朝起きると、下腹部にひどい鈍痛が走った。

あぁ…昨日調子に乗り過ぎた…。

 

まだ眠っているユノを起こさないようベッドを抜け出し、シャワーを浴びて仕事に向かった。

一つ仕事を終え、昼を過ぎるころには、ますます体調が悪くなった。

 

参ったな…この後もスケジュール詰まってるのに…。

ようやくすべての仕事を終えた頃、約束していたチャンミンが事務所に顔を出した。

 

「ジェジュンさん、この前言っていた資料です」

「あぁ、ありがとう…」

 

立ち上がった瞬間、ジェジュンの体がぐらりと傾き、そのままチャンミンになだれ込んだ。

 

「ジェジュンさんっ!」

 

思わず抱きとめた華奢な体に、チャンミンは怖くなった。

このまま壊れてしまいそうだ。

ふと、ジェジュンの項に濃い鬱血痕を見つけた。

 

…あ。

ユノ兄の仕業だ。無理をさせたな!ちくしょう!きっと、そうだ。

ぐぬぬ!あの性欲オバケめ!よくも私のジェジュンさんを…クソッ!

 

「ぁ…ごめ、ん…」

ジェジュンはすぐに気が付いたがその顔色は悪く、真っ白でまるで血の気がない。

 

「ジェジュンさん、病院行きましょう」

「ダメ…!病院は色々と…面倒。帰って寝れば大丈夫…」

「…分かりました。送ります」

 

倒れてしまったジェジュンにパニックのクスンジュンがバタバタ慌ててウロウロしている。

 

「マネージャーのクスンジュンさんですね?ジェジュンさんの荷物を。僕が送りますから道を教えて」

「はっはい!」

 

チャンミンはジェジュンを抱きかかえたまま、事務所を出てジェジュンの家に車を走らせた。

 

「クスンジュンさん、ジェジュンさんはずっと具合が悪かったんですか?」

「スンジュンでいいです。今日はずっと体調悪そうでした。カナダに行く前にスケジュールを詰めているので、最近忙しかったんです」

「スンジュンもカナダには一緒に?」

「行きたいんですけど連れて行ってくれるかどうか…。でも僕は絶対ついていきます」

「なぜそんなに一緒に行きたいんですか?」

 

「ジェジュンさんは僕の憧れだからです!僕、実はとてもどん臭くて…仕事でも失敗ばかりで。ジェジュンさんにもいつも怒られるけど、でも絶対僕をクビにしないって言ってくれたんです。僕が仕事クビになると、母親や弟が路頭に迷います。ジェジュンさんも若い頃、高校に行かずにレッスンとバイト三昧で、血を売ってお金を稼いで母親と祖母を養ったって聞きました」

 

「…苦労人なんですね」

 

「ジェジュンさんはとても綺麗だけど誰よりも男らしくて。今も事務所の稼ぎ頭で、たくさんの人がジェジュンさんにぶら下がってる。だけど愚痴一つこぼさず仕事をやり切ります。そんなジェジュンさんに、僕は憧れているんです…」

 

 

 

チャンミンはジェジュンを送ってから、すぐユノの家に乗り込んだ。

 

「ユノ兄!何してくれちゃってんですか!私のジェジュンさんに!」

「は?誰がお前のジェジュンだっ!」

「おっと口が滑った。それよりアンタあの人に無理を強いたでしょ!可哀想に青い顔をして倒れてしまいましたよ!」

 

チャンミンがプンプン怒りながらそう言うと、ユノは驚いた顔をしてチャンミンに詰め寄った。

 

「ジェジュンが倒れた?それで?ジェジュンは大丈夫なのかっ?」

 

大丈夫と言おうとして、チャンミンの悪戯心がうずいた。

 

「…分かりません。今は自宅にいるようですが…行った方がいいんじゃ…」

 

ユノは険しい顔をして、車のキーを掴むと慌てて部屋を出て行った。

その背中からは、ジェジューン!という叫び声が聞こえてきそうだった。

 

慌ててジェジュンの家まで車をぶっ飛ばすと、ユノはそのままジェジュンの部屋に向かった。

チャイムを連打すると、中からジェジュンがビックリした顔でロックを解除した。

 

「え?ユノ?どうしたの?」

「お前が倒れたって聞いて…」

「ちょっとふらついただけだよ、大丈夫。もしかして…心配してきてくれたの?」

「え?…いや、あぁ…」

 

ジェジュンは嬉しそうにユノを招き入れた。

初めて来たジェジュンの部屋は白を基調としたいかにもスターらしい部屋で、インテリアも数々の雑貨や調度品も高級品らしく、スタイリッシュにまとまり、いい匂いがした。

 

ユノはジェジュンの腕を引き顔色を確認する。

 

「すまん、昨日、調子に乗り過ぎたな…」

「いいんだよ、俺が望んだんだから。それよりユノ、話があるの」

 

ユノをリビングの白いソファに座らせると、ジェジュンは嬉しそうに言った。

 

「あのね、カナダのドラマが上手くいきそうなんだ。それで向こうの監督がね、一度カナダに来ないかって。ロケ地に使う場所も見てもらいたいって。ご友人も一緒にどうぞって招待してくれたんだ」

 

カナダのドラマ班は是非ジェジュンにオファーを受けてもらいたいらしく、ジェジュンはドラマの舞台になるケベックシティーに一度来てもらいたいと招待を受けていた。

 

ジェジュンから自然豊かな湖の写真や、綺麗な街の写真を見せられる。

 

「もちろん仕事でもあるからマネージャーも来るけど、自由な時間もある。二人で旅行なんてなかなか出来ないだろ?でもカナダだったらきっと大丈夫。飛行機もファーストクラスだし。絶対楽しいよ!ねぇ、行かない?」

 

珍しくジェジュンがおねだりをしている。

そう言えばいつも会うのは俺の家で、外で食事すらままならなかったな…。

ユノは何が何でも叶えたいと思った。

 

「…いつだ?」

「3週間後。チケットもホテルもあるから、ユノはパスポートだけ持ってきてくれれば」

 

ユノは少し考えてから「分かった。調整しよう」と言った。

 

「え?ホントに?ホントに一緒に行ってくれるの?」

「なんだよ、行って欲しくないのか?」

「ううん!行って欲しい!でも…絶対無理だって言われると思ってたから」

「タダだろ?行かないわけねーだろ?」

「…タダより怖いものは無いって言ったくせに」

 

二人は顔を見合わせてクスクス笑った。

 

「旅行か…。楽しみだな…」

「うん!ユノと一緒に行けるなんて…最高だ」

 

ユノは昨日無理させたお詫びに、ジェジュンの全身をマッサージし、ベッドに一緒に入った。

ジェジュンを腕枕し、髪を梳きながらジェジュンの顔を見ていた。

 

「…今日はこのまま一緒に寝よう」

「うん…。あぁ、俺幸せだ…。隣にユノがいて…一緒に旅行も行けて…」

「これからは、いっぱい一緒に旅行しよう。世界中どこでも連れてってやる。いつでも一緒だ…」

 

ジェジュンは嬉しそうに笑い、ユノの体温に身を任せそのまま眠った。

 

「ウソじゃないぞ…。ずっと一緒だ…」

 

幸せそうに眠るジェジュンの額にキスを落とし、ユノもジェジュンのぬくもりに目を閉じた。

 

 

 

「何笑ってんですか?」

「は?」

 

事務所で会社の引継ぎの書類を作っていたユノに、チャンミンが忌々しそうな顔で言った。

 

「だから、さっきから何笑ってんです?気持ち悪いです」

「笑ってたか?」

「えぇ笑ってました。すこぶる気持ちの悪い顔で」

「気持ち悪くて悪かったな」

 

ユノはニヤつく顔を隠しながら、ジェジュンとカナダ旅行することを話した。

 

「はぁ…この忙しい時に海外旅行ですか」

「まぁそう言うなって。ジェジュンがどうしてもって言うから…悪いな」

 

「…ジェジュンさんの為なら仕方ないですね。まぁこっちの事は任せて、ジェジュンさんを癒してあげてください」

「…何だよ、ジェジュンには優しいな。俺には厳しいのに」

 

「当たり前でしょう。彼はアジアの宝石ですよ。可愛いし綺麗だし料理も上手い。僕の理想に限りなく近い」

「お前の理想は知らんが、こっちの事は頼んだぞ」

 

チャンミンはこのクソ忙しい時に旅行などと、のたまうユノに腹が立ったが、ジェジュンの頼みなら仕方ないとため息をついた。

 

 

 

 

 

ねぇ、一緒にカナダに行かない?(おねだりジェジュン♡)

 

 

 

 

※※※

さぁいよいよ問題の9話。事件勃発。

急展開です。