ボブ・ディランの名曲アルバム『欲望(Desire)』を一曲ごとに説します。


メロディ・メイカーとしてのディランの魅力が詰まった、初心者にもおすすめの名盤です。



🎙️イントロダクション



 こんにちは。音楽研究家の「はる風」です。


 インターネットが当たり前の時代になり、世界中の情報が、いつでも簡単に手に入るようになりました。ただ、その反面、自分の好きなものばかりを選んでしまい、かえって世界が狭くなったようにも思います。それって、ちょっぴり、もたいない気がしませんか?


 世の中には、あなたの知らない素晴らしい音楽が、他にもまだたくさんあります。その宝の山をいっしょに探しに行きましょう。


 今回は、先年ノーベル文学賞を獲得したボブ・ディランを紹介します。




🎺欲望』ボブ・ディラン
~歌詞もいいが、曲もいい~ 


 1941年生まれのディランは、反体制の怒れる若者達のリーダーとして、60年代に、ベトナム戦争に抗議した「風に吹かれて」や、上流階級を痛烈に批判した「ライク・ア・ローリング・ストーン」等のプロテスト・ソングを歌ったことで有名です。



 首からハーモニカをさげ、ギターを掻き鳴らしながら、独特のしゃがれ声で歌う彼の姿に、誰もがあこがれ、真似をしたものでした。

 吉田拓郎も、長渕剛も、浜田省吾も、ブルース・スプリングスティーンも、みんなディランになりたかったんですね。もちろん、私もその一人でした。


 さて、一般に、ディランといえば、歌詞の面ばかりがクローズアップされますが、実は曲の方もそれ以上に素晴らしいんですね。
 そんな作曲家としての彼の魅力が最もよく現れたのが、1976年の傑作『欲望(Desire』です。



 出典:

  Bob DylanDesire』(1976年、Columbia Records 

  ジャケット画像はレビュー目的の引用です。




 まずオープニングは、激しいジプシー・バイオリンの調べが耳に焼きつく「ハリケーン」。この曲は、無実の罪で囚われた黒人ボクサー、「ハリケーン」ことルービン・カーターの事件を歌った曲として有名です。


 でもこの曲の魅力って、歌詞よりもそのサウンドにあると思うのです。そうでなければ、8分を越す長い曲が、英語の分からない中学生の私に響くわけがありませんよね。



 ディランの激しい歌声を煽りに煽るドラムとパーカッション。シンバルのクラッシュが、まるでボクシングのパンチのように炸裂します。そしてフラメンコの踊りのような、ディランの生ギターのきざみが、最高に格好イイのです。


 続く「アイシス」は、時々ディランがやらかすピアノの曲。やめてくれとは言いませんが、さすがに7分は長い。お手柔らかに願います。


 さて口直しは、数あるディラン作品の中でも、最高にポップな一曲「モザンビーク」です。たわいのないラブソングを、歌姫エミルー・ハリスとデュエットするディランの声が、なんとも嬉しそうですよね。


 そして、この「欲望」の二度目のクライマックスが、次の「コーヒーもう一杯」です。

「谷を下りる前にもう一杯コーヒーを」と歌われるこの曲は、聖書の話なのか、はたまたインディアンの話なのか不明ですが、そんなことより何よりも、エミルーのすすり泣くような歌声が心の底に染み渡ります。

 中学生の私が、最初に好きになったのが、この切ない失恋の歌でした。


 ディランのハーモニカが好きな人が「待ってました!」と喝采を贈るのが、次の「オー・シスター」です。


 だってここまで4曲、全くハーモニカが出てこないのですから。
 自由奔放なディランの歌い方に、手を焼いていたエミルー。ようやくこの曲で、ディランと息を合わせられたようです。


 ところで、この「オー・シスター」、何を隠そう私の十八番なんですよ。たまに音楽仲間と集まって、即興で音合わせをすると、みんなは「アイ・シャル・ビー・リリースト」がいいと言うのですが、私は勝手にこの曲を歌い出して、慌ててみんながついてくる。そんなマイ・フェイバリットが、この「オー・シスター」です。



 A面が終わってレコード盤をひっくり返すと、「ジョーイー」、「ドゥランゴのロマンス」と、ちょっぴり地味な曲が続いて、3曲目が「ブラック・ダイヤモンド・ベイ」です。

 数少ないディランのハーモニカが存分に堪能できるのがこれ。「モザンビーク」をさらにメロディアスにした。このアルバム屈指の聞き物です。



 これが「ハリケーン」と同じドラマーかと疑うほどの軽やかなリズムに乗って、息の合ったディランとエミルーが、のびのびとデュエットする、そんな楽しさ満点の曲です。




 そしてアルバムの最後は妻との思い出を綴った「サラ」で締めくくられます。切々と語りかけるように歌うディランに、胸が締め付けられるようです。

 歌詞の中に出てくる「チェルシー・ホテル」は数々のアーティストが住んだニューヨークのホテル。ディランもかつて住んだことがあり、レナード・コーエンは、同名の曲を書いています。


 アルバム全編を通して、ディランの歌声は明るい希望に満ち溢れていて、それは白い帽子をかぶった表紙の写真にもよく表れてます。


 女性バイオリニストの大胆な起用や、歌姫とのデュエットなどが見事に功を奏して、これまでディランが苦手だった人にも、とても聴きやすいアルバムになっています。


 半世紀もたった今も朽ちることなく、新鮮なみずみずしさを失わない「欲望」。是非一度聴いて貰いたい珠玉の一枚です。




💩今日のおまけ


 話は変わりますが、「ゆるキャラ」で有名な「みうらじゅん」さんっていますよね。
 大学時代に彼女ができて、その彼女が、初めて彼のアパートを訪ねて来たそうです。その時みうらさん、何したと思いますか?


 なんと、プレイヤーに載っていたボブ・ディランのレコードを押し入れに隠して、アース・ウィンド&ファイアの「セプテンバー」をかけたんだそうです。
 でも、みうらさんはまだいい方ですよ。私なんか、『クリムゾン・キングの宮殿』ですから(笑)




🎵さらに詳しく音源付きで楽しみたい方は、以下のnoteの記事をご覧ください。👇





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