いつだったか
あの木の下のベンチに座って
空に、お絵描きをする飛行機たちを
随分長いこと眺めていた
あの頃の自分は
もう、遥か遠い所へと
旅に出たように思う
どこかに何かを置いてきた
そんな感情でさえ幻想に思えてしまう
本当はどこにも何も置いてきてなんていないんだよ
かつてそう言われた意味が
今ならなんとなく分かる
傷つけたこと、というものは
傷つけられたことよりもずっと早くに
忘れてしまうものなんだろう
或いは
そんな事実でさえ
なかったことになってしまうのかもしれない
人間はそう、都合のいいように、できている
はて
私が欲しかったものは、何だったかしら
*
長いお暇(いとま)をもらって
ふるさとに帰っていました
幼なじみと
20年ぶりの夢の国へ
泣くほど笑って叫んで焦がれて
まるでそれは
恋とおんなじで
帰りの電車で眠って
目が覚めればもう
また、元の世界
私が欲しかったものは、恋とは少し違うなにかだった
「かえりたい」
そう、いつも思っていた
どこに、かは分からない
たぶん居場所は
ひとつじゃなくて
色々なところに少しづつ
それで
良いのでしょう
ちゃんと、立っているんだもの
ボクの飛行機も空に
絵を描いただろうか
誰かがそれを見て
恋焦がれただろうか
さぁ、また
がんばんべ。