・」
「お前が持ってきたモンや、好きにセイヤ」
陳があご先を屋根裏へ振った。

小田島は床を踏みしめ、はしごに向かった。
歩くとキーキーと音が鳴る。
それにしても震災に持ちこたえたのが不思議な程、たよりない造りだ。
陳が再びパイプ椅子に腰を掛けた。
「陳さん、幾つになられました?」
横目で陳を捕らえ、問いかける。
陳の顔面に刻まれた深い皺と、ワインレッドのシャツの皺が呼応するかのように動いた。
「58や、もう一時間立ってオルと膝が悲鳴を上げヨル・・・おい、小田島、気をつけテ登れよ」
小田島はゆっくりとハシゴに足を掛け、屋根裏の画廊に上がった。

視界が一瞬遮断される。
薄暗闇の中で独特の匂いと埃っぽさを感じた。
・・・電気のスイッチは・・・
画廊はそれなりの天井高があり、かなり大きめのキャンバスを掲示出来る。
目が屋根裏の暗さになかなか適応しない。
その時突然、小田島のスイッチを探す指が止まった。
階下の光の流入により、向こう壁に見覚えのある小さな絵がうっすらと浮かび上がっていた。

  

  
  
・・・・・シンゾウガ、ニギリツブサレソウダ・・・・・