紙の時代ではなくなった今、電子化された情報の共有は簡単にできる時代、医療機関に限らずどこでも当たり前に情報共有のための環境が整備されています。しかし、環境があることと、それが活かされているかは別な話です。今回、堺市立医療センタで起きた医療ミスは、手術のミス、投薬のミスなどというお決まりのミスではなく、医師の怠慢、基本動作の欠如という人為的ミス事件でした。

発見が遅れた患者は死亡してしまいましたが、医療機関の情報共有は生死に関わるクリティカルなものであることから、他の業界業種以上に関係者のプロ意識向上が望まれます。

《経緯》

①腹部違和感を覚えた女性が同センタを受診した

②主治医は胃カメラ検査を循環器内科医に依頼した

③循環器内科医は胃カメラ検査を実施し、採取した組織を生検に回した

④循環器内科医はカルテに良性と読み取れる所見を書いていた(主治医の主張)

⑤組織を調べた病理医は胃がんと判断し、カルテに記載した
(カルテとは別の検査報告書だったため、見落としたとする報道あり。しかし検査オーダを出したものがどうなったかを確認するのがプロの仕事。理由にはならない)

主治医は生検の検査結果を確認しないまま、胃カメラ検査を担当した医師の所見を見て患者に貧血・胃潰瘍と説明した

⑦受診・検査後7ヵ月経ち、女性は嘔吐が続いたため再受診

⑧後任の主治医がカルテ記載に気がついた

⑨治療を開始したが、女性は一年後に死亡

《原因》

電子カルテを含む堺市立医療センタの情報システムがカバーしている業務がどこまでで、部門間の機能、情報がどの様に連携しているかが不明ですが、カルテに検査欄がなく、同一画面上で参照できずに別画面を開いてみなければならない場合でも、見ようと思えば見られる仕掛けになっているのが普通です。これを前提にすれば、最初に主治医だった医師の漫然とした仕事ぶりが主要因ですが、考えられる原因は以下のとおりです。

①胃カメラによる検査を行った循環器内科医はおかしいと思ったので組織を採取し、生検を依頼したはずなのに、その後の経緯をフォローしなかった

②検査を依頼した主治医は胃カメラの写真を読影した循環器内科医の所見に組織を生検に出していることが書かれているので、その結果を見なければならなかった

③生検の結果には、がん細胞(胃がん)が見つかったと書かれていた

④7ヵ月間の経過観察期間中、カルテ、検査報告書を読み直すことなく漫然と診察していた

⑤カルテ、検査報告書を見ていれば、後任の主治医によって発見される7ヵ月前に治療が始まっていた。後任の主治医が見つけたように!

《改善策》
オーダが施行された場合には、オーダを出した医師がログインしている画面に、その旨のメッセージを表示する。これにより、不注意で参照しないというミスが防げると共に、医師の注意義務違反を問える根拠にもなります。

メッセージ応答の中の『あとで』を選択した場合でも、参照するまでは何回でも表示されるので忘れることがありません。


なお、病院側は最初の検査の段階で発見し、治療したとしても助からなかった可能性が高いステージだったとの見解を示していると報道されています。しかし、それほどの症状なら病理医に頼むまでもなく、胃カメラ検査をした循環器内科医の読影所見に書かれていなければなりません。確証を得るために病理検査に回したなら所見にもその旨書いてあるはず。主治医はそれも見逃したということになり、元々手遅れだったという病院の見解には首を傾げざるを得ません。

 

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