　　第８１回ネット会は、４２名の参加となり、２０４句の投句を頂きました。

【講師選】
《永田萬徳》
【特選】
13 その愚痴もこれで三度目目借時　　一葉２
　※「目借時」とは「蛙の目借時」の略語。春の暖かさに釣られて、うつらうつらと眠くたくなる。俗に蛙に目をかりられるからという。
掲句は同じ「愚痴を」を一度ならず、三度目も聞いて、食傷気味なのであることを「目借時」という季語に託して表現したところがいい。答えは季語に語らせるという、俳句の基本を踏まえた句である。

【並選】４句
11 市電にも投句箱あり虚子忌かな　　和１
44 花曇ホットミルクに薄き膜　　　　昼顔３
46 ぱちぱちと時にめらめら野火走る　栄太郎５
192 野遊や棒投げて犬それを取る　　亜仁子４

《歌代美遥》
【特選】
180 磨崖仏訪ねる道や花曇　　寛昭４

　※磨崖仏は、自然の懸崖や大岩を彫刻し仏像を陰刻や浮彫りに表したものです。
インドや中国などでは、古くから造られて優れた遺例が多いです。平安時代後期に造られた大谷石仏などの遺例が、栃木にあります
作者は、桜狩も兼ねて磨崖仏を訪ねたのでしょう
桜が咲く頃は曇天が多いが、桜の明るさが曇天さえもどこか艶めく明るさを感じます。
花曇の季語の持つ愁がちな気分を覚える人もまた多いです。大きな磨崖仏を訪ねる信仰心と花曇と響き合いが、崖下から崖上への瞬間瞬間の鳥の囀りや、美しく咲く野草にも心を奪われて、作者は思わず心を粛然とされる情緒が伝わります

【並選】４句

32　愛猫の舌に起こされ目借時   滿５
76   虚子の忌や頭から食ふ鳩サブレ   房子４
111   拾はれて杖となる棒春の虹　　   慢鱚１
157   鉄棒に廻る青空花吹雪   　　ちはる４

【互選三賞】
（天賞　　１２点　　１句）
44   花曇ホットミルクに薄き膜　   昼顔３
　＊花曇りの日は居間でホットミルクでも。。。薄く張った膜に思わず見とれます（白士）
　＊取り合わせがもっともそれらしい感じである。（隆司）

（地賞　　１１点　　１句）
36   花ぐもり蕎麦一枚と酒二合   祐１
　＊好きな句です｡花見の帰りにふらり寄った蕎麦屋での情景が見える上手い｡（房子）
　＊花ぐもりの持つ陰影と蕎麦一枚とお酒2合の塩梅がぴったりだと思いました。静かに美しいひとりの時間ですね。（秋子）
　＊花見は一人静かに蕎麦と日本酒、それにつきます。（正人）
（人賞　　９点、８点　　３句）
76   虚子の忌や頭から食ふ鳩サブレ   房子４
　＊虚子は鳩サブレを頭から齧りそう。（明寿）
11   市電にも投句箱あり虚子忌かな   和１
　＊私も乗りたいその市電（杳杳）
110   児に乳首含ませしまま目借時   　　常住２
　＊今じゃ見られぬよか昔の景色、懐かしいでんなア。（かつじ）

【入選句】
（７点句　　２句）
32   愛猫の舌に起こされ目借時   滿５
157   鉄棒に廻る青空花吹雪   ちはる４
　＊青空が廻るの意外性は素晴らしいです。（満）
　＊回転する青空に舞う花吹雪私も見たい（南海雄）

（６点句　　３句）
13   その愚痴もこれで三度目目借時   一葉２
52   花曇横切る母のスクーター   　ゐるす１
　＊働き者のお母さんを見守る息子の姿を想像する（しどみ）
　＊おそらく高齢の母の元気な行動に、曇っているけど明るい景がマッチしています（寒太郎）

180   磨崖仏訪ぬる道や花曇   　　寛昭４

（５点句　　４句）
9   さくら花知覧に消えて曇りけり   享２
　＊桜、知覧、消える、曇る、と全てが特攻の悲劇と結びつき、哀感極まる一編の詩となっている。（姫）
　＊戦争が終わって間もなく70年。知覧で散っていった若い桜花の歴史。語り継がなければならない特攻隊の悲惨。私たちが誓った＜戦争は二度と繰り返さない＞という思いとは裏腹に世の中はキナ臭い好戦化に向かっているように思います。（裕）

26   ボールペン転がり落ちる目借時   正則２
58   芽吹き山塔に心棒あるごとく   　　隆司４
　＊芽吹きの秘めた力強さを感じます（秋穂）
88   吾が書きし文字を解読目借時   　　浮游子２
　＊何時も書きなぐる癖のある自身です。いざと云う段になり、自分でも読み取れずおろおろします。やがて眠くなってしまい、目借時との季語が効いている。（栄太郎）

（４点句　　１０句）
1   D51の喘ぐスチーム山笑う   　　　一路５
19   パソコンに＃（ハッシュ）の羅列目借時   昼顔１
　＊＃（ハッシュ）に注目したのが新しいです。よく見ると蛙に似てますね。（雅美）
46   ぱちぱちと時にめらめら野火走る   　栄太郎５
57   花冷を標となして虚子忌かな   　　直３
　＊今年の特徴（らら）
64   季重なりの気づかぬ投句目借時   慢鱚５
　＊俳句への愛ゆえ、ついやってしまいがちで実感がこもります。（夜亜舎）

83   月に影地球に戦禍花曇   　　　一葉１
91   厚化粧落とす女の目借り時   　しどみ１
　＊春の昼公演が終わった旅役者の景。「女や目借時」では如何であろうか。（浮游子）
111   拾はれて杖となる棒春の虹　　   慢鱚１
188   目借時「ひるのいこい」の流る居間   ひろし２
　＊確かに納得の行く句です。流れる曲を聴いてると眠くなります。（寛昭）
　＊確かにあの音楽は（常住)

189   目借時阿吽の仲の理髪店   　　　　寛昭１

（３点句　　１０句）
24   ぱちぱちと顧みる棋譜春暑し   ひろし５
　＊対局後のまだ冷めやらぬ熱気が　　碁盤を漂っている。（迪夫
）
33   一人居のボレロ流るる目借時   寛昭２
50   花曇ルーペで読みし正誤表   秋子３
51   花の宴藪から棒の恋談義   　　和５
70   虚子の忌や空へ名乗りを上ぐる樹々   隆司３

71   花びらの表裏つぶさに視る虚子忌   迪夫３
109   指揮棒の一閃するや花の舞   祐５
　＊指揮棒の一閃が、桜の花が舞い散る美しさを際立たせている。特に、「一閃」という措辞が良い。（直）
129   終はり無き通院帰路の花曇り   　常住１
　＊終はり無き通院と季語の取り合わせがとても素晴らしいと思います。作者の憂鬱な心情を季語が表していると思います。(一路）

145   大阿蘇の雲動かざる虚子忌かな   満徳５
　＊大虚子と呼ばれた虚子に相応しい景の大きな句。（ひさを）
152   花曇千鳥ヶ淵に眠る父   　　　らら１

（２点句　　２４句）
2   いつよりか五人囃子にマッチ棒   正則３
15   チーム毎にドレスコードや花宴   姫４
16   つばくらのチーム只今点呼中   　　滿３
　＊チームとしたことで点呼中の親鳥と雛の様子が微笑ましく、雛の大きさも飛べる程度に育っているのが分かります。（慢鱚）

29   ミセスグリーンの五時限目とや目借時   秋子５
43   花曇トレンチの襟五分立てて   　　秋子１
　＊トレンチをさりげなく着こなすちょい悪の翳りのある大人の男性を想像しました。フランス映画のワンシーンのようでしびれました｡（ちはる）

54   ぱちぱちと弾く算盤植木市   正則４
81   花吹雪靴下脱いで登り棒   　　杳杳１
　＊つるつるした登り棒に裸足でとりつく。校庭の周囲の桜は花びらを散らしている。そんな景がよく見える句である。（ひろし）
95   棒切れで指し示したる春の山   満徳２
126   新社員今日より君もワンチーム   正則５
128   人生を棒にふる兄鳥雲に   　　夜亜舎３

133   相棒は白髪の夫春深し   しどみ４
142   退職の身を持て余す花曇   　一路１
151   椿寿忌や草はゆつくり呼吸して   千里３
153   花曇朝は泣きたくなる時間   雄介１
　＊【朝は泣きたくなる時間】という基底部と季語の取り合わせが良いと思います。朝は泣きたくなることの原因は何か、読者を色々と考えさせるわけです。
春は朝寝をしたい気持ちになり、早起きは大変になるわけです。曇り空であれば、このような気分が募るわけです。（亜仁子）

161   東京駅棒立ちとなる新社員   昼顔２
　＊巨大ターミナル東京駅。時期を問わず、迷う人・乗り遅れる人など棒立ちしてしまう人は多いはず。でも、季語の「新社員」が効いてますね！就職のために上京されたのでしょうか？初めての通勤電車でしょうか？はたまたなれない地への出張でしょうか？いろいろ読めて、かつ光景も人物描写も立っています！迷うことなく、この句を特選とさせていただきました！（青橙）

162   闘病の永き一日目借時   　　秋穂２
　＊閉じ込められての一日、しかも闘病となると数日とはいかず長き辛い思いが...（享）
173   坊さんに棒で叩かる目借時   かつじ３
　＊発想が素晴らしい。季語がメインになっている。（千里）
178   棒読みの新米教師入学式   　　青橙５
　＊先生も一年生なのですね。（正則）
179   摩る墨の香の立ち上がり花曇   秋子４
181   万象を美しき言葉に虚子忌来る   ゐるす３
　＊花鳥諷詠という俳句の基本理念を唱えた虚子。四季折々の景色を美しい言葉にして詠むという、虚子の姿勢に寄り添った句である（昼顔

192   野遊や棒投げて犬それを取る   　亜仁子４
196   養天花家を丸ごと吊る重機   ちはる１
198   嵐電のがうがうとゆく花曇   祐４
　＊がうがう　という音がとても良いと思いました。（雄介）
205   爛漫といへど愁ひや花ぐもり   栄太郎１
　＊華やかな花のなかにふっとよぎる不安やさみしさがうかがえる。愁いと花曇りが重なっているのは気になるが気持ちが伝わってきます。（梢楓）

（１点句　　４４句）
5   うとうととバス乗り過ごす目借時   　ゐるす２
6   チームより選手に惚れてうららけし   姫５
7   クッキーを紅茶に浸す目借り時   　雅美２
18   パシュートのチームとなるや雁帰る   常住５
23   うまい棒やるから泣くな犬ぶくり   　ゐるす４

25   パチパチや顔赤らむる新社員   　　迪夫５
27   ポンヌフもセーヌも今朝の花曇   祐２
31   ぱちぱちと片目で合図春ショール   和３
37   花曇ああとうんとの間の合ひて   杳杳２
40   ぱちぱちと算盤弾く事始   　　　　正人４

41   花曇り筑波二峰の空碧く   　　　和４
45   花曇り外れ馬券の吹雪かな   　南海雄３
59   会議などどうでもいいや目借時   かつじ４
61   鎌倉にジェラートを買ふ虚子忌かな   寛昭５
65   起きてから何をしてたか目借時   寒太郎２

73   花曇街を見下す涅槃像   　　　しどみ２
78   花曇街に一軒染の店   隆司１
82   啓蟄やチームワークを説く教師   正人５
84   犬も吾も同じ寝姿目借時   　　　ひさを２
86   古火鉢小魚泳ぎ花曇   　　　　　夜亜舎５

87   午後二時の免許講習目借時   　一路２
89   誤字踊る訴状受けとる目借時   　夜亜舎４
94   棒手振りやゆらりゆられて針魚くる   寒太郎３
100   坂道を下りれば虚子忌由比ヶ浜   享５
105   仕事辞め夜更かしやめて花曇   　　寒太郎１

112   冬神楽のかがり火ぱちぱちはぜる音   梢楓５
113   目借時句帖はずっと白いまま   　　千里４
114   目借時君の声すら遠のきつ   　　白士４
123   棒鱈を煮る母の背の丸さかな   　　一路３
125   新社員に情け無用の棒グラフ   　　一葉４

127   新入生一人むかへし新チ一ム   　　南海雄２
131   石庭の白砂泳ぐ虚子忌なり   　　明寿２
132   絶妙なチームプレイや春疾風   　　ゐるす５
134   送金を踏みとどまれり目借時   　　慢鱚４
139   卒業式チームも今日で終わりです   雅美５

149   長靴の泥田に抜けず目借時   享４
155   吊橋の揺れに任せる花曇   　　満徳３
160   講義室ビッシリみな目借時   梢楓１
168   扉絵の中の王国目借時   　　明寿１
183   ぱちぱちの音も呑気や春火鉢   常住４

184   綿あめの空に溶けをり花曇   昼顔４
195   養花天限界村のオーベルジュ   ひろし１
200   流木を足せばぱちぱち磯焚火   房子３
203   老年の野球のチーム飛花落花   ひさを４

（以上）

【個人別　高得点者】（合計点ーー入選句数）

昼顔　   19点　　４句
祐　   17点　　４句
寛昭   14点　　４句
和　   13点　　４句
常住   13点　　４句

ゐるす   11点　　５句
一葉    　11点　　３句
正則    　11点　　４句
房子   　 10点　　２句
ちはる   9点　　２句
秋子    　9点　　４句
慢鱚    　9点　　３句
隆司    　9点　　３句
滿   　　9点　　２句

（以上）

ご健吟の皆さん、おめでとうございます。

（今回の参加者４２名）（順不同、敬称略）
永田満徳（講師選）、歌代美遙（講師選）、
上野梢楓、岩永靜代（昼顔）、小倉正人、佐竹康志（夜亜舎）、浮游子
いわきりかつじ、江口秋子、松原白士、中村秋穂、江村享
祐（牧内登志雄）、貴田雄介、塚本南海雄、森川雅美、とばやまちはる熊谷房子、林宏尚(常住)、澤迪夫藤、荒一葉、美空らら、
寺嶋法子/杳杳、姫、野島正則、慢鱚、長谷川ひろし、
茂木ひさを、水越千里、本田しどみ、青橙（たかはし）、辻井市郎(一路）
大津留　直、桑本栄太郎、ゐるす、岩根泰彦（寒太郎）、古閑寛昭
山下明寿、亜仁子、武藤隆司、滿/杉山満、北野和良、

集計には慎重を期しましたが、投句、選句、選評などにコピーの誤りがあるやも知れません。
集計につき疑義があればご連絡下さい。
また整理方法につきご意見があればご遠慮無くお知らせ下さい。
・またExcelシートはこちらに保管されています。（Excelが必要です）
⇒http://ocha.g1.xrea.com/haiku/daigaku_net_kukai.html

■ 第８１回ネット句会 （２０２４年４月）結果発表

■　第８１回ネット句会　（２０２４年４月）結果発表