「私の男」桜庭一樹
(Story)
北の海から、秘密を背負って逃げてきた、父と娘。
腐野花は嫁ぐ日を目の前にして、養父の淳悟との今までのことを思いめぐらす。
アルバムをさかのぼるように、二人と、二人の人生に触れた人の記憶と感情にふれるうちに、分かってくるのは全てを奪い合って、全てを与え合った二人のことだった・・・。
桜庭一樹の直木賞受賞作。
すごい。すごかった。
読後の感想は、まず、この一言に尽きる。
近親相姦という禁忌など、この物語の一つのフックでしかないと、読み始めるとすぐに思い知らされる。それほど、腐野花と養父淳悟の人生が、津波のように圧倒的な怖さと少しの切なさで迫りくる。
嫌悪感を覚える二人の行動とは裏腹に、物語の展開よりも、二人の奥底に流れているものが何かを知りたくて読者を放さない筆者の力にただただ感服です。
直木賞受賞、大納得。
花が結婚をし、サムシングオールドで古いカメラを送られ、新婚旅行から帰宅し、淳悟がいなくなったことを知る第1章。
そして、物語は2005年の第2章、2000年7月の第3章、2000年1月の第4章、そして、花と淳悟がであった頃の第5章と、時間軸をさかのぼっていく。
最初の第1章は、狭いアパートから感じられるその濃密な空気は、そのにおいすらも漂ってくるようで、目をそらしたくなるほど。
そのアパートの押入れに入っているものは何なのか、古いカメラに映っているものは何なのか。
疑問に対する答えはぼんやりとであるが、すぐに分かる。
読み進めたくなるのは、謎解きの面白さではないのだ。
知りたいのはそれぞれの事件が起こった「理由」よりも、花と淳悟の関係の根底に流れるものなのかもしれない。
読後感は決してよくない。
それでも、最後まで読んでしまうと、今度は、時間軸どおりに、最後から読み返したくなる。
不思議な力をもつ一冊。桜庭一樹のほかの作品も読みたくなった。
誰にも共感できない。何一つ分かりたくもない。
けれども、全てを奪い合い、全てを与え合った二人の関係は、圧倒的に許せなくて、少しだけうらやましくもある。
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