「ユノやーイロナ~(起きて)ん~?」
眩しい朝日が白いカーテン越しに、部屋いっぱいに入ってくる。
眠っているユノの真上から顔をのぞき込む、可愛い恋人。
ユノはすかさずジェジュンの体を抱き寄せ、素早くシャツの中に手を潜り込ませた。
「も―ユノ、今日は打ち合わせでバンクーバーに行くんじゃなかったの?」
「あ、そうだ」
ユノは起き上がり、チュッとジェジュンにキスをした。
「朝食出来てるから。早く食べて♡」
「うん」
寝ぐせ頭のままダイニングに向かうと、テーブルでモリモリ朝食を食べている男がいた。
チャンミンだ。
「あ、ユノ兄おはようございます。なんですかその頭。スーパーサイヤ人ですか」
「は?なんでお前が朝飯を食ってる?」
「今日はジェジュンさんの仕事で。契約の更新です」
ジェジュンは出演したドラマの評判がよく、すぐさまシーズン2の作成が決まった。
カナダに本拠地を置きながら、韓国を行ったり来たりしている。
ユノはジェジュンが住む家に転がり込み、以前言っていたカナダ住宅の輸入の仕事をはじめ、ジェジュンがいるケベックや、トロント、バンクーバーなどカナダ中を飛び回っている。
チャンミンは本気で犬ぞりレースに出るらしく、今はユーコンのホワイトホースに住んでいる。
毎年2月に行われる「ユーコンクエスト」という犬ぞりレースは、ユーコンのホワイトホースからアラスカのフェアバンクスまで1000マイル(1600km)を10日間かけて凍った大地を犬ぞりで疾走するという過酷なレース。
マイナス13度の中を一日160km走り続けるレースは、完走自体が難しく、チャンミンはあるマッシャー(犬ぞり師)について犬のトレーニングや扱い方を学んでいる。
「なんだ?チャンミン、顔が真っ黒だな」
「当たり前でしょう、私は一日中外にいる生活です。あ、ジェジュンさんさっき言っていた僕の犬たちの写真です」
「わぁ~可愛い!あ!この子がアルだね?リーダーの」
「えぇそうです!スゴイですね、すぐわかるなんて」
「分かるよ~すごく賢そうな顔してるもん。可愛いな~ナデナデしたい♡」
「いつでも来てください。アルもジェジュンさんに会いたいと思ってますよ^^」
「犬がそんな事思うわけねーだろ。ジェジュン、騙されるな」
まさか本気で犬ぞりをやるとは思ってなかったが、チャンミンは夢が叶ったと嬉しそうだ。
ユノの会社を立ち上げるときは協力してくれたが、すぐさまユーコンに行ってしまった。
時々こうやってジェジュンの契約更新の時など現れて仕事をし、たらふくジェジュンの飯を食って帰る。
俺が呼んでもちっとも来ないくせに。
ジェジュンがキッチンで料理をしている隙に、チャンミンが小声で言ってきた。
「ジェジュンさんには言ったんですか?記憶喪失はウソだったと…」
「言えるかバカ!一生の秘密だ。お前も言うなよ」
ふふんとチャンミンは意地悪く笑った。
「それで、韓国からは…何か連絡は?」
「あぁシウォンが時々な。カナダ住宅の輸入も検討しているそうだ」
シウォンはユノの記憶が失われていない事を知っていた。
ユノがカナダに行く当日、知ってますよと言われたが、組には黙っていてくれている。
ユノが始めたカナダ住宅の仕事を、韓国でもやりたいと言ってきた。
「まぁ万事うまくいって万々歳じゃないですか」
「何が上手くいってだ。言っとくが無職なのはお前だけだ」
「職が何だというんです。私は今、子供の頃からの夢を叶えようとしているんです!」
「そう!夢は大事だよね~」
ジェジュンが出来立てのチゲを机に置いた。
「ケッ!何が夢だ!」
「言っとくけど、ユノだって無職みたいなものだよ。まだちっとも稼げてないでしょ?」
「これからだ!これから!今に見とけよジェジュン!」
「ハイハイ、楽しみにしてるよ。さ、ユノも食べて~」
ジェジュンが今日着るスーツやネクタイを見立ててくれる。
「今日は初めて会う人だから優しい印象がいいよね。ネクタイはこっちにしよう」
「今日は遅くならないと思うが。チャンミンは今夜もいるのか?」
「ううん、契約が終わったらすぐ帰るって。犬たちが待ってるからって」
「じゃぁ…今日は夕食後に、お前を食べる」
「もう!バカ…」
恥ずかしそうに俯いたジェジュンに、チュとキスをした。
バンクーバーに向かう車の中、ユノはカナダに向かう前日シウォンと話したことを思い出していた。
「明日からカナダですよね。ゆっくり静養してください。こっちの事は俺に任せて…」
ゆっくりと頷いたユノに、シウォンは耳元で囁いた。
「ユノ兄は本当に芝居が下手だ。カナダでお芝居を教えてもらうといいですよ、あなたの恋人であるアジアの宝石に」
「え?なんでお前知って…」
思わずそう呟いて、ユノは慌てて口を閉じた。
「全部知ってます、貴方の恋人がアジアの宝石キムジェジュンという事も、記憶をなくしたふりをしている事も、もう組に戻る気がない事も…」
「そうか…。知ってて黙っていてくれたんだな…すまない、シウォン…」
深く頭を下げてしまったユノに、シウォンが言った。
「別に。俺はね、貴方に失望したんです。いくら仲間のためとはいえ単身丸腰で敵のホームに乗り込むなんて人が良過ぎます。挙句の果てに刺されて死にかけて。あなたはヤクザに向いていません。あなたは誰も守れない。そんなあなたには誰もついていきません」
「…反論できねぇ。お前の言う通りだ」
「もう分ったでしょう。あなたは恋人を守っていればいい。組は俺が守ります。あなたの場所はここにはない。会長も同じ意見です。あなたは破門、だそうです」
シウォンはニヤリと笑った。
「どうぞ、カナダでお幸せに…」
ちぇっ!カッコいいところ持って行きやがってよーちくしょう。
ジェジュンからカナダ行きの話を聞いた時から準備していたおかげで、新しいビジネスはうまく行きそうだ。
だが一人では限界がある。
そう、人は一人では生きていけないんだ…。
仕事を終え家に帰ると、何故かチャンミンがいた。
「は?お前もう帰るんじゃなかったのか?犬が待ってるんじゃないのか?」
「飛行機が取れなかったんです。明日帰りますよ。何ですか、あからさまに嫌な顔をして。大人なんだから社交辞令ぐらい言いなさいよ」
ジェジュンは嬉しそうに大量の料理を作るために、キッチンに籠っている。
ユノはビールを飲みながら、チャンミンに言った。
「お前…犬レースが終わったら…どうするんだ?」
「犬ぞりレースですよ。まぁどこかの法律事務所で働きますよ」
「…その…なんだ、お前…もしよかったら…俺ともう一度…」
「なんですか?ハッキリって下さい。よくわかりません」
ユノはチッと舌打ちして言った。
「俺ともう一度仕事しないか…いや、して欲しい!」
チャンミンはフフッと笑って言った。
「いいんですか?僕のギャラは目が飛び出るぐらい高いですよ?」
「構わない。お前と一緒に仕事がしたいんだ」
ガバッと後ろから抱きつかれ、ジェジュンの細い腕が巻きついている事を知った。
「ユノ…。きっとチャンミンは頷いてくれるよ。ね?チャンミン」
チャンミンは意地悪な顔をして条件があるといった。
「条件?なんだ?なんでも聞くぞ」
「ジェジュンさんのご飯です。ジェジュンさんがご飯を作ってくれるなら、格安で引き受けましょう」
「はぁ?俺のこの決死の覚悟より、ジェジュンの飯か?」
「アナタの覚悟で腹は膨れません。どうです?ジェジュンさん」
ジェジュンはお腹を抱えて笑った。
「もちろん!いつでも食べに来て!」
「お引き受けしますよ、ユノ兄」
「まったく…しょーがねぇなぁー」
ジェジュンがユノとチャンミンの肩を抱き、3人で笑い合った。
次の日、チャンミンが帰ったリビングで、まったりとジェジュンと抱き合っていた。
「あの日…再会してから、色んなことがあったね。ユノ、後悔してない?」
「後悔?するわけない」
「だって…ユノの生き方変えちゃった気がして…」
「別に。俺はヤクザになりたかったわけじゃねぇ。たまたま家がそうだっただけだ」
「俺と付き合ってるって事は誰にも言えないよ?いくらカナダでも人目を避けなきゃならない。ユノには窮屈な思いをさせることになる…」
ユノはちゅっとジェジュンの額にキスをし、「バカだな…」と囁いた。
「アジアの宝石を手にしたんだ。生き方ぐらい、いくらでも変えてやる」
ジェジュンはフフッと笑って悪戯っぽく言った。
「ねぇ。チャンミンから聞いたんだけど…ユノ、俺のファンクラブに入ってるってホント?」
「バッバカ言え!そんなもん、俺が入るわけ」
「雑誌も写真集も買ったって。まさか、ペンカフェとか登録しちゃったりして…」
ユノの顔がみるみる真っ赤になった。
「…マジ?」
「うっうるさい!ただの情報収集だ!」
ジェジュンはフフフと笑い、ユノにぎゅっと抱きついた。
「ユノ、大好きだよ」
ユノは赤い顔を隠すようにジェジュンを倍の力で抱きしめた。
「ジェジュン、ずっと一緒にいよう。これからもずっと」
ユノはユノを見上げるジェジュンに優しく口づけた。
この優しい時間がいつまでも続けばいい、そう思った。
「いつまでも一緒だよ、俺たち」
ジェジュンはまるでユノの気持ちに返事するように、優しく微笑んだ。
テーブルにはジェジュンが淹れた温かいコーヒーが二つ、白い湯気を立てて並んでいた…。
ユノ誕生日おめでとう。楽しい時間をすごして♡
完
※※※
はぁ~何とか書き上げました!あぁ疲れました^^
時を超えて(6話)からのサンキュ―(17話)。
まったく予定になかったお話を書いてしまったのは、あの秀逸なMVのせい。
ユノは記憶喪失の嘘を黙っているみたいですが、いつかチャンミンがバラしそうですね^^
ヤクザなストーリーでしたが、最後はほんわかラストに持っていけてホッとしています。
感想を頂けましたら嬉しいです。
それだけが頑張るモチベーションです♡