安価で手に入りやすいステロイド系抗炎症剤「デキサメタゾン」が、新型コロナウイルスで重症になる人の命を救うかもしれない。

英オックスフォード大学の研究チームによると、低用量のデキサメタゾンは新型ウイルスとの戦いで画期的な突破口になる。

新型コロナウイルスに対し、様々な既存の治療法の効果を試す世界的規模の臨床試験の一貫として、デキサメタゾンが試された。

その結果、人工呼吸器を必要とする重症患者の致死率が3割下がり、酸素供給を必要とする患者の場合は2割下がった。

新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)の初期からイギリスでデキサメタゾンを治療に使用していた場合、最大5000人の命が救えたはずだと研究者たちは言う。

さらに、新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」の患者が多く出ている貧しい国にとっても、安価なデキサメタゾンを使う治療は大いに役立つと期待される。

重症者の致死率が大幅に下がる

イギリス政府は20万人分の投与量を備蓄しており、国民医療制度の国民保健サービス(NHS)で患者への使用を開始する方針を示した。

ボリス・ジョンソン英首相は「イギリス科学界の素晴らしい成果」を歓迎し、「たとえ感染の第2波が来ても備蓄が足りるよう、数を確保するための措置をとった」と述べた。

イングランド首席医務官クリス・ウィッティー教授は、「COVID-19にとってこれまでで一番重要な臨床試験結果だ。手に入りやすく安全でなじみのある薬によって、酸素供給や人工呼吸器が必要な人の致死率が大幅に下がった。(中略)この発見が世界中で人命を救う」と評価した。

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新型コロナウイルスに20人が感染した場合、19人は入院しないまま回復する。入院する人もほとんどは回復するものの、重症化して酸素供給や人工呼吸器を必要とする人もいる。

デキサメタゾンはこうした重症患者の治療に効果があるもよう。

新型ウイルスに感染した患者の体内では、ウイルスと戦う免疫系が暴走することがある。その免疫系の過剰反応による体の損傷を、デキサメタゾンが緩和するものとみられる。

「サイトカイン・ストーム」と呼ばれる免疫系の過剰反応が、患者の命を奪うこともある。

デキサメタゾンはすでに抗炎症剤として、ぜんそくや皮膚炎など様々な症状の治療に使われている。

初めて致死率を下げる薬

オックスフォード大学が主導する臨床試験は、約2000人の入院患者にデキサメタゾンを投与。それ以外の4000人以上の患者と容体を比較した。

人工呼吸器を使用する患者については、死亡リスクが40%から28%に下がった。

酸素供給する患者は、死亡リスクが25%から20%に下がった。

研究チームのピーター・ホービー教授は、「今のところ、致死率を実際に下げる結果が出たのは、この薬だけだ。しかも、致死率をかなり下げる。画期的な突破口だ」と話した。

研究を主導するマーティン・ランドレイ教授によると、人工呼吸器を使う患者の8人に1人、ならびに酸素供給治療を受ける患者の20-25人に1人が、デキサメタゾンで救えることが分かったという。

「これはきわめて明確なメリットだ」と教授は言う。

「最大10日間、デキサメタゾンを投与するという治療法で、費用は患者1人あたり1日約5ポンド(約670円)。つまり、35ポンド(約4700円)で人ひとりの命が救える」

「しかもこれは、世界中で手に入る薬だ」

状況が許す限り、新型コロナウイルスで入院中の患者にはただちに投与を開始すべきだと、ランドレイ教授は促した。

ただし、自宅で自己治療するために薬局に買いに行くべきではないと言う。

デキサメタゾンは、呼吸補助を必要としない軽症の患者には効果がないもよう。

3月に始動した新型コロナウイルス治療薬の無作為化臨床試験「リカバリー・トライアル」は、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」も調べたものの、心臓疾患や致死率の悪化につながるという懸念から、ヒドロキシクロロキンについては試験を中止した。

一方で、感染者の回復にかかる時間を短縮するとみられるレムデシビルは、すでにNHSの保険対象になり治療現場で使われている。