こんばんは~
今日「スタシカ」で~す
雪原の世界から、元の世界へと戻っていったスターワン。
残された男は何を思うのでしょうか…
第28話
28. 美しい夢
男は静寂に包まれていた足元から、止まっていた時間軸が動き出すような振動を感じた。
待ちわびながらも恐れていた未来…
男は目を瞑り、彼らの顔を思い返した。
彼らとの記憶は、果てしなく長い孤独と戦って来た男にとって、暖かな癒しだった。
”勇気”
男は心の中で呟くと、真っ暗な夜空を消し去り、雪原の上に足を踏み出した。
時間軸が動き始めたので、白い息が宙を舞い、凍てつくような寒さに襲われた。
ユグドラシルの木に近づき、
「大自然よ」
と、唱えるように言うと光が漏れだし、球体を作り出した。
やがて中から封印の箱が現れた。
これを開けるためだけに、気の遠くなる時間を耐えてきた男は、すぐに箱を開けようとしたが、指先の震えがそれを阻んだ。
「開けなければ」
「開けてはいけない」
愛する人に会うことも出来ず、再び深淵に閉じ込められたくない…
ふと、先程まで一緒にいた少年たちが思い浮かび、自然と笑みがこぼれた。
そして、彼らが残していった箱の事を思い出した。
宙に手をかざすと、小さな箱が現れ、今度は迷わずその箱を開けた。
誕生日プレゼントを開ける、子供のように。
箱の中から、炎の塊が入った透明な球体が出てきた。
それはスターワンに出会った時に、彼らが寒さを忘れようと抱えていたものだ。
(これをくれたのか。私が寒いと言ったから。いいものをくれた…)
もしかしたら、長い眠りから目を覚まし、誰かがよく眠れたかと聞きながら、頭を撫でてくれるかもしれない…
男は暖かな炎の球を抱えながら、ゆっくりと跪き、封印の箱をそっと開いた。
ドサッ
雪原に男の体が埋もれた。
そろそろ寝よう…いい夢が見られそうだ…
胸に抱えた球のぬくもりを感じながら、男は目を閉じた。
それからどれぐらい時間が経っただろう。
何も無かった大地に緑の生命が生まれ、水が流れ始めた。
男と箱は跡形もなく消え、そして男は夢を見た。
小さな星のように、とても美しい夢だった…
「うわっ」
「キュッ」
スターワンとファミリアが床に転がり落ちた。
ソルが周りを見渡しながら言った。
「みんな揃ってるよね。召喚獣もちゃんといる?」
「まさか夢じゃないよね?」
タホが尋ねた。
「この杖があるんだから夢じゃないよ。ビケン、あの瓶も無事?」
「大丈夫。でもこれ、どうやって使うんだろう?」
ソルはスマートウォッチを確認した。
「ここでの時間は3時間か」
「ぼくたち、魔法修練の為にサイコロを振ったんだよね。先生待ってるんじゃないかな…」
タホの言葉にメンバーたちは肩をビクリと震わせた。
無断欠席した理由を正直に話すかどうかを話し合った結果、あの雪原の世界の存在を知られない為にも黙っている事にしたスターワン。
男に貰ったガラス瓶は隠せても、杖をどうするか相談していると、突然宿舎の扉が開いた。
「あ、ここにいたんですね。みんな捜してましたけど、どこにいたんですか?」
ジュディが明るく尋ねた。
「ち、近くを散策してたんだ。はは」
ソルがうろたえながら答えた。
「あれ?それは何ですか?杖?」
ジュディに尋ねられ、ビケンはだらだらと汗をかきながら思わず苦しい言い訳をした。
「そ、外で拾ったんだ!」
「あ、そうなんですね。魔法の杖ですか?」
素直なジュディは何も疑わない…
「でも、運命の少年たちが拾い物を使うなんて。私がロードに頼んで…」
タホが慌てて止めた。
「僕たちは修行の身だし、これで十分だよ。だからロードさんには言わなくて大丈夫!」
ジュディはしばらく首をかしげていたが、笑顔になって答えた。
「はい、分かりました」
メンバーたちが胸を撫で下ろしていると、ジュディの足元にジャンが近づいた。
ジャンの頭を撫でたジュディの袖から、真っ青のアザがある白い手首が見えた。
驚いたソルが、勢いよくジュディに近づいた。
「何これ!どうしたの?!」
まさかの「スタシカ」で泣く日が来るなんて
雪原の男が、いつの日か目を覚まし、誰かに頭を撫でてもらえますように…
そして、スターワンはドラゴンピークに帰ってきましたね。
虐待を受けてるジュディを助ける事は出来るのかなぁ