以前から興味があったこちらの本を読みました.
読む前には,コストと学歴の関係についてデータに裏付けされた様々な主張が書かれているのではと期待していたのですが,その点については期待外れでした.「中学受験をすることによる大学受験への影響は偏差値数ポイント程度」という主張が中盤あたりに書かれており,これについてはデータを使ってある程度納得感がある議論をしているのですが,それ以外の大部分は基本的に著者の経験などからくる教育観を書いているだけです.もっと客観的な議論を期待していた私には,少し期待外れでした.
ただ,著者の教育観自体は,私には共感できるものが多かったです.これは,著者のバックグラウンドが私自身と似ていることが理由かもしれません.著者は元々理系の研究者で,日本で学部を卒業後,海外の大学でPh.D.をとったという経歴の持ち主です.
日本の大学は学部で考えるとコスパがよい.特に理系は,世界中でほぼカリキュラムが同じなので,安く日本語で学べる点で利点がある.海外では優秀な大学院生は奨学金がもらえるので,日本の大学で学部を卒業した後,海外大学でPh.D.をとるのが効率がよいなど,本書に書かれている相場観は,理系の研究者にとってはわりと共通認識ではないかと思います.
他にも,大学間の競争がないため,日本の大学受験は身分制度を決める科挙のようになっている.日本の学校で英語の基礎を学んだ後,海外経験をするほうが英語習得にはよい.ただし,英語の発音は変な癖がつく前にちゃんと勉強した方がよい.プログラミングの早期教育はいらないなどの主張が本書には並びます.これらの主張の裏付けはないものの,個人的にはわりと納得できます.
というわけで,本書に共感は大いにできるのですが,私の期待していた内容とは少し違いました.まあ,これはしょうがないかもしれません.巷には教育論と名の付く主張が掃いて捨てるほど現れるのが世の常ですが,それらはほとんどすべて個人の信念に基づいたものばかりで,データの裏付けはほとんどありません.データをとるのが難しいという事情もあるでしょう.本書は,データに基づいた主張が一つあるだけでもましな方かもしれません.