【昼下がりに、他愛もなく。】
シンセサイザーを担いで
部屋を出る。
部屋を出た所。
同じ階に住むおじさんがそこに立っていた。
『こんにちは〜』
『おぉ、こんにちは。あれ?君、金髪だったっけ?』
多分、初対面。
『そ、そうですね〜、しばらく、こんな感じです(笑)』
無難に終わらせたくて、話を広げることもせず、その場を立ち去ろうとした。
ふと見ると御御足が良くないらしく杖をついている。
うちのマンションは前に数段の階段がある。
僕は「そこまで」と思って、一緒に階段を降りた。
一段下に立って、おじさんの腰を支えてサポートした。
『ありがとう、ありがとう。いやぁ、半月前に、バイクで事故して転んで骨が折れちゃってね。』
見るからに難儀していた。
聞けば料理人さんで、知り合いのお店の調理場を任されて、今は若い留学生を教えながら職務にあたっているという事。
『ところで俺、幾つに見える?』
まさかの年齢当てクイズが始まった。
パッと見、60歳過ぎ。
僕の67歳の父親と同じか1つ2つ歳下に見えた。
僕はこういうのはサービスだと思っている。
『50歳くらいっすかね〜』
『へっへ〜、実は60歳、還暦だよ。ハゲてないし、若く見えるだろ?』
見立ては大体当たっていた。
ハゲてないけどほぼ白髪だった。
多分、僕と同じようなマインドの人はいると思うので、僕も他人からのお世辞は信じない。
信じないけど、お心遣いは甘んじて頂く。
だから悪い気もしない。
良いじゃないか、幾つに見えたって。
心意気が老けなければ素敵じゃないか。
おじさんは2回離婚していて、離れて暮らしている家族の事、今の職場は海外からの留学生で溢れている事を話ししてくれた。
『昔は不法移民みたいなのが沢山いて勤勉さもない人が多かった。今の同僚の子達がダメってわけじゃないけど、労働力だ、て沢山外人を受け入れて日本が日本でなくなっちゃう気がするんだよなー。』
調理場ではほとんど日本語が通じないらしい。
『ところでお兄さん、この大荷物はなんだい?』
『キーボード…です。』
『音楽やってんのかい?収入になるの?』
『少し…(笑)』
『どんな音楽やってんの?』
『え、と、あ、テクノというか…』
『YMOみたいなもんかい?』
『あ、YMOさん好きです。あとデヴィッド・ボウイも。』
『なんだ俺の世代の音楽じゃん。』
『へへへ。』
そんな事を話していたら、結局、駅に着いてしまった。
『じゃあ、俺はこの辺で、ところでお兄さん、あんたは幾つなんだい?』
『43です。』
『え!?』
おじさんは絶句した。
こんな戯けた風体の43歳はなかなか出会えないだろう。
おじさんは続けた。
『夢、諦めずに叶えてくれよ!』
おじさんは大きく手を振った。
『ありがとうございます。お話ありがとうございました。』
「隣は何する人ぞ?」状態で生活してる中で、ご近所さんの素性を知る事になって、貴重と言えば貴重な体験をしたのかもしれない。
僕は今日もカツカツのスケジュールの中、東京を横断した。
HLN
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