ユンジェは、ユチョンにチャンミンの家に行ったことは話したが、「好きだ」と告白したことや、子ども扱いされたことは、恥ずかしくて黙っていた。

話ながらポロポロ涙をこぼずゆんじぇは、ユチョンに詰め寄った。

 

「ねぇユチョン!自分の未来を見ようと思ったけど全然見られないんだ!ユチョンには僕の未来が見えない?」

 

ユチョンは、チッチッチと舌打ちをしてユンジェに言った。

 

「やぁユンジェや、そんなもの見てどうするんだ。未来ではお前とチャンミンが一緒にいるとでも言って欲しいのか?」

 

「……」

 

「俺たちは永遠の命だ。うんざりするぐらい長い長い道のりを歩いていくんだ。その上未来まで見えたら、何が面白くて生きているのかってなっちまうだろ?」

 

「だけどっ」

 

「少なくともチャンミンには未来は見えない。だったらお前も同じでいいじゃねーか。言ったろ?初恋は実らないものだって。新しい世界に出て新しい人に出会う。それでもやっぱりチャンミンが好きなら…その時言えばいい、好きだって」

 

「言っちゃったもん!もう言っちゃったんだよぉぉぉ」

 

「え?もう言っちゃたの?」

 

「うわぁぁん!ユチョン、どーしよ―‼勢い余って言っちゃったんだよぉ」

 

「ぷっ‼アハハハハ!」

 

ユチョンはたまらずゲラゲラ笑いだした。

 

「そうか…言っちゃったか…」

「うん…。思いっきり子ども扱いされた。抱かれたいのかって言われた。僕そこまで考えてなくて…」

 

「え?チャンミンそんな事言ったのか?」

「うん。抱いていいよって言ったら、バカな事言うなって怒られた」

 

ユチョンは「そりゃそうだろう」と思った。

チャンミンが、まだ子供のユンジェを抱いた、なんてユノやジェジュンが知ったら…血の雨が降るぞ。

まったく…恐いものなしってのは一番怖いなぁ、そんな事を考えながら、目の前でさめざめと泣くユンジェの頭を撫でてやった。

 

 

 

ユチョンは、チャンミンの家を訪ねた。

チャンミンは驚きながらも、ユチョンを快く迎えてくれた。

二人は家を出て、オオカミのコミュニティーの奥にある原っぱに来ていた。

 

「珍しいですね、貴方が僕の所に来るなんて。ジュンスの家にはしょっちゅう行っているようですが」

「まぁな…」

 

「この街を出るとか」

「あぁ噂が広まる前にな。本当はもっと早くこの街も出るつもりだったが、ユンジェの事を考えて今まで伸ばし伸ばしになっていたんだ」

 

「あぁ…なるほど。今日来たのも、ユンジェの事ですね?」

「お!さすが。鋭いねぇ」

 

二人は大きな木の切り株に座り、少し距離を取って話していた。

 

「思えば、アナタとはゆっくり話したことはありませんでしたね。ジェジュンが結婚するまでは、僕はアナタの事が苦手でした」

「そりゃ奇遇だな、俺もチャンミンが苦手だったよ」

 

ふふふと笑いながら、生えていた草を弄ぶチャンミン。

ユチョンも微笑み、木漏れ日を浴びて、肌をキラキラと輝かせていた。

 

「…あなたは確か未来が見えるとか…。何か見えたんですか?」

「いや、俺は直近の事しか分からないから。何も見えていないよ」

「でも何かを感じたから来た、そうですよね」

「まったく…。チャンミンは未来予知もないくせに、鋭くて嫌になるよ。だから苦手なんだ」

 

チャンミンはふふふと笑い、髪を掻き上げた。

 

 

「苦手なアナタにだけは、告白しておきますよ」

 

 

チャンミンは、木漏れ日を肌で感じながら、吹いてくる涼し気な風を香った。

泣きながらしがみつき「僕を抱いていい」と言ったユンジェの顔を思い出していた。

 

 

「僕はあの時、恥ずかしながら心を動かされてしまった。あの頃のジェジュンと同じ顔で言ったユンジェの言葉に心がぐらついた。一瞬、僕の成就されなかった悲しい思いを、彼を身代わりにして、彼にぶつけてみたくなった。そんな事をすれば、どれだけユンジェが傷つくか分かっているのに…。まったく、ダメな大人です…」

 

 

ユチョンは目を丸くして聞いていた。

 

「ユンジェが生まれ、僕の事を一番に呼び、僕に引っ付いて、僕の事を一生懸命追いかけてくるユンジェが可愛かった。大切に大切にしたかった。僕が知っているすべての事を教え、僕が導いていこうと思っていました」

 

「けれど…時の流れが自分の気持ちもユンジェの気持ちも変えてしまう。僕はとても怖くなった。僕の刻印の者はジェジュン、それは何があっても変わらない。だけど…日に日に成長し、眩しく育っていくユンジェを見るのが…恐かった。だから一族の結婚を受け入れたんです」

 

「刻印の者がいても、他に愛する人が出来るのはおかしい事じゃないだろ。人間であれば当たり前の事だ」

 

「アナタならそう言うと思っていました。だけど、僕は一族の人間だ。その掟から離れられない」

 

「厄介だな…」

 

 

「でも…もし、一族の務めを果たし…自分の責務を全うしたなら…その時は…」

 

 

ざぁっと強い風が吹いて、チャンミンの話を遮った。

 

チャンミンはもうその話はしなかった。

ユチョンもそれ以上問う事はしなかった。

 

二人はそのまま帰り、ユチョンの車の前に立った。

 

「じゃあ…お元気で」

「あぁ、チャンミンも」

 

そんなあっさりとした別れ文句で、二人は別れた。

 

チャンミンは、ユチョンに口止めをしなかった。

そんな事をしなくても、この人は誰にも言わないと確信があった。

 

ユチョンは分かっていた。

チャンミンがこの事を、ユンジェに伝えて欲しかったわけではなく、ただ自分の気持ちを吐露したかった、それだけだったことを。

 

互いに苦手意識がある二人だったが、そういった信頼感は誰よりもある二人だった。

 

 

引っ越し先は、カナダの山間にある街に決まった。

言葉が心配だったが、ユンジェは普通の子どもよりずっと体も大きかったから、人間の子どもに交じって学校に行く事も決まった。

ヨンミンたちは以前住んだことのある街で、家もあるから、決まれば早かった。

 

「ジェジュン、英語圏だが…大丈夫か?」

「う~ん…全然喋れないけど…。なんとかなるよ」

「まぁ俺たちは全員話せるし、ユンジェもすぐ覚えるだろ。俺が教えてやるし」

 

ユンジェは、引っ越しが決まってからずっと元気がなかった。

ジェジュンとユノは、チャンミンと別れるのが寂しいのだろうと、あまり構わない事にした。

ユンジェは、オオカミの所にもいかず、チャンミンの名前すら口にしなかった。

 

「ユンジェ、引っ越しは明日だよ。本当にいいの?チャンミンに会わなくて」

「…いいんだ」

 

ジェジュンはため息をつき、また引っ越しの荷づくりに励んだ。

 

 

引っ越し当日、ユノ達は今まで何度も経験した引っ越しだったため、大したアクションはなかったが、ジェジュンはオオカミ族の所や、スンウォンの所などあいさつ回りに忙しかった。

ただチャンミンとは時間が合わず、結局会えなかった。

 

「また、夏休みにでも帰ってくればいいさ」

「うん…出来れば最後に話したかったけど…仕方ないね」

 

走り出した車の後部座席で、ユンジェはぼんやり外を見ていた。

ジェジュンは、この街であった出来事を思い出し、少し感傷的になっていた。

ユノはそんなジェジュンの手をそっと握り、優しく頭をポンポンと撫でた。

 

霧の多いこの街でユノに出会い、愛し合い、みんなに反対されて、ユンジェが生まれて。

色んなことがあった。

切なさに身を焦がし、辛くて辛くてどうしようもなくて、涙にくれた日もあった。

転生が出来ず半年も眠ったままで心配をかけたり、李一族との戦いもあった。

 

でもそれも、今となってはいい想い出…。

 

ふと、ジェジュンが走っている国道の向こうの崖に、誰かが立っているのが見えた。

 

「…チャンミン?ユノ!チャンミンだ!」

 

ユノが車を止めると、チャンミンが笑って手を振っていた。

 

 

 

 

 

たんみん!

 

 

 

 

※※※

チャンミンの告白。

一族の意思である結婚を受け入れたのは、ユンジェへの気持ちに戸惑ってしまったから。

今の段階では、どうやってもユンジェを受け入れる事は出来ません。

ユンジェはもちろん、ジェジュンやユノを傷つけることはしたくないから。

いつもいつも切ないチャンミン…(そんな君が好き)

互いに苦手意識を持ちながら、強い信頼関係を持っているユチョンとチャンミン。

ここの関係性、とても好きです^^