謎の女に呼び出され、ラブホテルに入った。


部屋に入ると、女は私にソファを勧め、冷蔵庫からビールを出して、
私にコップを手渡し、床に正座してビールを注いだ。


注がれたビールを飲んでいると、
女はあたかもそれが当たり前のことのように、
私の目の前で全裸になり、私の足元に土下座をした。


「ご主人様、今日もお呼び出し頂き、ありがとうございます」


またもや、ご主人様と私を呼んでいる。
私のことだろうか?


「今日もお好きなように私を使ってお楽しみ下さい」


楽しむ?
いったい何を?


やはり罠か?


逃げなければ、と腰を浮かそうとした瞬間、女に右足を掴まれた。


ついに本性をあらわした、やはり敵だったんだ。
そう思った瞬間、女は想定外の行動に出た。

何と私の靴下を脱がせて、足の指を口に含んで舐め始めた。


えっ、ぇえっ!?


「お、おい、ちょっと待て、まだシャワーも浴びていないんだぞ!」


こんな経験のない私は、思わずそう叫んだ。


「はい、だから、お掃除させて頂いているんですよ♪」

「今日のご主人様はおかしなことばかり仰いますね?」


えっ、そ、掃除~!?
シャワーも浴びていない足の指を舐めて掃除するというのか!?
ひょっとして新手の風俗なのか?


頭の中が「?」マークでいっぱいになっている私を尻目に、
女は指の間から、足の裏まで、キレイに舐め掃除をしている。


さらに、左足の靴下も脱がして、同じコトを・・・
しかも、美味しそうに、嬉しそうに、
私の足の匂いが好きなのか?


これが罠でないとしたら、いったい…


過去の私はこんな酷いことを当たり前のようにしていたのだろうか?
まさか、そんなはずは・・・

私は目の前で行われていることが信じられずにいた。


すると、今度は、女は床に仰向けに寝て、
もっと信じられないことを言ってきた。


「ご主人様、お尻の穴もお掃除させて下さいませ」


「ほ、ほぇっ!?」


自分でも情けないような声を出してしまった。


「本当に、今日のご主人様はおかしいですねぇ♪」


「いつものように、顔に跨って下さい、お尻の穴、お掃除致しますので」


えっ、ぇえっ!?
跨る、女性の顔に跨る?
和式便所のように跨れ、と言うのか!?


そ、そんな酷い行為、人間として、許されるのであろうか?

私は恐る恐る、女の顔をまたいで、腰を降ろした。
女は舌を差し伸ばして、私のお尻の穴が降りてくるのを待っている。


「女、本当にいいのか?」


「これでは、まるで鬼畜の所業のようではないか?」


「ご主人様は、鬼畜なんかではありません」


「私にとっては、神様のようなお方ですから」


私の記憶の奥底で、何かが共鳴した。


「おい、女、私は神なのか?」


「はい、ご主人様は私にとって、神に匹敵するお方です」


女がそう言った次の瞬間、湿った暖かい舌が私の排泄器官に触れた。

その瞬間、電流が脳天へと突き抜けた。
そしてその衝撃でひとつの事実を思い出した。


そう、私は神だった。


私は「白龍」と言う名の「龍神」だったのだ。


この世の闇に怯える愚民を救うため、

長き長き沈黙を破り、衆愚に光を与えるため、


今、ここに「龍神」降臨!!!


龍神「白龍」


私の携帯電話に見知らぬ女性から一通のメールが来た。


「今晩、お呼び出しを頂き、ありがとうございます…」


さらに、メールには待ち合わせの時間と場所の確認が記されていた。


???


これは罠なのだろうか?


この女は、私の過去を消した敵なのか?

しかし、この女と逢うことで私の消えてしまった過去の、
消されてしまった過去の、何か手掛かりが掴めるかも?


私は敢えて火中に飛び込むことにした。


待ち合わせの時間より、30分早く着いた。


指定の場所が良く見渡せる、通りの反対側の喫茶店に入った。
敵は女の名前を使っているが、女なのか男なのかも判らない。
相手は私のことを知っているのだろうが、私は相手の顔も知らない。
細心の注意を払うべきだ。


約束の時間の5分前、ひとりの女が来た。
年の頃は30代?外見からは危険な感じはしない。


女は携帯を操作し始めた。
と、私の携帯にまたメールが届いた。


「既に到着しております、お待ちしております」


どうやらこの女があのメールの本人らしい。


私は更に観察を続けた、女の周りに敵が潜んでいないのか。

待ち合わせの時間を5分過ぎた。誰もいないようだ。


私は喫茶店を出て、道路を横断して女の方に向かった。

女は途中で私に気が付いて、深々とお辞儀をした。


明らかに、女は私の顔を知っているようだ。
私が女の目の前に立つと、にっこりと微笑み、
私を促すかのように、先にたって歩き始めた。

私は女の後を追いながら、訊ねた。


「女、どこへ、行くのだ?」


女は立ち止まり、振り返った。
楽しい冗談でも聞いたように、その顔は笑っていた。


「ご主人様ったら、ふざけないで下さいょ^^」


ご主人様?

私は、ご主人様なのか?


女は再び、前を向き歩き始めた。

細い道を右に折れると、そこはラブホテルの入り口だった。
女は一瞬の躊躇も見せずに自動ドアの向こうへと入った。


「お部屋は、ご主人様が選んで下さい」


私は緊急事態を想定して、2階の角部屋201号室を選んだ。
2階の高さからなら、飛び降りて逃げることも可能だろう。


これは、いったい何の罠なんだ?


白龍


今朝、何気なくテレビを見ていたら、
今年ブレイクするスィートということで、
モンデビアンコ という洋菓子が紹介されていました。


モンデビアンコ と聞くと一部の皆様はすぐに、
「揉んでビアン子?」なんて情けない連想をするかもしれませんが、


私の場合は即座に Monte Bianco というスペルマ、
もとい、スペルと共に


「ああ、これはイタリア語で、白い山という意味だな」


と判りました、そう、フランス語で言うところのモンブランです。


あの、クリトリス、もといクリのお菓子のことですね^^


ちなみにスペイン語では Monte Blanco と書いてモンテブランコと読みます。


えぇっ!?


イタリア語やスペイン語が即座に出てくるなんて、
私は一体、何ヶ国語を操ることが出来るのでしょうか?


ちなみに、中国語(北京語)では白山 bai shan と書いてバイシャンと読みます。


お、恐ろしい、何故、私はこんなに色んな言葉を操るのだ!?


ひょっとして、私の過去って・・・?
世界を股にかける諜報機関の腕利きスパイ!?


そ、そういえば、過去に公安にマークされていたような微かな記憶が…


私はいったい、何者だったのだ!?


白龍



全く見覚えのない風のない森のなか、
小さな湖のほとりで、鳥のさえずりに、
爽やかで、穏やかな気持ちで、目を覚ました。


「???」


「私は、誰?」


「???」


私の横たわっていた傍に、
一枚の白い紙が置かれていた。
その紙を裏返すと、そこには、たった一文字。


「龍」


「龍…、龍…?」


遠い昔に、そんな名前で呼ばれていた微かな記憶が、
多くの友に、その名前で慕われ、賞賛され、
多くの女に、その名前で愛されていた記憶が、


「龍…、龍…?それが私の名前なのか?」


しかし、鏡のような湖面に映るこのイノセントな笑顔^^
およそ、龍という生き物には相応しくない美の化身。


しかし、この微かな記憶を継承せねば、


私を探しあぐねて彷徨う友がいるような、
私に辿り着けずに涙する女がいるような、


私の本能が囁いていた。

ならば、ならば、私は名乗ろう。


「白龍」と、


無垢な心と、残酷な記憶とを共生させるため、
この醜き世に、転生した、新しい私「白龍」


しかし、私はいったい、誰なんだろう?

その日から、自分探しの旅が始まった。


私が何者なのかは、まったく判らない。
「白龍」という名前以外は・・・


白龍