死神の手

窓の外は真っ白な雪で覆われていた
木も土も草花も全部が真っ白で、まるでこの部屋のよう
真っ白なシーツと真っ白なカーテン
何もかもが冷たくて何も感じない真っ白な世界
ここが私の住む世界
おかあさんは私を叱る
どうしてそんなこと言うのだと
大きな声で私を叱る
お父さんはお金の話
これで大金持ちだと嘘ばかり
それが私のいる世界
だから私は
ここが嫌い
全部が真っ白で偽りで作られたこの世界が
大嫌い
ある時私は、ある手段を知った
それは死神を呼ぶ方法
画面に映し出されたその術は
クリックひとつで死神を呼ぶことが出来るという
私はほんの少し考えて・・・・・・すぐに死神を呼ぶことにした
きっと嘘だろう・・・きっと出来るはずなどないだろう
だけど
だけどもし本当に私のところへ死神がやってきたら――
死神さんの色は黒だった
枕元に現れた死神さんは
「おまえさんがわたしを呼んだのかい」
と、低い声で私に尋ねた
ええ、そうよ と私が答えると死神さんは鋭い目で私を睨んだ
その瞳は闇のように真っ黒だった
「あなたが死神さん?」
と私が尋ねると、
「まあそんなところだ。ところで、ほんとうに殺してもいいのかい」
と言ったから、ええお願い。と素直に答えた
こうして私と死神さんの間に契約は結ばれた
殺しの約束 人殺しの契約 もちろんターゲットは―――
この私

私の病気は、とっても稀な心臓の病気で
この難しい病気を治せる先生は・・どこにもいないという。
だからこの病室が私を生かしてくれる唯一の世界
おかあさんは私を叱る
私は生まれてこなければ良かったのにね と言ったら
「そんなことを言うんじゃありません」
と涙を流して私を叱ってくれた
お父さんはお金の話
「この前宝くじで一等を当てたんだ!だからおまえは
お金のことなど気にせずにゆっくりと養生なさい」
といつも言う
だけど、おとうさんのつく嘘は下手だからすぐにわかるんだよ
お父さんもお母さんも先生も看護士さんも
みんながみんな、私に優しい嘘をついてくれる
私の為に、わたしを想って・・・・
だからこの世界が嫌い
だって
こんなにも優しい人たちに溢れた世界を
私一人が台無しにしているから・・・!
私の話を全て聞いた死神さんは
それならば仕方ない、と冷たく言った
「どういうふうに死にたいんだい?」
と尋ねてきたから
出来る限り痛くないほうがいい、と答えた
「いいだろう」
そう短く言うと死神さんは漆黒の右手を覗かせ
私の体へかざした
ゆっくりと、ゆっくりと意識が闇へと呑まれていった
ぼやけていく視界のなかで最期に死神さんは笑みを浮かべてこう言った
「ならばおまえさんの死に方は―――」
「老衰に決定だ」
目が覚めると、そこはいつもの病室だった
だからとっても不思議だった
だって私は死神さんに殺されたはずなのに
私を蝕んでいた病魔は、その後の検診で快癒していた事が判明した
お父さんもお母さんも先生も看護士さんも
不可解なことに驚き、同時にとても喜んでくれた
でも私は知ってる
それはあの時やってきた優しい死神さんが治してくれたのだと・・
私は真っ白な世界で声の限り泣いた
まわりでみんなも泣いていた
こんなにも優しい人たちに溢れている世界で
私はまた未来へと歩めるんだ
