火葬場①(第23話) | for Dear Mother

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今だから話せるロックギタリスト・ハマハチと今は亡き母親との270日 癌闘病物語

葬式も一通り終わり、次はいよいよ火葬場に向かわなければいけない。

俺と弟、そして親戚数人が火葬場へと向かった。

唯一、まともな神経を持っているおふくろのすぐ上の姉が、係りの人に

「自分の妹なので、間違えのないように最後までよろしくお願いしますね」

そういうと係りの人にお金を包んでいた。

係りの人が受け取ったかどうかまでは知らないが俺は少しホッとした。

この人はちゃんとおふくろの事、思ってくれてたんだ、という思いである。

噂によると火葬場の係員に心付けを渡さないと酷く雑に扱われるらしい。

おふくろの姉がお金を包んだのも、その為かと思い、納得した。

しかし、お金を包もうとそうでなかろうと、その係員達も仕事としてやっている以上、仮に誰の遺体であろうと雑に扱ってはいけない。

人として当たり前の事ではないだろうか。

そうこうしていると、すぐにおふくろを焼く準備が出来ていた。

火葬炉の前で最後の別れを告げた。

周りの声など、全く耳には入らなかった。

俺はただひたすら叫んでいた。

「おふくろー!ありがとう!ホントに産んでくれてありがとー!俺がそっちに行くまで待っててくれよー!

これでガンの野郎も消滅させられるな!お疲れさん!ホントにお疲れさん!また会おうな!

バイバイ!バイバイ!」

さっきまでの冷静さを取り戻していた俺がそこには居なかった。

別れ惜しむ俺に気遣いながらも係員はおふくろを火葬炉の中へと入れてしまった。

するとその係員は容赦なくボタンを押した。

恐らく、そのボタンで火が燃えだすのだろう。


もうこれで会えない。おふくろに2度と会えない・・・・・・・・。

次に会う時、おふくろは骨になっている・・・・・・・。


史上最大の、今までに経験した事のない猛烈な悲しみが俺を襲った。

火葬場入口の外で待ってくれていた俺の友達が歩く事もままならない俺に声を掛けてくれた。

おふくろを焼いている間、みんな待合室で食事を取る事になり、その待合室まで友達は俺に

付き添ってくれた。

火葬場から待合室に向かう途中の階段で、俺の体に異変が起きた。

生まれて初めて経験する心臓発作である。

階段の途中あたりで

「今、まさにおふくろが焼かれている」

と思った次の瞬間、俺の呼吸が乱れ出した。

苦しい。すげぇ苦しい。何なんだこれは?

すると心臓の音がどんどん大きく聞こえ出した。

早くなったり遅くなったり。

気が付くと俺はその場に倒れ込んでいた。

一瞬、意識を失ったのだろうか、

友達の声でまた俺に意識が戻った。

誰も居なかったら俺はここで死んでいたのかなぁ?

それとも、早速おふくろが俺を救ってくれたのかなぁ?

いずれにしてもその友達が居てくれて本当に助かった。

俺を待合室まで運んでくれると、その友達は帰って行った。

「ありがと。また落ち着いたら・・・」

その時の俺にはそれしか言えなかった。

とりあえず、自分の命の危機を感じた俺はスポーツドリンクを口にして、イスに座り、休んでいた。

目の前ではいつものように非常識な親戚連中が大騒ぎで食事を取っている。

するとその中からおふくろの兄キの声が聞こえた。

「おい、弁当が1つ足りないぞ。どうなってんだ」

こんな時にこいつは馬鹿か?と思いながらも

「俺の分があるから、それを食えよ」

というと、そいつは

「そうか、じゃ、もらってくな」

とニコニコである。

こういう大人には絶対になりたくない。

というか、なるはずがないと俺は確信した。

今日が終われば、こいつらともおさらばだし、もうちょっと、おふくろの為に我慢しようと強烈な怒りを

必死になって押えた。


数時間が経ち、関係者から連絡が入り、俺達は、おふくろの骨を拾いにその場所まで向かった。

おふくろの骨と対面した時の俺は驚く程、冷静であった。

おふくろの形などどこにもないので、恐らくあまり実感がなかったのだと思う。

俺がその場を仕切り、みんなで1つずつ、おふくろの骨を骨つぼへと入れていく。

抗がん剤の影響だろうが、所々骨に赤や青などの色も付いていた。

ざまぁみろ!おふくろの勝ちだ!これでお前は終わりだ!

目には見えない「ガン」に対して、この時俺は心の中でそう思っていた。


つづく・・・。