平成27年6月18日に石川町駅前の司法書士会館において、「ブラック企業と貧困」というテーマで神奈川総合法律事務所の嶋﨑量弁護士よりご講演をいただいた。嶋﨑弁護士は民事・刑事事件に加えて働く人の権利を守る活動にも取り組まれ、ブラック企業被害対策やワークルール教育法推進、また貧困問題対策の活動も行っている方であった。
 前半は主にブラック企業の実態とそれが個人や社会に及ぼす影響について。後半は労働関連法改正の危険性についてお話をいただいた。ブラック企業という言葉は最近耳にすることが多くなり社会の関心も高まりつつある。厚労省は若者の「使い捨て」と表現しており、過労死やうつ病の発症。そこから自殺に至った悲惨なケースなども報道されている。世間でも大きな問題としてとらえられているが、その反面「そんな会社辞めればいいだけのこと」という意見も多く存在しているように思う。しかし、今回の講演で嶋﨑弁護士が繰り返していたように「辞めたくても辞められない状況」こそがこの問題の本質であり問題をさらに深刻化していると感じた。日本経済は低成長の時代となり産業のグローバル化も進んだことで正社員への道は日に日にきびしいものになっている。入職後にブラック企業だと分かっても、次の仕事の保障がなければ簡単に辞めるわけにはいかないのである。これは単に個人の問題ではなく、誰もが常に貧困と隣り合わせて生活している現在の日本の状況を投影しているように思えた。嶋﨑弁護士は対策としてはまず「声をあげること」「泣き寝入りしないこと」を強調されていた。ブラック企業で働いている方は非常に弱い立場におかれている方たちである。私も支援者の一人としてそういった方たちとともに闘う姿勢を持ち続けたいと改めて思った。
 後半は労働関連法改正についての講演であった。主に現在審議されているホワイトカラーエグゼンプッション。いわゆる「残業代ゼロ法案」の危険性についてお話をいただいた。政府は「時間ではなく成果で評価される働き方を」と一見聞こえのいい表現を使っているが、そもそも仕事量が多くやむを得ず残業をしているケースがほとんどであり、サービス残業も蔓延していること。この法案とセットで検討されるべき労働時間抑制策や健康確保措置が不十分であること。成果主義については、成果型労働制を促す制度の提案は一つもないことなどが指摘されていた。また政府からは高い報酬を得ている一部の労働者のみにしか適用しないと言われているが、派遣法改正でみられたように原則と例外が逆転してしまった経緯があることからも今回の改正に警鐘をならしていた。派遣法が改正されてから非正規雇用が増大した背景からも、今回の議論を注意深く見守っていきたいと思った。
 今回の講演をうけて労働問題と貧困問題は改めて表裏一体だと感じた。弱い立場におかれた方たちの権利を守るためには弁護士のような法律の専門家と私のような社会福祉の専門家が協働して支援していくことの重要性を改めて認識することができた。

                       社会福祉士   鎌村 誠司





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