まだ、娘が保育園児だった頃の遠い話。
当時、私の周りには
強力な個性を発揮するママ達が数人いたのだが、そのうちの一人である、彼女の生き方ほど波乱万丈な人は年を拾った今でも出会ったことがない。
娘が2歳児クラスであったであろうか。彼女と、私の娘と同い年である息子の◯くんはとある県より転園してきた。
子供だけでなく、私達親同士もハタチそこそこの同い年であり、互いにシングルマザーという共通点により仲良くなり、ちょこちょこ互いの家を行き来していた。
離れたスーパーまでチャリで行って安い服売り場で服を買ったり、家でご飯を作って食べたり、互いに若くキャリアのない、シングルマザー同士、割と質素に遊んでいた。
ただ一つ、決定的に違うことといえば、背の低い、何かのキャラクターのような容姿の私に対し彼女は学生時代にモデルをしていただけあって、長身、美人であった。まあ、それは置いといて、
当時、彼女は父親のツテで大手企業に勤めていたのだが、止む無くして辞め、転職し、どこぞの企業の受付嬢になった。
その頃、彼女には証券会社に勤めるやさしい彼氏がいたのだが、別れたのもこの辺りだったと記憶している。
ここから徐々に彼女の歯車が狂い始める。
転職したはいいものの、数ヶ月と経たず退社すると、精神科に通うようになり、母子寮に入り、手当で生活するようになった。
その間、◯くんは保育園を休みがちだったし、彼女のほうが避けている様子だったので、あまり会うことも、連絡を取り合うこともなかったが、
久しぶりに顔を合わせた時にはとなんと彼女はキャビンアテンダントになったというではないか。そして母子寮を出て、近所で彼女の妹と3人で暮らし始めたという。
なんでも母子寮にいる間に資格をとったらしい。なんともたくましく、賢い女性である。
が、しかし、それも一年と続かず辞めてしまった。
そして始めたのがスッチーのOB会なるもので、そういった職業の方だけが働ける高級ホステスの仕事。
この頃の彼女の携帯は医者AだのBだのパパだので溢れていた。
同居している彼女の妹はよく「◯くんはいつも一人部屋に放置で、お風呂も、着替えすらさせない。」とこぼしていた。
そうこうするうちに彼女も、◯くんも保育園で見かけることはなくなった。
彼女と繋がりがあったママ友の話ではなんでも彼女はヤクザの組長の息子の女になり、家にはほとんど帰っておらず、妹が◯くんを連れて親元へ帰ったらしいという、噂が広がった。
そしてその噂を決定づける出来事があった。
ある日、いつものように店番をしていると、自動ドアが開き、見間違えるくらいゴージャスになった彼女が息子をつれて入ってきた。
「私、今の彼に子供がいること話してないの。お願いがあるんだけど、この子、ちょっと預かって!閉店までには迎えに来るから!なにか食べさせてね!」
あっけに取られる私をよそに彼女はカバンから財布を取り出すといくらかのお金をレジに置き、足早に立ち去った。
「ちょっと待って!」と追いかけ外に出ると
彼女は振り返ることなく、サングラスをかけたいかつい運転手の立つ、黒塗りの車に乗り込んだ。
レジでカバンから出した彼女の財布は万札でパンパンだった。
その夜、彼女は息子を迎えに来たが、深くは言及しなかった。
彼女とはこれっきりである。
その後、◯くんは退園し、彼女も姿を消した。
なんで私が今、彼女のことを思い出したのかというと、つい先日、その彼女がふらりと店に来たのである。
現在は官僚の旦那と再婚していること。その間に設けた子供を某有名私立校に通わせていること。そして◯くんは大学浪人していること。そんなことを手短かに話し、足早に去ってった。
あの時と同じように。