FKA Twigs : FKAツイッグス - 瀕死の白鳥と鷺娘 その1 | NMC - Music Recommendation and Discovery. Plus, more music from New Names.

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2013年9月25日のシェパーズ・ブッシュ・エンパイア (Shepherds Bush Empire)で開催されたジェイムズ・ブレイク(James Blake)の公演でFKAツイッグスを私は初めて見た。

当時の記憶を辿ってみる。

ジェイムズ・ブレイクの2ndアルバム『オーヴァーグロウン(Overgrown )』がこの日の公演を遡ること2週間前にマーキュリー賞の候補作品にノミネートされたていた。
ロンドン西部のシェパーズ・ブッシュにある2,000人収容のこのミュージックホールは、当代きっての天才ジェイムズ・ブレイクのライヴを見逃すまいとする観客のむせ返るような熱気に包まれていた。この公演のオープニング・アクトを務めたのがツイッグスである。

2012年12月4日にBandcampからのダウンロードと12" Vinylにより4曲入りデビューEPのタイトル『EP』を自主販売し、2013年9月17日にヤング・タークス(Young Turks)よりセカンドEP『EP2』をリリースしていたツイッグスであったが知名度はまだ低く、ツイッグスがステージ上に現れても観客の喧噪が歓声に変わることはなかった。
その上、PAバランスもしくはマイキングが悪く音源にある繊細なサウンドの再現性という面において力量を出し切れていなかった。致命的だったのはツイッグスのブリージング(ささやき、息づかいで表現される)なヴォーカルが聞こえにくかったことだ。結果、衆目をさらえずにいた。

英国のファッション&カルチャーマガジン”i-D magazine”の表紙ツイッグスが飾ったのが2012年8月であるし、同誌12月8日のwebページではツイッグスがEPデビューを果たしたことを紹介しており、観客の中には目が早いヒップスターや、ザ・エックス・エックス(The xx)らを輩出した有力なインディペンデント・レーベルからの新人に期待を寄せる耳が早いインディーファンも少なからずいただろうが、当初の反応は総じて冷ややかだった。考えてみれば、チケットは即日に完売し、観客の目的はジェイムズ・ブレイクの一点だったに違いなく、観客の眼中にツイッグスが入らないのは無理からぬことである。

やがてPAのバランスが調整されツイッグスのヴォーカルがクリアに聞こえだしてきた。それに合わせるように観客の喧噪は静まり会場全体が徐々に熱を帯びてきているのを感じた。私の記憶に刻印されているのは、華奢であるがしなやかなでパンプアップされた体躯を駆使して時折垣間見せるダンスが、カウントによる振り付けの動きではなく、イマジネーションによって動きを引き出し肉体の質感を提示するブトー(Butoh)のようであったということだ。
ツイッグスの身体技法によるシャーマニックなパーフォマンスにこのとき私は魅了された。
アンナ・パブロワが踊った“瀕死の白鳥(The Dying Swan)”もしくは日本舞踊の演目のひとつ“鷺娘”を想起させた。象徴派の代表的詩人ステファヌ・マラルメは「舞踊は見るのではなく、読むものである」と主張した。ステファヌ・マラルメに倣えば、自然の理を越えた恋の先に待ち受ける悲劇のメカニズムがモチーフとなったツイッグの表現は、アレゴリック(寓話的)であり、すぐれたオペラシオン(操作)とポエジーが読み取れた。(これについては“その2”で後述する)。


ツイッグスの軌跡
さて、ここでツイッグスの軌跡を簡単に振り返ってみる。
2013年9月25日の前述のライヴに行くに当たって私がインターネットブラウザにブックマークしたツイッグの関してのウェブページは"Not Found"になったページや記事が消されたものが少なくない。
MySpace https://myspace.com/twigslove

2010年12月17日。
ロンドン北部のイズリントンのミュージック・ヴェニュー、シルバー・バレット(The Silver Bullet)でのイベント、’Back to the Future Christmas Party’でエレクトロ・ポップ・アーティストとして出演していた。当時の記事を読むとこれが初めてのライヴでないことが伺えるもするが、“パブリック”な公演として、これがツイッグスのライヴ・デビューだ。

2011年のバブリックなライヴは2度。2012年は1度もない。多くのバンドたちもそうだが告知されないライヴ活動があったようだ。
ツイッグスのルームメイトと思われる人物のブログの2012年7月の記事にはプロショットといっていいツイッグスの写真が掲載されている。

2011年に放映された英国のテレビチャンネルBBC Threeのスケッチ・コメディーの番組”At Home with Beyonce”に出演していたダンサーとしてのツイッグス
このインタビューからPitchforkはツイッグスが「あのビデオに出ていた女の子」と認識されていたと立言しているが、「あのコメディに出ていた女の子」が現実に即しているかもしれない。
ツイッグスが出演していた映像)。

本人なのか定かでないがツイッグスを思わせるTumblrのページ
プロフィールには前述のスケッチ・コメディーの番組に出演していたことを記載し、自身が“ビデオガール”であることを自ら示す写真がある(『LP1』の#6の楽曲”Video Girl”は「ビデオガールはわたしでない、私はここにいる」と歌われる)。
レオタード姿でバレエのポーズをとっているセルフィー(自分撮り)、幼少時に母親と写った写真などが投稿されている。2012年9月30日~10月11日までに投稿されたものだ。
アーティスティックとは言い難いプライベートショットも含まれ、間もなく“BBC Sound Of 2014”で時の人となるツイッグスが、それ以前は有名人よりも”その他大勢”の方に近かったことが垣間見られる。TumblrはTumblr内で自由にリブログできるがシャア数が少なく“成りすまし”にしても”その他大勢”感が漂う。

ツイッグスのプロフィール
上述のTumblrに”Twigs aka real name Tahliah Barnett”とある通りに、ツイッグスの本名はターリア・バーネット。ジャマイカ系とスペイン系の血を引くハーフ。88年生まれの現在26歳。イングランド・グロスターシャーの保養地として知られているチェルトナムで生まれる。現在はロンドンが拠点。6歳の頃にダンスを始め10代後半にはプロのダンサーとして活動し、ジェシー・J(Jessie J)、カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)、エド・シーラン(Ed Sheeran)などのMVに出演している。ツイッグス=小枝という呼称は関節をポキポキ鳴らす癖から付いた。
2012年まで“Twigs”だけの表記だったが2013年になった頃から“FKA Twigs”の表記になっている。意味は”Formerly Known As twigs / かつてはツイッグスとして知られていた”。

2013年には、ジェイムズ・ブレイクのサポートアクトを務めた前述のライヴを含めて3度。
うちひとつは、ツイッグスが所属しているヤング・タークスのイベントである。

ツイッグスに関するブログ記事が増え始めたのは、セカンドEP『EP2』がヤング・タークスからリリースされほどなくして、ちょうど前述のジェイムズ・ブレイクのフロントアクトを務めた後の頃からだ。英ラジオ局BBC Radio 6 musicのジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)の番組でツイッグスの曲がエアプレイされるのもこの頃からである。
BBC Radio 1でエアプレイを獲得するのは“BBC Sound Of 2014”のロングリスト入りした2013年12月2日以降だ。デビューアルバム『LP1』がリリースされたばかりの週のBBC Radio 1では全アーティストの中で9番目にエアプレイを獲得している。

多くのバンドがライヴ活動でファンベースを広げていくが、ツイッグスが確たるファンベースを掴み広げていくのはこれからだろう。今年の3月から終えたものも含めて24公演のライヴをこなす予定でフェスの出演は4つ。気が早い話しだが、おそらく2015年のフェスシーズンにおいて各フェスのハイライトと成りうる存在がツイッグスになるのではないか。

2014年のツイッグスのライヴに私は2度はせ参じた。
6月26日、ICA, Institute of Contemporary Arts
7月30日、Heaven
フェスを入れればおそらく年間300アクト程度は見ている私だが、全身が引きつるような激しい感動を覚えたのはツイッグスが初めてだった。体のどこか薄暗いところに淀んでいた古い血が波立ち騒ぐような微かなざわめきが聞こえたライヴはツイッグスが初めてだった。

「その2」につづきます。........暇をみて更新。




Playlist - Official Music videos
01 "Hide" 2012年『EP』収録曲 Vデレクト Grace Ladoja and FKA twigs
02 "Ache" 2012年『EP』収録曲  Vデレクト Grace Ladoja and FKA twigs
03"Breathe" 2012年『EP』収録曲 Vデレクト Grace Ladoja and FKA twigs
04"Weak Spot" 2012年『EP』収録曲 Vデレクト Grace Ladoja and FKA twigs
05"How's That" 2013年『EP2』収録曲 Vデレクト Jesse Kanda
06"Water Me"  2013年『EP2』収録曲 Vデレクト Jesse Kanda
07"Papi Pacify" 2013年『EP2』収録曲  Vデレクト Jesse Kanda
08"FKA x inc." 2014 年『FKA x inc.』収録曲 Vデレクト Nick Walker and FKA twigs

09"Two Weeks" 2014年『LP1』収録曲 Vデレクト Nabil
10"Pendulum" 2014年『LP1』収録曲 Vデレクト Paula Harrowing