2007年、30周年にリリースされたアルバム「鴎30」から、5年と8ヶ月振りのアルバム。
新曲及び企画カバーの4曲(02、03、05、10)を除けばまさに集大成というか、これまでステージ等で披露しながらCD化されなかったものを網羅した、贅沢なアルバム。
ただ、この贅沢という言葉、渡辺真知子自身にもそれなりの重圧がかかりそうな言葉ではある。
何故ならこの35周年のアルバムはデビュー以来在籍していたソニーミュージックレコーズ(最終的な所属はソニーミュージックダイレクト)から離れ、自社レーベル(Kamome Mucic)を立ち上げての第一弾。やりたいことが出来る反面、コストは自分持ちという現実もあるからだ。
01「かもめが翔んだ日」
自社名にすら入れてしまったように、もはやもう切り離せなくなってしまった感のある作品。
編曲の藤野浩一とこれまで定期的にやってきたオーケストラコンサートでのバージョンをCD化した形。 申し訳ないが、アレンジ云々という以前に、すでに食傷気味である。昔(デビュー当時)より今の歌い方のほうが好きという方もいるようで、そういう方にはアリなのかもしれないが正直なところ、リ・アレンジしてCD化するのはもう考えた方がよさそうだ。
02「愛(いのち)のゆくえ」
出だしのメロディーを聴いて、「あれっ?どこかで聴いたことがあるような・・・」と思った方は10年位前(デビュー25周年の頃)のライブに頻繁に足を運んでいた熱心なファンかもしれない。
当時、2~3度ライブで歌われてそれっきりお蔵入りしていた作品のAメロ部分だけがこの新曲に使われている。お蔵入りしていた曲も決して悪くはなかったので、それはそれとして世に出して欲しかったなあという気もする。
昨年の震災を念頭に作られたこの新曲は、渡辺真知子らしくグイグイ引っ張っていくような強引さが頼もしい。こういったストレートで前向きな感情表現は好き嫌いが分かれるところかもしれないが、この作品に関してはこういう表現スタンスもありではないかと思っている。全ての人が一様にとはいかないが、この前向きさ、力強さに勇気づけられることもあるのではないだろうか。勿論、言葉を投げ掛ける側の真摯な態度と人柄が受け入れられることが前提ではあるが。
ただ、一つだけ、2番の歌詞に出てくる「たられば繰り返す夜は・・・」の「たられば」がどうも気になる。
唐突に出てくるこの「たられば」は便利な言葉ではあるが、私には“大雑把な省略語”のイメージが強い。この歌詞の内容としては直接的すぎるというか、品が無いというか、繊細さが感じられない。言葉の選択として少し安直ではなかったか?「後悔の念」を表す別の言葉を模索すべきではなかったろうか。
03「腕の中のスマイル」
故尾崎紀世彦とのデュエットの約束は残念ながら果たされなかったが、代役として一肌脱いだのがスタレビの根本要。かつての渡辺真知子バンドのバンマス&キーボーディストであり、それ以降もレコーディングやステージで繋がりの深い光田健一がスタレビに在籍していたこともあり、すんなり決まったのかと思いきや、実際は意外と遠回りしての結論だったようだ。
若干の歌詞の手直しはあったようだが、まるで当初から根本要をパートナーに想定していたかのような2人の馴染み具合には驚かされる。元々、2人ともいわゆる「美声」とは少し違った声のタイプ、ある意味声質も含め「似ている・近い」と思っていたので、同じタイプの掛け合わせは果たしてどうなのか?興味津々であったが、特に根本要の声質と作品イメージが違和感なく、しっくりしている。むしろ渡辺真知子の声より合っているかも、と感じるほど。
ちなみに、アクが強くてデュエット不向きでは?と思われている渡辺真知子だが、実際のライブでこれまで聴いた「EPO」「アルベルト城間(ディアマンテス)」「尾崎紀世彦」らとのデュエットはいずれもが極上のそれで、渡辺真知子の寄り添うようなユニゾン、グッと支えるような低音部でのハモり。これらはTV等では味わえない、ライブでこその魅力。根本要とのデュエットも(実現すれば)ライブではCD以上に迫力を増すこと間違いなしだろう。
この作品も歌詞に関して気になる箇所がある。2番の冒頭「本当の強さは強いほどやさしさが違う 見えないくらい」の一文で、言わんとしていることは分かるのだが、少し分かりずらい。「強さ・強い」のダブりも気になるし、これも別の表現があったのでは?と感じる。
余談だが、先日の35周年の渋谷のライブMCでは――BSの歌番組で共演した鈴木雅之にそれとなくデュエットの誘いをかけたところ、鈴木雅之は番組MCの大友康平に向かって「キミ、お相手して差し上げなさい」――うまいこと逃げられた(断られた?)という裏話を明かして客席の笑いを誘っていた。
04「ブルー」
20周年の頃に光田健一アレンジで録音していたアカペラ多重録音の、まさに蔵出しの「ブルー」。
よって、40歳前半の渡辺真知子のコーラスに今現在の渡辺真知子のボーカルが乗っていることになる。
当時、夜中遅くまでかかって録音したというこのバージョン。何度重ねたか分からないという程、凝ったこの音源からはコーラス好きの、まるでアマチュアシンガーが純粋に音を楽しんでいるかのような情景が浮かぶ。いつまでも尽きない旺盛で貪欲な好奇心が渡辺真知子の音楽人生を支えているのだろうなあ。
05「あたしだって」
一青窈のアルバム「一青十色」に収録された、いわば提供作品のカバーとなる。作詞は一青窈。
今回このアルバムに収録された新作(曲を書いた3曲)の中では間違いなく一番の出来。言葉に無理なく自然にメロディーが乗り、力の抜けた、それでいて印象に残る歌詞とサビメロ。
まあ、渡辺真知子の「真骨頂」とは言わないまでも、メロディーメーカーとしての才能もまだまだ捨てたもんじゃないというのは証明出来ただろう。
渡辺真知子のこれまでの提供作品は以前紹介したように、そのキャリアに比して極端に少なく、残念なことにその出来もイマイチというものが多い。その理由の一つに歌詞の質の問題もあることにも言及したが、それらとは対照的にこの作品で渡辺真知子のメロディーラインを引き出したのは間違いなく、一青窈の書いた良質な歌詞である。調べた限り作曲はせず作詞のみを手掛けているということと、数曲のヒットソングの情報以外に、その能力について語れるほど一青窈を知っている訳ではないが、全ての歌詞を手掛けていることからも歌詞(言葉)に対するこだわりも持っているようだし、何よりメロディーが付けやすい歌詞を書けるという作詞家としての一つの重要な才能を持ち合わせているのは間違いない。
渡辺真知子バージョンは一青窈オリジナルバージョンに比べてかなりテンポを落として歌っている。
遊び心も感じられる歌詞ときっちり生真面目なメロディー。それをさらりと歌う作詞者、噛みしめるように歌う作曲者。それぞれのバージョンの聴き比べも面白い。
レコーディングでは編曲、Pfの石塚まみ、渡辺真知子2人とも偶然にも「蘇州夜曲」のようなイメージを描いていたそうで、実際ピアノのニュアンスがなるほどと思わせる。
ただ、歌い方でどうにも気になることがある。それは後半以降の感情を入れすぎた歌い方。
ライブではいざ知らず、CDでのこの歌い方はさすがにちょっと「くどい、やり過ぎ」としか思えない。渡辺真知子本人は当然これで良しと思って歌っているのだろうから、結局Co-プロデューサー兼ディレクター中山千恵子の判断の範疇になるだろうが、客観的にみて本当にこれでいいと思ったのだろうか?良い作品なだけにもう少しさらりと抑えめに歌って欲しかった。
つづく
01 かもめが翔んだ日 (詞:伊藤アキラ 曲:渡辺真知子 編曲:船山基紀、藤野浩一)
02 愛(いのち)のゆくえ (詞、曲:渡辺真知子 編曲:光田健一)
03 腕の中のスマイル (詞、曲:渡辺真知子 編曲:光田健一)
04 ブルー (詞、曲:渡辺真知子 編曲:光田健一)
05 あたしだって (詞:一青窈 曲:渡辺真知子 編曲:石塚真美)
06 Smile
07 Amazing Grace
08 展覧会の絵 (編曲:奥慶一、藤野浩一)
09 歌って歌って恋をして (詞、曲:渡辺真知子 編曲:服部克久)
ボーナストラック
10 横須賀ストーリー (詞:阿木耀子 曲:宇崎竜童 編曲:青木タイセイ)
Producer:渡辺真知子
Co-Producer&Director:中山千恵子
Recorded and Mixed by:鈴木英治、伊東俊郎
Mastered by:鈴江真智子