変形労働時間制のポイント | 名古屋の花井綜合法律事務所公式ブログ(企業法務・労働・会社法・相続など)
各変形労働時間制度作成のポイントを解説します。

~1箇月単位の変形労働時間制~

・意義
「製造工程やサービスの性質上、連続操業や長時間操業のための交代制労働を行わざるを得ない事業」「時期的な繁閑の差が大きく所定労働時間を一定期間の中で一時的に法定労働時間を超えて不規則に配分せざるを得ない事業」に有効です。

・導入の要件
労使協定(届出必要)または就業規則で下記の事項を定めなければなりません。
① 変形期間(1箇月以内の一定期間)
② 変形期間の起算日
③ 変形期間における各日、各週の労働時間
④ 変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間・特例44時間)を超えない定め
⑤ 労使協定の有効期間(労使協定による場合)

下記の理由により、労使協定ではなく就業規則で定めるのが一般的です。
●就業規則であれば企業が一方的に策定できる。
●常時10人以上を使用する事業場においては、始業・終業時刻を就業規則において特定することが義務付けられているので、結局、就業規則において労働時間、始業・終業時刻を定めなければなりません。

派遣労働者を派遣先において1箇月単位の変形労働時間制の下で労働させる場合には、派遣元事業場の使用者が、労使協定または就業規則により所要の事項を定める必要があります。

・労働時間の変更権について
変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は認められません(平11.3.31 基発168号)

しかし、予定した業務の大幅な変動等の例外的限定的な事由がある場合、変形期間開始後に、就業規則上の変更条項に基づいて労働時間を変更することが認められることがあります(JR東日本事件 東京地裁 平12.4.27)

したがって、就業規則において、労働時間の変更権を定めることを検討することは有意義といえます。



~フレックスタイム制~

・導入の要件
1就業規則で始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を定める
2労使協定(届出不要)で下記の事項を定める
① 対象となる労働者の範囲
② 精算期間(1箇月以内の期間に限る)
③ 精算期間の起算日
④ 精算期間における総労働時間
⑤ 標準となる1日の労働時間
⑥ コアタイム・フレキシブルタイムを定める場合には、その時間帯の開始・終了時刻

フレックスタイム制に係る労使協定は、行政官庁に届け出る必要がなく、有効期間の定めも不要です。

・年次有給休暇
フレックスタイム制の下で労働する労働者が、年次有給休暇を取得した場合には、当該日に標準となる1日の労働時間、労働したものとして取扱います(平6.3.25 基発195号)

・休憩時間
フレックスタイム制を採用した場合であっても一斉休憩が必要なときは、コアタイム中に休憩時間を定めるようにしなければなりません(昭63.3.14 基発150号)

休憩時間を一斉に与える必要がない事業場においてフレックスタイム制を導入する場合であって、休憩時間をとる時間帯を労働者に委ねようとするときには、就業規則において、各日の休憩時間の長さを定めるとともに、それを取る時間帯は労働者に委ねる旨の規定を記載しておけばよいです(昭63.3.14 基発150号)

・出勤命令
フレックスタイム制で勤務する労働者に対して、業務の都合上、特定の時間帯の出勤を命ずることができるのかという問題があります。例えば、会議が特定の時間に設定された場合に、当該会議への出席を命じることができるのかということです。

この点については、当該労働者に対しては、コアタイムの時間帯での会議出席を命ずる必要がある点に留意が必要です。コアタイム以外の時間帯の場合、使用者が出勤・残業を命ずることができないと解されるので、当該時間帯での会議出席は、労働者本人の同意が必要と解されます。



~1年単位の変形労働時間制~

・意義
1年のうちの繁忙期と閑散期が事前に予測でき、恒常的な時間外労働が発生しない場合には、導入に適しているといえます(例:デパート・物流業界・学校など)

書籍等の規定例では、時期によって1日の所定労働時間を異なる設定にしている例も多い印象を受けます。しかし、1箇月単位の変形労働時間制と異なり、主として1日の労働時間は変えずに休日数の調整により法定労働時間を変形して配置することを念頭に置いている制度であると言えます。

・導入の要件
労使協定(届出必要)により下記の事項を定めなければなりません。
① 対象となる労働者の範囲
② 対象期間(1箇月を超え1年以内の期間に限る)
③ 対象期間の起算日
④ 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)
⑤ 対象期間における労働日および労働日ごとの労働時間
⑥ 労使協定の有効期間

※「④特定期間」について
特定期間を設定する必要がない場合には「特定期間なし」と規定する必要があります。
対象期間の相当部分を特定期間とすることはできません(最大でも対象期間の半分程度)
なお、対象期間中に特定期間を変更することはできません(平11.1.29 基発45号)

※「⑤対象期間における労働日および労働日ごとの労働時間」について
対象期間を1箇月以上の期間に区分する場合には、次の事項を定めることで足ります。
① 最初の期間 → 労働日および当該労働日ごとの労働時間
② 最初の期間を除く期間 → 各期間の労働日数および総労働時間

この場合、使用者は、最初の期間を除く各期間の初日の少なくとも30日前に当該事業場の過半数労働組合(過半数労働組合が無い場合には、労働者の過半数代表者)の同意を得て、書面により各期間における労働日および労働日ごとの労働時間を定めなくてはなりません。

・労働日数および労働時間の限度
① 労働日数の限度
対象期間が3箇月以内 → 1年あたり313日(週休制による休日日数)
対象期間が3箇月を超える → 1年あたり280日
② 1日および1週間の労働時間の限度
1日 → 10時間
1週間 → 52時間
※対象期間が3箇月を超える場合には、次の(A)(B)のいずれにも該当する必要があります。
 (A)対象期間において、労働時間が48時間を超える週が連続する場合の週数が3以下であること
 (B)対象期間をその初日から3箇月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週の初日の数が3以下であること
③ 連続して労働させる日数の限度
特定期間以外 → 6日
特定期間 → 1週間に1日の休日が確保できる日数(12日)

・労働時間の変更権について
労働時間を使用者の任意に変更すると、1箇月単位の変形労働時間制の場合以上に、労働者の生活設計に与える影響が大きいことから、就業規則で労働時間の変更権を定めても、その有効性に疑義が生じます。

・休日振替について
1年単位の変形労働時間制においても、休日振替の導入は可能だと思います。
行政通達でも、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が行われる場合は1年単位の変形労働時間制は採用できないとされていますが、労働日の特定時には予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行わなければならない場合にまで認めない趣旨ではないとされています(平6.5.31 基発330号、平9.3.28 基発210号、平11.3.31 基発169号)


~1週間単位の非定型的変形労働時間制~

・対象となる事業(次のすべてを満たす事業)
① 日ごとの業務に著しい繁閑の差を生ずることが多い事業
② 繁閑を予測した上で就業規則により各日の労働時間を特定することが困難であると認められる事業
③ 小売業、旅館、料理店、飲食店の事業
④ 常時使用する労働者数が30人未満の事業

・導入の要件
① 労使協定(届出必要)を締結すること
② 労働させる1週間の各日の労働時間を、少なくとも当該1週間の開始前に労働者に書面で通知すること

緊急でやむを得ない事由がある場合には、使用者は、あらかじめ通知した労働時間を変更しようとする日の前日までに書面により当該労働者に通知することにより、あらかじめ通知した労働時間を変更することができます。

派遣労働者を派遣先において1週間単位の非定型的変形労働時間制の下で労働させることはできません。

・効果
1週間40時間の枠内で、1日について10時間まで労働させることができます。

以上

次回ブログ「変形労働時間制の規定例」に続きます。



◆花井綜合法律事務所 労務管理サイトはこちらから
花井綜合法律事務所 労務管理サイトへ


◆花井綜合法律事務所へのお電話でのお問い合わせはこちらから
TEL:052-485-5655

◆花井綜合法律事務所をもっと詳しくご覧になりたい方はこちらから
花井綜合法律事務所公式HPへ

◆花井綜合法律事務所 就業規則診断ページはこちらから
就業規則診断ページへ

◆花井綜合法律事務所 顧問契約詳細はこちらから
法務・労務一体型顧問契約サイトへ

◆花井綜合法律事務所 事業再生・倒産詳細はこちらから
事業再生・倒産サイトへ

◆花井綜合法律事務所 労務管理・労働紛争サイトはこちらから
労務管理・労働紛争サイトへ

◆花井綜合法律事務所 事業承継サイトはこちらから
事業承継サイトへ

◆『20秒』で読めるメルマガ購読の登録はこちらから
メルマガの登録はこちらから