「ユンジェー。今日はお出かけなんだから早く起きなさい。チャンミン達の所にいくんでしょう?」
ベッドでモゾモゾしていたユンジェが、ぱっと起き上がった。
「今日は、じぇーじゅも、あっぱも、みんなで行くんでしょ?」
「そうだよ。長老…おひげのジーちゃんが、みんなを呼んでくれたんだよ」
「わーいっ!みんなでおでかっけ!」
「あ、ユンジェ!長老のおひげ、ひっぱっちゃダメだよ」
「…ひひひ」
「あっコラ!お約束しなさい!もうっ」
パジャマを脱ぎ捨てパンツ一枚で走り出したユンジェの背中をジェジュンが追った。
今日はキラユーテが、一族の食事会に、チョン家全員を招待してくれたのだ。
もちろんヴァンパイヤは、食事をしない。
だがキラユーテがチョン家を食事に誘うというのは、長い時間の中で初めての事だった。
ヨンミンは感動の涙を流して喜んでいた(最近めっきり涙もろくなったヨンミン)
あの日、戦いごっこをするユンジェに触れたユチョンに見えた映像。
それは、李宇航に見せた映像そのままだった。
「ユンジェ…未来も見えるのか…?」
ジェジュンとユンジェが散歩に出掛けたので、ユチョンはユノを呼んだ。
「ユノ…言っておきたいことがある…」
ユチョンは、ユノにユンジェが見せた映像の事を伝えた。
「なに?ユンジェは…未来をも見通せるのか…?」
「俺のように近い未来だけを見るんじゃない、数年後の事を見通せ、それを映像化して人に見せる事が出来る」
「ユンジェ…あいつは、いったい…」
散歩から帰ったユンジェを、こっそり呼び、映像を見たユノは驚きを隠せなかった。
しばらく険しい顔をして考えていたが、ようやく重い口を開いた。
「…ユチョン、この事は俺たちだけの秘密にしてもらえないか?」
「それはいいけど…どうするんだ?」
「ユンジェは…いや、ユンジェとジェジュンは不滅の親子だ…。おそらくジェジュンも、ユンジェと同じ力を持っているんだろう」
「きっとそうだな」
「俺はあの力に目覚めて欲しくない。超能力も使わないようにユンジェに言った」
「なんで?もったいねーじゃん。ある力は使えばいいだろ?」
「ただでさえ俺たちは普通の人間とは違う。それを隠して人に紛れて生きる。力を使う癖がつくのはまずい。静かに暮らす、これが一番だ」
「…確かに。大きな力はそれだけ、大きなひずみをもたらすからな」
ユノはちょっと媚をかしげながら言った。
「でも何故だ?なぜジェジュンは自分の力の事を隠した?俺にも隠しているのは何故だ?」
「はぁ?ユノ、お前本当にわかんないのか?」
「ユチョンは分かるのか?」
ユチョンは大きなため息をついた。
「はぁ~なんでお前みたいなのに、ジェジュンみたいな可愛い嫁が付いたのか不思議で仕方ない!」
「…どういうことだ?」
「嫌われたくないからだよ、お前に」
「バカな、俺がジェジュンを嫌うわけないだろ?」
「そうだよ、俺たちはみんな分かってる。だけど、ジェジュンはそういう事を気にしちまう、心配もかけたくない、それぐらいお前に惚れてるって事だよ!」
ユノの頬がぽっと赤くなった。
「あーあほらしい!惚気聞かされたようなもんだ。それより、李宇航にコレを見せるのか?」
「あぁ。アイツは2000年以上生きているが、生に対しての執着が強い。自分が殺されると分かったらもう手は出してこないだろう」
ユチョンはふふふと笑って言った。
「ユノ…お前気を付けろよ。絶対浮気とかすんなよ」
「ん?」
「もし浮気なんかしたら、雷が落ちるぞ。それも本物の…」
ユノの脳裏に、雷に打たれて焼け死んだ李宇航の姿が思い出された。
ブルッと震えたユノを見て、ユチョンがゲラゲラ笑った。
「ゆっのー!早く着替えてよー!」
隣りの部屋からジェジュンの声が聞こえた。
「はい!すぐ行きます!」
慌てて部屋を出たユノを見て、またユチョンが手を叩いて笑った。
リビングでは、スーツにネクタイ姿のヨンミンを見て、ヒチョルが笑っていた。
「オオカミの食事会って、外で焚火しながらのバーベキューだぜ?なんでスーツ?」
「オオカミ達が我々を食事に招くなんて、歴史的快挙だ。長い時間の中で初めての事なんだ!礼を尽くさねば!」
みんなハイハイと言いながら、ヨンミンのほかはデニムやジャージなど楽な格好だった。
「さぁ!いざ行かん!」
気合の入ったヨンミンたちを乗せ、みんな揃ってキラユーテの元に向かった。
チョン家が付くころには、もう大きな焚火やバーベキューの用意が整っていた。
みんなが笑顔でチョン家を迎え、和気あいあいとした食事会が始まった。
ユノに対してもキラユーテはみんな笑顔で出迎え、ユノは少し照れた顔を見せた。
ヨンミンが用意した大量の国産牛にオオカミ達は狂喜乱舞し、我先にと焼きだした。
ヨナはオオカミの妻たちと一緒に料理をし、ヨンミンは長老と長い挨拶をしていた。
ユンジェは飛ぶようにチャンミンの横に座り、オオカミ達と一緒になって肉を待っていた。
「ユンジェ、小さく切ってあげるから…あ!こら!そんな大きな肉食べれないでしょ!」
ジェジュンの言葉に耳もかさず、ユンジェはオオカミ達と肉にかぶりついていた。
ふと、ユチョンの隣にヒチョルが座って言った。
「なぁ…。ユノが何も言わないという事は何も聞くなって事だろうけど…」
「ん?」
「ユンジェは…不滅の子、なんだろ?そしてジェジュンも同じ力を持ってる。だろ?」
ユチョンはさぁな…と笑っていた。
「でも俺は思うんだ。あいつらは不滅の親子じゃない。ユンジェは母親のいう事を聞かないヤンチャな息子で、ジェジュンはそんな息子に手を焼く母親。…それでいいんだよな…」
「うん。それでいいと思うよ…」
食事会は進み、ユチョンはジュンスと楽しそうに会話し、ヒチョルやドンヘはセロイと笑い合っていた。
にぎやかに過ごす食事会の風景を見て、ユノは思った。
今まで自分は、永遠の命を持て余すように、ただぼんやりと生きていた。
そんな自分が父親になり、オオカミ達と心を通わせるようになり、そして美しい妻を手に入れた。
こんな幸せなことはない。
それもこれも、全てはジェジュンと出会えたから…。
「どうしたの?ユノ」
隣に座ったジェジュンの髪を優しく梳いた。
ユンジェを産んでからまた綺麗になったジェジュンは、まるで雪の妖精のように白く輝いていると思った。
「綺麗だ…ジェジュン」
「え?どうしたの?急に…」
髪を耳にかけながら、はにかんだジェジュンは少女のように可愛い。
「…幸せだなと思って。ジェジュンに会えたおかげだ。ありがとう…」
「それを言うなら僕の方だよ。ユノに出会えたおかげで、ユンジェという可愛い子に恵まれた。ありがとう、ユノ」
コツンと頭を寄せてきたジェジュンの肩をそっと抱いた。
ジェジュンが呟くように言った。
「この幸せがずっと続くといいな…」
ユノは優しく笑いながら言った。
「幸せは続くよ。それも、永遠に…」
「永遠か。そうだね。僕たちは永遠だ。永遠に幸せでいようね」
オオカミ達の笑い声が響き、ユンジェは元気に笑いながらこっちに手を振っていた。
横ではチャンミンがユンジェの頭を撫でながら、ジェジュン達に笑顔を向けていた。
ユノとジェジュンは笑いながら手を振り、互いを見てまた笑い合った。
辺りは暗くなり始め、ちらほらと雪が舞っていたが、焚火の炎がみんなの顔をオレンジ色にそめていた。
キラユーテとヴァンパイヤが楽しそうに話して笑っている。
対立していた長い時間が嘘のように。
温かい空気がみんなを囲み、幸せな時間がそこにあった。
ユノはジェジュンの肩を抱いた手に力を込め、ジェジュンと共に、空を見上げた。
暗くなり始めた群青の空には星が瞬きはじめ、上弦の月が優しく光っていた…。
幸せは永遠に続く…
完
※※※
はぁーー終わりました!うっうっ…感無量…(>_<)
長い時間、お付き合い頂きありがとうございました!
今回は起伏の激しいストーリーでしたので、読むの大変だったでしょう?
書く方も疲労困憊でした…。
でも大きな達成感を感じています!
感想を頂けますと、とても嬉しいです!
それだけで頑張っております!