②命とはじまった新しい形の家族(前半)
彼と出会ったのは、私が17歳のときだった。彼は24歳。家庭環境の話をするうちに、自然と心が近づいていった。互いに、似たような境遇で育っていた。親に甘えた記憶も、守られた安心感もあまりないまま大人になった私たちは、どこかで“自分たちで新しい家族を作りたい”と強く願っていたのかもしれない。出会って間もなく、私たちは親元を離れ、同棲を始めた。アパートの家賃は安く、家具も最低限。それでも、ふたりで貯金をしながら、「いつか結婚式をしよう」「新婚旅行はどこに行こう」「子どもができたら、こんな名前がいいね」まだ見ぬ命に思いを馳せる毎日は、とても穏やかで幸せだった。同棲を始めて1年が過ぎた頃、私の体に新しい命が宿った。けれど、最初の命は、私たちのもとには残らなかった。──私たちが失った命は、自然な別れではなかった。母に妊娠を告げたとき、激しい怒りが私を包んだ。「なぜそんなことをしたのか」「生むなんて絶対に許さない」母は感情のままに、私と彼を否定し、彼の母にまで怒りをぶつけた。中絶を迫られたが、私は首を縦に振らなかった。どんなに怒鳴られても、命を守りたいと思った。すると母は、私を階段の上から蹴り落とした。その瞬間の衝撃も、落ちていく最中の恐怖も、今でも鮮明に覚えている。病院で医師から「お腹の赤ちゃんは…」と告げられたとき、何もかもが静かになった。耳に届く声が、まるで遠くの出来事のようだった。私の中にいた命は、母の怒りと暴力の中で失われた。身体の痛みよりも、心に残った傷の方がずっと深かった。母の怒りはとどまることを知らなかった。どれだけ説明しても、想いを伝えても、母の中に私の選択を受け入れる余地はなかった。初めて手にした母子手帳。その重みと喜びを抱えながら帰った私に、母は無言のままそれを奪い取り、目の前で破り捨てた。ただの冊子かもしれない。でも、私にとっては、命の証であり、母になることの第一歩だった。破られたのは紙だけじゃない。大切なものを守ろうとする私の心ごと、引き裂かれたように感じた。それでも彼と生きていきたいと伝えると、母は私に言った。「この先一緒になるなら、もう娘じゃない。縁を切る。」その言葉に涙は出なかった。驚きよりも、ようやく本心を聞けたような静けさが胸に広がっていた