おふくろの帰宅(第25話) | for Dear Mother

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今だから話せるロックギタリスト・ハマハチと今は亡き母親との270日 癌闘病物語

骨になったおふくろを、生前おふくろが過ごしていた家に連れて来ると、俺はまず、

葬儀屋の用意した祭壇を組み立て、遺骨と遺影、そして花などのお供え物を並べた。

ローソクを付けて、しばらくその前に座り込んでいた。

遺骨だけは抱いたままだった。

「おふくろ、長かったけどやっと戻って来れたな。どぉ?やっぱ安心するだろ?

でも57歳は、若過ぎたな。

考えてみれば、タバコやアルコールが原因でガンになって死んだ訳じゃん?

俺よりロックンロールしてるよな(笑)さすが俺のおふくろって感じだよ」

そんな事をひたすら語り掛けながら時間が過ぎていった。

おふくろの家は賃貸のマンションだったので、納骨が終わったら引き払わなければいけなかった。

おふくろの思い出、モノ、匂いなどがまだたくさん残っているだけに、かなり辛いものがあるが

仕方ない。

そうこうしているうちに俺にも、どっと疲れが押し寄せてきたので風呂に入って眠る事にした。

ベッドに入る前、おふくろの入院中、いつも帰り際にやっていた握手をする為に

俺はおふくろの骨つぼへ手を差し出した。

「お疲れな。おやすみ」

そういうと俺は眠りについた。

おふくろが家に帰って来て、しばらくは、部屋の引き渡しに向けて荷物整理等する必要があった。


すると翌日にはすぐにおふくろの1番上の姉が他の親戚を連れてやって来た。

家に来てほんの少しおふくろの祭壇に手を合わせた。

そいつらの行動は、想像通りのものだった。

おふくろの着ていた服や身に付けていたアクセサリーから化粧品に至るまで、次から次へと

物色しだしていた。

「こんないい物持ってたのー!?これあたしもらってくから、これあんた持ってきな!

これもいいじゃない」

そんな会話を俺の目の前で展開している。

ここまでくると怒りの感情は、既に無くなっている。

「呆れ」以外の何ものでもない。

海外のニュースなどで災害時に店に入り、略奪行為が行われているシーンを目にするが

まさにそれであった。

自分たちの気に入った物を次から次へと車に運び、満足するとすぐに帰って行った。

残ったのは荒らされ放題荒らされたおふくろの部屋とゴミだけだった。

俺はその後奴らが散らかすだけ散らかしていったおふくろの部屋を片付けながら、わずかばかしの

おふくろの形見を小さな箱へと詰めてそれを大切にキープした。


「おふくろの姉妹がした事だし、俺はもう何も言わないよ」

そう骨つぼに向かい言っていた。

それから、毎日、朝起きては

「おはよー!」とおふくろの所へ行き、水や花、お供え物等を変え、昼間は、骨つぼの蓋を開け

おふくろの骨を触りながら話し続け、夜、寝る前に

おやすみ!」と握手する手マネをして眠りに付く。

そんな毎日が続いた。

数日経ったある日の夜、不思議な事が起きた。

いつものように俺は入浴を済ませ、ベッドに入るとその日は中々寝付けないでいた。

マンションが道路に面していない事もあり、とても静かだった。

部屋は静まり返り、明かりも消していたので真っ暗で、目を開けていても何も見えない暗闇だ。

俺は上を向いたまま、その暗闇の中で目を開けて考え事をしていた。

その時だった。

俺が引っ越して来た時のままのダンボール箱の山に強烈な光が浮かび上がった。

青に近い、白い光だった。

俺はとにかく驚いた。

車の光でもないし、何だこれは?

もしかしておふくろ?


次の瞬間、大事な事を思い出した。

いけねぇ、おふくろと握手するのを忘れてた!!

俺はすぐに明かりを付けて祭壇のある部屋に急いだ。

「ごめん、ごめん、握手するの忘れてたな(笑)」

そう言いながらいつものように手を差し出した。

「おやすみ」

そしてまた俺はベッドへ戻ったが、さっきまでの光はすっかり消えていた。

やっぱりおふくろだったのかなぁ?

握手、忘れてるぞ!って言いに来たのかなぁ。

本当におふくろなら一言でいいから話がしたかったなぁ。

そんな事を考えながら俺は眠りについた。

基本的に霊現象など信じないが、この時の光だけは未だに不思議である。

それ以来、この光を見る事は1度も無くなった。

成仏したのかなぁ、おふくろ・・・。


つづく・・・。