ユノ達がカナダに移り住んで15年が経っていた。
ユンジェは20歳になったあたりから成長は止まり、逞しく端正な青年に育った。
年を追うごとに、ますますユノに似てきたユンジェは、ユノと並ぶと兄弟のように見えた。
ジュノも生まれて10年で(人間でいう20歳)で成長は止まったが、ユンジェ同様逞しく育った。
ジェジュンそっくりだった可愛らしさも抜け、ユノそっくりに端正な横顔を見せた。
ユンジェもジュノも、ユノと同じぐらい高身長で、3人が並ぶとメタセコイヤ(巨木)の並木だとみんなが笑った。
見た目は全員20歳ぐらいに見えるため、街ではハンサム3兄弟に可愛い妹、と認識されることが多く、ジェジュンはいつも不満げだった。
「なんで僕が妹なんだよぉ。僕はオンマだ!」
「しょうがねぇじゃん、ジェジュンが一番チビだし、一番童顔なんだからさぁ」
「チビだぁ?ジュノ!お前はマンネのくせにオンマに対する敬意がないっ!今日はご飯抜きっ!」
「またジュノがジェジュン怒らせてんのか?ジュノいい加減にしろよ」
「聞いてよユンジェ!ジュノがオンマの事チビだって!くっそー、みんなしてユノ並みにデカくなりやがってぇぇぇ」
「分かった分かった。俺が後でジュノにきつ~く言っておくから。ジェジュンは俺らの自慢のオンマだよ」
いつもジュノがジェジュンを怒らせて、ユンジェがジェジュンをなだめる。
まるで兄弟のような3人に、ユノはハハハと笑いながら新聞を読んでいる。
ユンジェはジェジュンを「愛してるよ」と抱きしめ、ジュノも「ごめん、愛してるよ」と抱きしめた。
カナダで育った兄弟は、ユノの影響もあり、レディーファーストでナイスガイな青年に育った。
そんな時、ヨンミンが韓国に帰ると言い出した。
昔世話になった人の息子の病院が、困っているようだから助けたいとのことだった。
「え…韓国に帰るの…?」
ジュノは初めての韓国に喜んでいたが、ユンジェは複雑な面持ちを見せていた。
ユノとジェジュンは、懐かしい韓国への移転に積極的だった。
「久しぶりだなぁ。チャンミンたち元気かな。手紙は送ってたけど、最近は全然連絡とってないし…ジュノが生まれて、結局一度も韓国に行けなかったしね」
「チャンミン子供生まれたんだろ?もう大きくなってるだろうな」
「うん。5人のパパだよ。ジュンスも結婚したらしいし。ジュンスなんて7人のパパだよ」
「そうか、オオカミは多産だなぁ」
ユンジェは思い出していた。
15年前、あの街を離れる日、チャンミンが見送りに来てくれた時の事を。
国道の向かい側の崖に立ち、ユンジェを見ながらチャンミンはオオカミに変身した。
たんみん…。
ずっとチャンミンの事を忘れた日はなかった。
カナダで学校に通い、たくさんの友達ができ、オオカミの友達もたくさんできた。
人並みに女の子とデートもしたし、ステディになった子もいた。
だが発情期に迎える血の飢えや、オオカミとヴァンパイヤのミックスである自分は、どうしても人間には全てをさらけ出せず、いつもその関係はすぐに終わった。
オオカミ族の男と付き合った時が一番長続きしたが、彼に抱かれながらユンジェはいつもチャンミンの事を思い浮かべていた。
何処まで行っても自分がチャンミンから抜け出せないと知り、悲しくなったりもした。
だが、いつもユチョンが慰めてくれた。
「ユノとジェジュンは、どれだけ反対されて試練があっても結局夫婦になった。お前とチャンミンがどうかは知らないが、繋がる人とはどうやっても繋がるもの、それが縁だ」
「ねぇユチョン…。ずっと聞きたかったんだけど…ユチョンは好きな人、いないの?」
ユチョンは薄く笑っただけで、結局答えてくれなかった。
韓国に帰国し、新居を整えながら、ユンジェはずっとそわそわしていた。
ジェジュンがオオカミ達の所に挨拶に行くと聞いて、率先して車を運転し、コミュニティーに向かった。
長老は亡くなっていたが、チャンミンの父やセロイ達が快くチョン家を迎えた。
今日もオオカミのコミュニティーは子供たちの笑い声に包まれ、明るく賑やかな空間だった。
15年前と変わらぬ光景に、ジェジュンは嬉しくなった。
みんなに挨拶し、その度「大きくなったなぁ」「父親そっくりだなぁ」と声をかけられて。
返事を返しながら、ユンジェはただ一人の姿を探していた。
「ユンジェ?」
後ろから、懐かしい声が聞こえ、ユンジェは勢いよく振り返った。
そこには、40歳になったチャンミンがいた。
端正な顔つきはそのままに、落ち着いた雰囲気で逞しさが増したチャンミンが、驚いた顔をして立っていた。
分厚くなった胸板、まくり上げられたシャツから覗く日に焼けた太い腕、年齢を重ねた渋さが、ますます知的な様相を呈し、ユンジェを懐かしそうに見た。
「大きくなりましたね…」
「……たんみん…」
ユンジェはチャンミンに駆け寄り、抱き着きたかったが、体が動かなかった。
「ジェジュンも…元気そうで。本当に変わらないんですね。なんだか僕が老けた気分ですよ」
「ふふっ!チャンミン久しぶり!会いたかった!」
「えぇ。僕も会いたかったですよ」
抱き合うチャンミンとジェジュンを見て、キリリと胸が痛んだ。
「…聞いたよ。奥さん、亡くなったんだってね」
「えぇ、病気で…。2年前亡くなりました」
「そう…結局会えなかったな。子供たちは?元気?」
「えぇ。コミュニティー内ですが、もう独立してます。オオカミは13歳で大人とみなされますから」
大人たちは昔話に花を咲かせ、ジュノはオオカミの子供たちと楽しそうに遊び、ユンジェは一人ぼんやりとベンチに座って、懐かしいコミュニティーを見ていた。
「ここにいたんですか?」
チャンミンが横に座り、ユンジェは一気に心臓がバクバクと音を立てた。
「本当に大きくなったなぁ。でも、僕の方が背は高いかな?」
「そ、そんなことないよ!きっと僕の方が!」
立ち上がり背を比べたが、少しだけチャンミンの方が大きかった。
ふと、チャンミンからおひさまの匂いがして、ユンジェは一瞬であの頃に戻った気がした。
ユンジェは、勢い良くチャンミンに抱き着いた。
「たんみん…!会いたかった!」
「えぇ。僕も会いたかったです」
チャンミンは優しくユンジェを抱きしめ返した。
「ねぇたんみん、覚えてる?僕がこの街を離れる日…たんみんが見送りに来てくれた時の事」
憶えている。
あの日、挨拶に来たジェジュンと会うことが出来ず、だがそのまま別れた方がいいと、迷いに迷った挙句、慌てて山道を走った、あの日…。
「あの時、たんみん、なんであんな事言ったの?違った…何であんな事思ったの?」
「え…?」
「忘れた?僕はテレパスだよ。たんみんがあの時心に思ったこと、僕にも聞こえたんだ」
途端にせわしなく顎や頭を掻きだしたチャンミンが、罰が悪そうに言った。
「聞こえてた…のか?」
「うん」
「たんみん…僕はもう子供じゃない。大人だよ…」
熱いまなざしでチャンミンを見つめるユンジェは、若さを煌めかせながらも大人の妖艶さも隠し持っていた。
「そうだな…。もうユンジェは子供じゃないようだ。でも僕はおじさんになったよ…」
「おじさんじゃないよ。たんみん…僕の気持ちは今もあの時と変わらない。僕は…」
チャンミンは、ユンジェの唇を人差し指で塞ぎ、それ以上言わせなかった。
ユンジェは悲しくなり、目を伏せて俯いた。
そんなユンジェの耳元に、チャンミンが低い声で囁いた。
「ユンジェ、今度お前を大人のデートに誘うよ。話はその時にしよう」
「ぇ…?それって…」
ポッと顔を赤らめたユンジェを見て、チャンミンはニヤリと笑った。
ユンジェはチャンミンに飛び込むように抱きつき、チャンミンはチュっと髪にキスを落とした。
あの日…ユンジェたちがカナダに発つ日。
崖の上でユンジェたちの車を見つけ、オオカミ族の合図を送った。
「俺達は一つ。信じてる」
だが、そのあとオオカミに変身したとき、チャンミンは心に強く思った。
『ユンジェ…。愛しいユンジェ。いつか帰って来い。僕のもとに、帰っておいで…』
抱き合ったユンジェとチャンミンを、ユチョンは遠くから見守っていた。
あの時、カナダに行く前…ユチョンにはある未来が見えていた。
遠い未来の事だからハッキリとではなかったが、ユチョンの勘と相まって見えていた未来。
それがまさに、今日の「大人になったユンジェとチャンミンの抱擁」だった。
「はぁ…ジェジュンが知ったら…怒るだろうなぁ」
そう言いながら、ユチョンはユンジェの味方をしてやろうと、今からジェジュンをなだめる方法を考えていた…。
完
今度大人のデートに誘うよ
※※※
ユンジェ、見事チャンミンを射止めました♡
15年越しに、初恋がやっと実りそうです^^
チャンミンは、ユンジェの口を塞ぎ、その話は「大人のデートで」と言いました。
チャンミンの事だから、きっと完璧な告白をユンジェにするのでしょう。
実は、ひっそりと心の中でユンジェへの気持ちを温めていたチャンミン。
やっとチャンミンにも幸せになってもらえて満足です!
次回、ユチョンのお話です。