お通夜当日①(第20話) | for Dear Mother

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今だから話せるロックギタリスト・ハマハチと今は亡き母親との270日 癌闘病物語

そのまま俺は起き上がり顔を洗って歯を磨きまたすぐにおふくろの所へ戻った。

しばらくすると弟が会場に来て、その後1人、また1人と人が集まり出した。

そうこうしている間に時間はもう昼の12時を回っていた。

会場には親戚や関係者も含めておそらく30人近く集まっていただろう。

弟か葬儀屋が手配したであろう昼食が届いた。

俺はとても食欲などなく、そのままおふくろの所に寄り添っていた。

それにしてもこいつらは何なんだ!?

会場に来るなり、ニコニコでおふくろに「来たよ」と言ったきり、親戚同士でバカ笑いしなが

盛り上がっている。

用意された昼食もあっという間に平らげている。

俺の気持ちを猛烈に逆なでしている事に、こいつらは誰1人として、気付いていない。

まぁいいや、俺と弟が最後までしっかりおふくろを送り出してあげれば。

こいつらの事は無視しよう。

これといって今までも親戚付き合いをしていた訳でもなく極端な話、中には親戚かどうかも

わからない人間もいる。

それにしても酷い。非常識にも程がある。

90歳や100歳を超えた大往生ならまだしも、おふくろは還暦にもなっていない57歳だ。

これじゃまるで祭りだ。


呆れ果てながらも、俺と弟はまだ病院に用事があったのでその薄情な親戚におふくろを

任せつつも

病院へと向かった。

「あんなやつらにおふくろ任せるの不安だな」

「しょうがないよ」

病院へ向かう車で俺と弟はこんな会話をしていた。


病院に着くと必要な物を取り、ナースステーションへ挨拶も兼ねて顔を出した。

昨日、おふくろはここで死んだ。

そう思うと、俺はまた冷静さを失った。

婦長さん、担当の看護婦さんと話をしていた俺は今までの不平不満を無意識のうちに

爆発させていた。

「とりあえずは、今まで色々とありがとうございました。お世話になりました。

ところで何で最後の日に担当でありながらも病室に顔を出してくれなかったんですか?

おふくろはずっと○○さんの事、言ってましたよ。

○○ちゃんは本当に良くしてくれるし、あの子がいると安心出来るって。

いつもおふくろは○○ちゃんにあげるんだ。と言って入院中、レースの編み物を

作っていたんですよ。

それなのに死期が近くなった途端に顔を出さなくなるってどういう事ですか?

忙しいのはわかりますが、あなたに人の心というものは無いんですか?

モルヒネで意識が飛んでいるから自分が行かなくてもいいって思ったんですか?

確かにおふくろは、モルヒネで飛ばされてたけど、最後まで誰が誰という事はしっかり

理解していましたよ?

おふくろがどれ程あなたの事を頼っていたか知ってますか?

あなた達は人の死に慣れ過ぎではないんですか?

確かに人間は何にでも慣れる生き物だから、毎日毎日、人が死んでいく職場にいれば

人の死に慣れてしまう事もわかります。

でも慣れたらダメなんですよ!人の死に!

人の死の数だけ、猛烈な悲しみがあるんですよ!

自分の両親や兄弟、姉妹が死んでも同じように割り切れますか?

確かに見ず知らずの他人が死んでも人は何も感じません。正直俺もそうです。

ニュースで誰かの死が伝えられても知らない人なばかりに全く悲しくはありません。

でもあなた達は違うでしょ?

常に患者さんと、時にはその身内の人間以上に接しているじゃないですか。

おふくろの死をきっかけに、もう1度自分たちが、どうあるべきか、考え直してもらえればと

思います。

看護婦さんという仕事がどれだけ大変なのかもわかります。

でも、看護婦さんもお医者さんも扱っているものは人間でしょ?

あなた達に家族がいるように患者さん1人1人にも家族がいるんですよ。

そして、おふくろみたいに他人であるあなたに心を開いて100%の信頼を寄せる人も

いるんです。

おふくろが毎日亡くなっている人達の中の1人でしかない扱いを受けるのはしょうがない事

かもしれません。

でも、あなたを心から信頼していたおふくろの気持ちはどうなるんですか?


あなたに、もし、人としての心や誠意があるなら、おふくろの通夜に顔を出してあげて下さい。

俺の為ではなく、おふくろの為に」


最後まで、婦長さんとその看護婦さんは冷静ではない俺の文句をじっと黙って聞いてくれていた。

そして婦長さんが

「人の死に慣れている訳ではないですが、確かにその通りかもしれません。

もう1度、これを機にその辺の事はみんなで徹底していきたいと思います。

ありがとうございました」

そう言ってくれた。

「とりあえず、今回は本当にお世話になりました。ありがとうございました。

先生にも宜しくお伝え下さい。」

そういうと俺と弟は病院を後にし、通夜会場へと戻った。


つづく・・・