小説 梁瀬暗子調査隊 <やなせあんしちょうさたい>  つづく


< ③-1 の続き >


叩きつけるような物言いの昴を落ち着かせるため、千鶴は昴に夏鈴との御遣いを頼み、この部屋から強引に退出させようとした。


勿論、昴の抵抗にあったが、引きずるようにして何とか退出させた。


「ふぅ、すみません。昴、暗子関連の話になるとつい力が入ってしまうみたいで・・・・・・」


「いえ・・・・・・大丈夫です」


何が大丈夫かわからないが、とにかく平然を装った。


「夏鈴から、来駕君が弧虎(こっこ)((←夏鈴の暗子名前)の声を聞いたという話を耳にしたときは凄く驚きました。新しいメンバーとして、一緒に活動してくれないかと期待しました。最近暗子襲撃多発昴達と三人で梁瀬市内管轄区内警備するには限界がありますからね


「管轄って、もしかして、大きな組織なんですか‼操暗子って‼」


また話が一回り大きくなった。


日本を、暗子から死守する正義の味方の一員になるということか?


来駕は、驚きのあまり口をポカンと開けたまま、目が点になった。


そんな来駕の状態を知ってか、知らずか、千鶴は昴を追い出した襖を閉め、来駕の前へ正座をし、真剣な表情で話しを続けた。


「暗子をこの世界から元の世界に送り返すのは危険が伴いますし、時間もかかります。それを承知で私には来駕君が必要なんです」


必要?


面と向かって言われた『必要』という来駕にとって縁遠い言葉に、首を傾げた



「どうか、私達を助けてくれませんか?・・・・・・君のことは、一年でも珍しい出席日数が少ない生徒として噂を聞いています。このままでは留年も考えないといけないほどの出席率らしいですね。でも、生守会に入れば、校長の恩恵で欠席を減らすことができます。校長も、昔、生守会メンバーだったので暗子についても詳しく、暗子退治と称して今までの欠席を公欠扱いに変更させてくれます。そうすれば、留年の心配はなくなりますよ」


脅されている?


留年という弱みを握られている。


来駕は、千鶴に似合わない姑息な手段に出てまでも、必死に生守会への勧誘をする千鶴の姿を見て、なんとなく冷めたし、失望した。


そんなに必死になる意味も、暗子を元の世界に送り返すことの重要性も、今の来駕は完全に理解し切れていないため、(縋(すが))るような千鶴の目が鬱陶しく見えた。








「留年回避を切り札にして、俺を『買収』するつもりですか?」


来駕が冷たく言った。


千鶴は、自分が愚かなことをしていることに気づき、来駕から視線を外し、小声で呟いた。


「・・・・・・すみません。弱みを握って入部させようなんて、何考えていたのでしょうね。虫が良すぎますし、最低ですね。今日はお時間をとらせてすみませんでした。足を運んでいただいたのに・・・・・・」


意気消沈。


千鶴の顔が曇り、俯いた。


部屋に沈黙が染み渡った。


気温が二度ほど下がったようにも感じ取れた。


来駕も重苦しい空気を感じ取り、居た堪れなくなり、その場に立ち上がった。


「帰ります。ここにいても仕方ないし。春雨に言われるがまま、ここにやって来た俺も悪かったと思います」


「あの・・・・・・春雨に来駕君の家まで送らせます」


「いいです。道順はわかりますから」


来駕は、そのまま振り返ることなく部屋から出て行き、家路についた。






< ③ー3 へ続く >





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