2年前に教えた子。

あの時は良かった

と思っているらしい。

友達と一緒じゃないとだめだという強迫観念があった子。ハンディキャップを抱え自分の才能に気づいていなかった。

ある日、私は黒板に大きな山の絵を描いた。

そこにまっすぐな線とぐにゃぐにゃな線を描いた。

『どの道を通っても山のてっぺんに行くというゴールは変わらないんだよ。』

『そして、ゴールは幸せになるということなんだよ。』

そう話すと納得したのか落ち着いた。

事あるごとに彼は山のルートのことを口にしていた。

まるで確認するかのように。

そんな彼がこの夏、手紙をくれた。どうしても書きたいと言って書いたらしい。同封されていたお父様の手紙に書いてあった。

返事を書かないと。



6年前に教えた子。

県外に旅行に行ったから

お土産を渡したい、

いつだったらいいかと尋ねるショートメールが来た。

突然で驚いた。

放課後、一緒に割り算をやった。

リズムを作って彼に染み込むようにやった。

苦手なことを楽しみながらやれる方法をいつも探していた。

ほめてもあまり表情に表すことはなかった彼。

家庭環境の厳しさに絶句した。

自分が半分、親の務めを果たさないといけないと覚悟を決めた。だから、火遊びをした時、厳しく怒った。火遊びをしたくなる気持ちも分かって辛かった。

怒る方が多かったのになぜか大人になっても『〜先生』と言って寄ってくる。

免許をとって友達と高速に乗って旅行していたとか。

お土産をもらいに来たという体でおかずでも持っていこう。


15年前に教えた子。

荷物を届けてくれた。

宅配会社に勤めているらしい。

面影が残っていて、思わず、

『どこかでお会いしていませんか?』と尋ねたら、

『〜です。』と名乗った。

昔からシャイだった彼。

心優しいあまりに無理を重ねているのではないかと心配していた。

昔では考えられないほどの明るい笑顔を見せてくれた。


自分の仕事は、公務員にさせることでも高給取りにさせることでもない。大きな家に住ませることでもなければ、ブランド物に身を包ませることでもない。

生きていく過程において、

困難に思えることでも立ち向かい、

現実を受け入れ、

もがきながらでも自分と向き合い、

どんな自分でも認めることができる人間にすること。


この夏、縁あった子に会い、

自分の考えは間違っていなかったと確信した。

教師としての愛が通じたと実感した。

教師冥利に尽きる。